episode 159
ざわついた。
ええ!!! ぎゃー!!
だが、二度目のそれは悲鳴に近い。女性陣からは、
「ねえどういうこと⁉︎ 柊さんに会うために名古屋で起業したってこと⁉︎」
「嘘でしょ!いやああぁぁ」
「なんであんな子が!」
そして、男性陣からも。
「あの子がジェインCEOの恋人ってこと? マジ信じらんねえけど」
「釣り合わねー」
「なんであの子なの。地味だしダサもっさりだし全然可愛くない……」
あまりにも嫉妬心が噴出、それが渦巻いていって、大騒ぎに。そして、とうとう壱花がディスられ始めた。
その声は、もちろん当のジェインにも、そして壱花の耳にも入ってきている。居心地の悪い思いがした。
だが、ジェインはそんなことは関係ないとでもいうように、さらに続けた。
「本当は左の薬指にはめたかったんだけど、それは返事をもらってからじゃないといけないからね。でも結婚して欲しいという気持ちは変わらないから。次はダイヤを用意するけど、これプロポーズと思ってくれていいから」
さらに、ぎゃーという声が響き渡る。
「まさか公開プロポーズとはな! まったく、お前にはついていけねえわ」
玉田がモニターの中から揶揄する。
「なんであんな魅力のかけらもない子なのよ……」
諦めきれないのだろう、女性陣からまだ不満の声がする。
「ほんとそれ! ジェインCEO、なんか弱み握られてるか騙されてるんじゃないの?」
そんな声に我慢ならなかったのか。
「おい! いい加減にしろよ。壱花はそんな子じゃない。あんたたちと違って優しくて素敵な女性なんだよ」と、和田 弥一が言い放った。その援護射撃に、不満を口々にしていた女性陣は、むっとしたように口を噤んだ。反論はできない。なんせ弥一は今では営業部一のエースでありハイスペということもありで、狙っている女子は多いからだ。どうやら女性陣はみな、『あんたたち』の中に入りたくないようだ。
「ジェインさ、ん」
壱花は驚きの中にあった。それでもなんとか声を発して、ようやくその名前を呼べた。胸がいっぱいだった。その先の言葉はここでは出なかったが、返事は心の中では決まっている。
ジェインは握っていた手を離し、そして皆に改めて「お騒がせしてすみません! では皆さん、お互いに頑張りましょう!」と挨拶をすると、
「じゃあまた後で連絡するからね。返事もその時で!」
ウィンクしそう言い残して、ジェインは嬉しそうに尻尾を振りながら去っていった。
その後、もちろん壱花は、あちこちから質問責めと好奇の眼差しの的となる。もう一度、壱花を見ようと、広報部にも人が殺到したほどだ。
壱花は、いつもより縮こまってなんとか一日をやり過ごし、そしてその日をなんとか終えて、無事に帰宅したのだった。




