episode 152
むぎゅと、されるがままになっていた壱花が、この突然の行動に驚きながらも、「ジェインさんのご家族の方ですか?」と訊いた。
「姉よ!!」
がばっと後ろへ退く。
「私、レイラよ」
「初めまして。柊 壱花と言います。SOTの広報部のイラストレーターです」
「知ってるわ。こちらこそよろしく!」
ジェインの姉だと知った途端に苦しみから解放された。良かったと、ほっと胸を撫で下ろす。それだけに、いかに自分がジェインに惹かれているのかを自覚した。嫉妬で焼け焦げた部分を口にしてしまったのか、同時にほろ苦い味もした。
(ああ。もうこんなにも、ジェインさんが好きなんだ)
「申し訳ないけど、ジェインはまだ帰ってきてなくてね」
「はい」
あ、と気がついて、警備員を見る。事の次第を見て、警備員は先ほど預かった紙袋を渡してきてくれた。
「はい、これね」
「ありがとうございました」
丁寧に頭を下げて、受け取る。
「不在だとはわかっていましたので。それであの、これチーズケーキなんですが、よ、良かったら召し上がってください」
「ありがとう。もちろんジェインに渡すけど、私もいただいていいかしら?」
「もちろんです! えっと……お口に合うか、わかりませんが」
「嬉しいわ! 引越しの準備で肉体労働ばかりしているから、甘いものが欲しかったのよ」
「お引越しされるんですか?」
「ジェインがね! あの子、忙しいからって私にばっかり引越しの荷造りやらせてんのよ……荷物が少ないとはいえ、もう3日もこのスタイルよ!」
エプロンの裾を持って、ぴっと引っ張り主張する。
驚いてしまった。
「え? ジェインさん、引越すんですか?」
「そうよ。壱花ちゃん、聞いてない?」
「き、……聞いてません」
「あらららら、内緒だったのかしら。実は私も引越し先がどこなのかは知らないんだけど」
ショックで持っていたカバンを落としそうになった。昨日もLINEはしたが、そんな話はなかったから寝耳に水な話だ。
(もしかして内緒で……)
フェードアウト。
思考が悪い方へとスタートしてしまう。
レイラが慌ててエプロンを脱いだ。
「余計なことを言ったわ。ごめんなさいね」
優しげな表情を浮かべ、壱花の髪をそっと撫でた。
「大丈夫よ。ジェインが考えることに悪いことはないはずよ。だってジェインったらあなたに相当夢中なんだもの」
呆然とした中でも、壱花はなんとか返事をする。
「……そんなことはないと思います」




