episode 153
流石に今回のことは堪えた。引越しを秘密にされる理由が見つからないし、心当たりもない。まさか自分が知らない間に、海外とかに行ってしまうのではないか。
不安が押し寄せてきた。
顔に出ているのだろう、壱花の顔を覗き込むようにして、レイラが声を荒げた。
「待って待って、そんなことあるわよ! だって、もし万が一私が在宅中に壱花ちゃんが来るようなことがあったら、ちゃんと壱花ちゃんに会って、自分がジェインの姉だと伝えるようにって、念を押されたもの」
「え?」
「1ミリも勘違いされたくないからって。ジェインがあんなに真剣な顔で訴えるなんて、今までなかったから。前にそんなようなことがあったんでしょ?」
「は、はい。私が……じ、女性と一緒にいらっしゃったのを勘違いしてしまって」
「なに言ってるの。勘違いさせたジェインが悪いんだからね。壱花ちゃんはこれっぽっちも悪くない!」
レイラが両手を上げて、壱花を軽く抱きしめた。優しいハグ。そのハグで壱花の気持ちは少し楽になり、心が軽くなった。
「ありがとうございます」
「心配しないで。ジェインが真剣に付き合っているのは、壱花ちゃんだけよ」
「それがその……まだお付き合いしていなくて……私がまだ、」
Ohと両手を上げる。
「そうなのね」
「はい。それであの、すみませんが、これ……」
カバンからもう一つ紙袋を出した。リボンなどは着いていない。素朴なラッピング。
「直接手渡したかったので、今日は遠慮しようと思ったんですが、レイラさんにお会いできたので。ジェインさんに渡してもらえませんか?」
壱花の様子から、大切な物だと察したのだろう、レイラが丁寧に受け取り、そしてにこっと笑い言った。
「了解。預かるわ。私はもう少し片付けたら帰るけど、テーブルに置いておくわね」
「ありがとうございます」
礼を言って、その場を辞した。
去り際に、「壱花ちゃん、哀れなジェインを救ってやって!」と言われて、苦笑。
手を振って、レイラと別れた。
引越し。きっとなんらかの理由があるんだ。ジェインさんを信じよう。
「ジェインさんのお姉さん、素敵な女性だったな」
そして、その人が大丈夫と太鼓判を押してくれたことで繋がる安心感。
それに嬉しかった。
勘違いさせたくないとまで言ってくれて、ちゃんと手を回しておいてくれた。大切にしてもらえている。
「壱花、もう少し待っていてくれ。必ず君を幸せにしてみせる」
(ジェインさんを信じて待とう。そしてそれまで、自分ができることを頑張ろう)
心が、気持ちが、少しずつ踏み固められ、強固なものに変化していく。
壱花は新幹線で帰るために、駅へと向かう。
「渡したプレゼント、喜んでくれると嬉しいな」
見上げた夜空に、星が瞬いた。




