episode 151
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やはり空いていたはずの土曜日は、ジェインの仕事で呆気なく反故になってしまった。
だから金曜日の夜。
手作りのベイクドチーズケーキを持って、本社の前で待っていた。
一応、LINEで連絡はしてあるがその日、なかなか既読がつかない。忙しいとは言っていたが、これほど捕まらないとは思っていなかった。
「ジェインさん、遅いな……」
季節は真冬。手を擦り合わせて耐えていたが、あまりの寒さに降参してしまった。
「ジェインさんのマンションの警備員さんに預かってもらえないかな」
そう思って、マンションへ。道順がうろ覚えだったが、なんとか辿り着いた。
エントランスに入ると、管理人室から声が掛かる。
「こんばんは。寒くなりましたね」
「こんばんは。あの……ジェインさん、草壁さんにこれをお渡しいただくことってできますか?」
「ああ、あなたジェインさんのお友達の!」
「はい」
警備員は笑顔で心良く了承してくれた。
「良いですよ。お預かりします」
「まだ帰ってきてないですよね」
「お見かけしてないですが、私が席を外している時にお帰りになる場合もありますから、念のためインターフォンを鳴らしてみてくださいね」
紙袋を預けて、内ドアの前にある部屋番号を押した。
すると、「はーい」と女性の声が。
驚いてしまった。一瞬、なにが起こったのかもわからないぐらいだった。
「どなたですか?」
怪訝そうな声にはっとし、慌てて「柊と言いますが、ジェインさんはお見えですか?」と、なんとか問うた。
「まだ帰ってきてませんが……ちょっとそのまま待っててくださいね」
ガンと頭を殴られた感覚だった。壱花の中に存在するトラウマがむくむくと蘇ってくる。
ジェインが不在なのに部屋にいるということは。
(もしかして、女の人と一緒に住んでいるのかもしれない)
悪い方悪い方へと思考が傾いていく。なかなかOKを出さない自分に愛想を尽かして、見限られてしまったのかもしれない。
けれど、ジェインがそんなことをするだろうかと、縋るようなその思いも捨て切れなかった。
(どうしよう……もしあの人が恋人だったら……ううん、もしかしたらジェインさんの具合が悪くて会社の人が看病に来てる、とか。すごく忙しそうだったし顔色も悪い日が多かったし。だとしたら大丈夫なのかな)
エレベーターが鳴って、女性がひとり降りてきた。背が高く、細身。花柄のワンピース。そしてその上からフリルのついたエプロン。美人だった。まとっている空気感が違う。その輝かしいオーラに、壱花は圧倒されそうだった。
けれど、驚くことにはジェインと同じ瞳の色だ。碧眼。髪はジェインの金髪よりは黒みがかっている。
ひと目で、ジェインの親類だとわかった。
「あなた、壱花ちゃんね!」
カツカツとヒールを鳴らして、真っ直ぐに歩いてくる。そして、壱花がはいと言う前に、ぎゅうっと抱きしめた。
「あぁ、なんて可愛らしい子なの!」
「あ、あの……」




