episode 158
「ねえねえ私、ジェインさんのところに転職しようかな」
「なに言ってんの! あんた企画なんてできないでしょ? その点、私なら……」
ジェインが動いた。
「皆さん、自分の今いる庭で実力を発揮できるよう、頑張りましょう!」
釘をさす。そして。
「私ごとで恐縮だが、社員1人だけ連れていってもいいかな? もちろん、玉田にも了承は取ってあるが。な? 玉田!」
そして、営業部の人垣を分け、ジェインが進む。総務部、秘書課と、どんどんと歩んでいく。
「柊 壱花さん」
壱花の前へと進み出た。終始俯いていた壱花だったが、さすがに顔を上げた。
「じ、ジェイン、さ、ん」
「君に毎日会うために、名古屋に新しい会社を作ってしまったよ」
ええ!!!
驚きの声が上がる。それによって、一気にざわざわっと騒がしくなった。
「な、名古屋に……かい、会社を?」
「そうだよ。それで君をヘッドハンティングしに来た」
秘書課から、嘘でしょ⁉︎ やめてよ! の声。
「わわわ私……ですか……」
「うん。企画の立案には設計図が必要だからね。その設計図をイラストで書いたらどうだろうという話なんだよ。そのままプレゼンにも使えるし、まだどこもそんなプレゼンやってないからね。インパクトが強いし、中身を理解してもらいやすいという利点もある。一度やってみたいんだ。君のイラストの才能を俺の会社のために使ってくれないか?」
「え、っと……は、はい!」
自分が採用されるとは、俄には信じられないことだった。が、ジェインのこの言葉は壱花の中で、芽吹き、蕾にまでに育っていた花を、見事に開花させてくれた。
以前までの自信のない壱花はもうどこにもいない。ジェインによって引っ張り上げられた自信は、壱花自身が強く強く確かなものにしていた。
「ありがとうございます」
先ほどとは違う涙が溢れてきた。それを手で拭う。
「こちらこそ!」
ジェインが満面の笑みで、右手を差し出してきた。握手。壱花も慌てて右手を出す。
すると、どこに持っていたのだろうか。壱花の右手を握り返すと、そのまま手に持っていた指輪を、壱花の薬指にするりとはめた。
「え、え?」
壱花がリングを二度見する。シルバーにブルーの宝石がついたシンプルなデザイン。その宝石はタンザナイト。壱花の誕生石だ。リングは部屋の明かりを含み、キラキラと輝いている。
「はい。これプレゼント。壱花ちゃんの誕生日までに起業できて良かったあ〜」




