episode 156
え、と一瞬にして。なに? どういうこと?
けれど、モニターには玉田しか映し出されてはいない。
その玉田の遠くを見る視線につられ、皆が振り返るとそこには。
総務入口のドアで腕組みをしながら、背をもたせかけ立っていたのは、まごうことなき、草壁ジェインだった。
「ジェインCEO!」
誰かが声を上げた。ジェインはゆっくりと身体を起こして、居住まいを直す。トラッド柄の紺色スーツの前ボタンを流れるように閉め、ネクタイを真っ直ぐにした。
そして、皆を望み見た。
「皆さん、おはようございます。この度、私はSOTを辞職し、新しい会社を設立しました。もう皆さんのCEOではないけれど、これからも肩を組み力を合わせながら業界一位を目指す仲間として、よろしくお付き合いください。J-PlanningのCEO、草壁ジェインです。以後よろしくお願いします」
ざわざわと驚きを口々にしていく。
「ええぇーそういうことか」
「CEOすげーな」
誰かがいの一番にネットで調べたのだろう。ひそやかな声で感嘆の声を上げた。
「資本金一億だとよ」
「マジか! いったいどうやって調達したんだよ!」
あちらこちらでヒソヒソと声がする。
「嘘ぉ、ジェインCEOかっこよすぎてしぬぅ」
「自分で会社立ち上げだなんで、ハイスペすぎる!」
「凄いよね。あー付き合いたい!」
「私も! もう大好き!」
男からは羨望、女からは好意的な眼差しで注目を集めている。
そして当の壱花といえば、何が何だかわからなくなってしまって混乱していたが、ジェインが新しい会社を設立し、SOTと提携するということまでは理解できた。
(だから、引越し……)
ジェインを見る。しかし、ジェインは玉田が映っているモニターと集まっている社員を見回している。
だから視線は合わない。引越し、辞任、新会社設立のひとつでさえ、教えてもらえなかった。秘密にする意味を考える。行きつくのは、ひとつの解のみ。
別れ。
悲しさが込み上げてきた。
同時に愛しさも抑えきれなかった。
けれど別れという現実を前にして、壱花にはもう、なす術はない。




