episode 157
ジェインとの懐かしく輝かしい思い出と、ジェインから注ぎ込まれた愛情は、壱花の中で次第に色褪せていってしまう。
(これで……もう、お、終わりなんだ……)
鼻の付け根がツンと痛んだ。涙を必死にこらえた。
弥一を見る。鬼の形相だ。怒っている。壱花ではなく、ジェインに対してだろう。
きっと自分が今浮かべている、幸せではない表情で、全てを察しているのかもしれない。
資本金一億の大きな会社なら、もちろん東京に本社を構えるはず。都内の引越しなら引越しのうちに入らないし。
いや、それ以前に自分とジェインの間には、遠距離恋愛の体裁すら、整わないのだ。
(泣かない)
唇を噛んで涙を堪える。
(もうこんなことでは泣かないって決めたんだから)
仕事を頑張ろう。それが今の生きがい。それしかないなら、そうすればいいだけのこと。
すると、ジェインが「もう少しだけ、ご挨拶をさせてください」と一歩前へ出てきて、深呼吸をした。
壱花はそんな姿をぼんやりとした瞳で見つめた。
(ああ、やっぱりジェインさん、かっこいいな)
けれど、もう届かない。
自分には釣り合わないということはよくわかっていた。突きつけられた現実を抱きしめたまま、壱花は視線を逸らす。俯き、握りしめていた手にはもう、力も入らない。
「私が立ち上げたJ-Planningはまだまだ駆け出したばかりで、物になるまではもう少し時間をちょうだいすることになると思います。けれど、私は設立と同時にも即戦力となるように、下準備はしてきたつもりです」
周りを見渡した。ジェインの視界の中に、壱花の姿は留めているだろうか。
「あと1ケ月、猶予をください。必ず、君たちに追いついてみせます。そして君たちをバックアップし支えることができる、そんな会社を目指します」
自信に満ち溢れた、強い言葉。
「やだぁ、めちゃくちゃカッコいー」
「ほんと! 恋人募集してないかな」
「普通にいるでしょ!」
「やだやだ2番でもいいから立候補したい!」
そして、ジェインは声色を変えてさらに続ける。
「SOTを辞めた私が言うのもなんですが、SOTは有望な会社です。近い将来、IT業界を牽引する大企業へと躍進するでしょう。安心してください。玉田がそれを必ずやり遂げるはずです。な! 玉田!」
モニターの中で苦笑い。
「そして、私は自分が立ち上げたJ-Planningもまた、業界一を目指したいと思います。お互いに切磋琢磨しましょう。君たちはできる。自信を持ってください。そして、そこにいる玉田を何度だって踏み台にしていいので、乗り越えていってください。なんならCEOを目指してくれても結構です」
はいはい降参ですよと、玉田が両手を上げる。くすくすと笑い声。そのラフなやり取りでその場が和んだ。




