episode 160
家に帰ってからは、そわそわと落ち着かなかった。
「今日はほんとに目まぐるしい一日だったな」
右手の薬指を見ると、今日あったことが現実だとわかる。実を言えば、仕事している間中、気恥ずかしいのもあり、肩身の狭い思いもありで、何度指輪を外そうか外したいと思ったことか。けれど、外したら外したで、なにか言われるだろうかと思い、ぐるぐるしながら仕事をしていたのだ。
「……なんか、まだ信じられない」
別れを覚悟した心とは、正反対の結果。プロポーズとして受け取ってくれと言われたリングは、家に帰ってもまだ、キラキラとその輝きを保っている。
「サイズ、ピッタリなんだけど……なんで?」
しかも、名古屋に来るために会社を設立。意味がわからなかった。
その時、スマホに着信音。どきりと心臓が跳ねた。もちろんオンラインにする。
「もしもし」
『壱花ちゃん? 今日はびっくりさせてごめん! 引越しの件とか辞めることとか、驚かせてしまったね。今住んでるとこ住所送っといたけど、あ! 忘れてた。会社の住所も送らなきゃ……はい送信っと』
なにから話したらいい? たくさん話したいことはある。けれど、まずはジェインの顔色を見た。
「体調はどうですか? 元気そうには見えますけど……」
『会社立ち上げで結構忙しかったけど、ようやく落ち着いたかな。SOT辞めることとか引越しとか、言わなくてほんとごめん』
「……いえ、なにか事情があるんだろうなって思っていましたから……」
『うん。まあ俺が辞任するとか、新会社を立ち上げるとかっていう噂が上がっちゃうとSOTや関連会社の株価にも影響が出るからね。壱花ちゃんには言っても差し支えはなかったんだけど……』
ふうっと息をつき、そして全身の力を抜いたように見えた。リラックスしている。
『壱花ちゃん、君は本当に良い子だ。だから、もし他の社員に俺のことなにか知ってる? って聞かれた時に、君に嘘をつかせたくなかったから』




