おしまいっす!
あの日を境に、この世界には、魔物も、半魔も、すべて居なくなってしまった。
当然、また王都の人たちはみんな貧乏になって、今まで当然のようにできていたことが一つずつできなくなって……、みんなが「終わりだ」って頭を抱えて、絶望していた。
でも、終わりって何だろう。
死ぬことだとしたら、全然終わってないし。
俺の初恋だったら、出会った瞬間に終わってた。
ホントに終わってくれたら、どんなに楽か。
「――アラセ、そっち行ったぞ! イケるか?!」
「はぁ、はぁ……はぁっ、……づぇりやぁあッ! 大丈夫っす、師匠はそっちを!」
「おぉ!! コッチはもうすぐ……ッ痛ででで! こらテメェ、髪引っ張るんじゃねぇ! ハゲたらどーする!」
「ちょっと、エリアから出ないように気をつけてくださいね!? 今日は新月だから『波』が来ますよ! 今のうちにリロードしてっ……と」
俺は、目の前のゾンビを足で押さえつけ、ハンドガンの弾倉を交換した。
魔物の支配が終わったこの世界を、今は、『四騎士』が代わって支配している。
『死の騎士』の支配によって、夜には死んだ人間がゾンビになって襲いかかってくるようになったし。
さらに『夜の騎士』が支配して、足元の影を倒さないと、どんどんデカくなって辺りを夜にするようになった。
『天の騎士』は一番嫌いだ。定期的に局所的な『波』を起こし、地形をボコボコと変化させて定住させてくれない。
『秤の騎士』の支配はよくわからない。空を飛んでて、食料や物資をポンポン落としてくれるんだけど、所定の色の服を着ていない人を見つけると言語道断でぶっ殺しにくる。
それだけならまだいいのに、たま〜に騎士たちはタッグを組んで支配を強くしてきたり、仲違いを起こして地上をぐっちゃんぐっちゃんにしてきやがるから、たちが悪い。
わーわーきゃーきゃー叫びながらも、なんとかかんとか師匠と共に『波』を切り抜け、廃屋に腰を落ち着けた。
「だはぁああ〜……危なかった。今度こそ死んだなと思ったわ……」
「だからせめて外出るときはちゃんと緑の服着て下さいって言ったじゃないすか〜! もー、『秤の』にケンカ売るような馬鹿、師匠以外に見たことないすよ!」
「だってそろそろクリスマスじゃん? ほら、サンタと言えば赤白よ」
「やけに赤いコートに固執するなと思ったら……。くっだらねー……」
廃屋で運よく見つけたバッテリーで、昼製造機をオンにして、つかの間の休憩。
グースカ寝だしてしまった師匠は放っておいて、俺はナイフを研ぎ、銃を分解清掃し、防具の修繕をはじめた。
「ああぁ、痛って! っくぅ〜……」
ほつれた上着を修繕していると、不器用なもんで、針を思いっきり指先に刺してしまった。
ぷくっと膨らんだ血の塊を見てため息をつく。
あぁ……指と言えば、ララさんの指、小っちゃくって細くって、きれいだったなぁ……。
去年くらいまでは、ララさんのことを思い出してはメソメソ泣いて師匠に殴られてたんだけど。
最近はそんなに鮮明に思い出せなくなってきた。
確か、浅黒くて綺麗な肌をしていたと思うんだけど……どのくらいの色味だったかなぁ。なにか食べ物を連想して、おいしそうだなぁと失礼な妄想をしていた気がする。
んー、でも、褐色の食べ物って何だっけ。ナッツ?
食べ物なんて最近は、『秤の野郎』が落とすボソボソとしたクラッカーとか、チューブからすする蛍光グリーンのゼリーとか、よくわからない白い粉しか食べてないし。
味のほうは……うーん。マズくはないけど、『天秤教』のやつらみたいに有難がれる味は、絶対してないと思うんだよな。
「ああ、よりによって人差し指かぁ。手当しねえと。えーっと荷物、荷物……」
縫い物を一時中断して、そのへんに放りっぱなしだった荷物を取りに立ち上がる。
そうそう、積み上がった廃材の上に、ぽーんと師匠が投げやがったんだよな。ったく……消毒薬とか、瓶に入ったワレモノもあるのに。
廃材のそばに歩み寄ると、ガタンッとなにかか動く音がして、ぴたりと足を止める。
「――……」
俺はホルスターからハンドガンを抜いて、安全装置を外し、構えた。
『波』はさっき起きたばかりだから無い。ゾンビか、影か……、それとも俺達の物資を狙った、人間か。
足音を殺し、そーっと近づいて……廃材の下に銃口を向ける!
「動くな――」
「だめーっ!」
物陰にうずくまっていたその人影は、全身をすっぽりとローブ――いや、くすんだ色の毛布で覆っていた。
何かを守るように両手を広げて、布の隙間からピンク色の瞳で睨みつけてくる。
「こ……この子に手を出さないで! 食べても美味しくないんだから! ほ、ほら……すっごいウロコまみれで、食べられるところ少ないし、角とか生えてるから脳みそも目玉もちっちゃいし……だから、見逃して!」
「ピャァ〜ッ」
「わ、わ……だめ、顔だしちゃだめだよ!」
その人物は何かを背中で隠そうとしていたけど……。
俺は、それどころじゃなかった。
ここ数年、寝るときも体洗うときもうんこのときも肌身放さず装備していたハンドガンをガシャンと落として、そのまま立ち尽くす。
この声……、あの瞳……!
「ララ……さん?」
「えっ?」
ぽつりとつぶやいたその名前に、毛布の人はハッと顔を上げた。
はずみでぱさりと毛布が落ちて、ぼろぼろの布切れをまとっただけの、剥き出しの浅黒い肌があらわになる。細かい傷跡が生々しく、所々に不潔な包帯が巻かれていた。
流星のしっぽを束ねたような美しさを誇っていた金髪は、煤けてくすんだ色に染まってしまっている。
それでもなお、朝焼け色の瞳は、暗闇の中でも強く輝いていた。
「アラセ……?」
ララさん……ララさんだ!
えっ、なんでララさんがここに?
ああ……でも、ララさんだ〜っ!
俺はその場に膝をつき、震える両手を開いてララさんのほうへ差し出した。
涙で視界がぼやぼやに曇っていく。
「ララさんっ! 会いたかった……!」
「アラセ!」
手を差し伸べてきたララさんを抱き寄せ、ほっそりとした体をぎゅうっと胸に押し付ける。
「あれっ……!?」
そして返ってきた感触が教えてくれた衝撃の事実に、ザァッと血の気が引いた。
さらにザザザザっと物理的に体も後退りして距離をおいた。
あ、ある!? ついてる!
えっ? そ、そっち!?
ちょ……えぇ〜っ!!
「えっ? えっ……アラセ? どうしたの?」
気がつくと、ララさんは差し出しかけた手を所在なさげにぷらぷらして、半泣きになっていた。
――はっ! すげえ失礼ぶちかましてしまった!
ごめんなさいララさん! お、俺はどっちでも良かったんですけど!
ていうか嬉しいんですけど! 刺激が強いというか!
「いいぃいいいぃぃえ? ちょっとあの、ううう嬉しすぎるとケツを床に擦り付けたくなる呪いにかかってましてごめんなさい」
「そ、そうなんだ……? 俺も嬉しいよ」
ララさんはほっとため息をついて、俺の大好きなあの、ふんわりとした微笑みを浮かべた。
それを見たら胸がグワァ〜ッと熱くなってきて、そして、やっぱり駆け寄ってもう一度抱きしめてしまった。
「ララさんっ、好きです!」
「俺も、大好き!」
その後はなんというか、しっちゃかめっちゃかだった。
ぎゅーっと抱きしめ、持ち上げてくるくるして、またぎゅーってしていると、ララさんのお腹が「グウーッ」と盛大に鳴ってしまったり。
ララさんのお顔が真っ赤っかだったから、起き出してきた師匠にエッチなことを強要していると誤解されて鉄板入りのブーツで顔面を蹴られたり。
背中に隠れていたトカゲがなんだかんだで四騎士を倒す鍵になったり。
まあ、いろいろあったんだけど、それはとりあえず置いておいて。
そんな感じで俺とララさんは、無事両思いになれましたとさ!
やったぜ〜!
おしまいっす!
お読みいただきありがとうございました。