↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
集灯町〜メリーさんと人形の集月〜  作者: パパパパーン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/6

メリーさんとカツオ

メリーさんとカツオ

【集月芽璃依】

カランカラン

 

「いらっしゃいませ。人形の集月へようこそ。」


店の扉が開くと、

柔らかな風が店内に流れ込みました。


顔を出したのは福大様でございます。

福大様の胸ポケットには白雪様もいらっしゃいます。

そして、白雪様の隣には私が渡したメリーさん人形がいます。


私の背筋は自然とすっと伸び、

指先が静かに揃います。

お二人は私にとって特別な存在でございます。


キラン!


店中のメリーさん人形達が福大様を一斉に見つめます。

その瞳は、

まるで恋する乙女のように輝いております。


「ひぃ!」


福大様が驚かれるのも無理はありません。


人形達の眼は、

完全にハートでございます。


キッ!

ヒィ!


白雪様がそんなメリーさん達を睨め付けると、人形達は一斉にカタカタと震えながら眼を逸らします。


とても微笑ましい光景でございます。


「あの・・・。

 白雪がまた来たいって言うから、来ちゃいました。」


嬉しい。

良くやったわメリーさん。


「メリーさんチェンジ。」


白雪様が隣でぐったりしているメリーさんを私に突き出してきます。


私の手の上で生気を抜かれたようにグッタリしているメリーさんが小刻みに震えております。

お疲れ様。福大様と白雪様を連れてきてくれてありがとう。

あとは大丈夫ですよ。

ゆっくりとお休み下さい。


白雪様は福大様の胸ポケットから飛び出して、メリーさん人形を物色し始めました。


メリーさん人形達は戦々恐々の表情を浮かべ、冷や汗すらかいております。

その様子は、

まるで死刑宣告を受けた囚人のようでございました。


「・・・」


白雪様はメリーさん人形達を一体ずつ見定めていきます。


無表情で、

静かに、

淡々と。


その視線は、

人形達にとっては“選別”そのものでございます。


「あ、あの。良いんですか?」


私は静かに微笑みました。


するとメリーさん人形達が絶望の表情を浮かべております。


白雪様に見つけられた人形は、

あからさまに眼を逸らし、

肩を震わせ、

冷や汗を流し、

祈るように私を見つめております。


白雪様に撫でられた人形は、

ガクガクと震えながら、

魂が抜けかけております。


白雪様に抱きつかれた人形は、

その場で気絶してしまいました。


しかし同時に——

人形達は福大様に会えた嬉しさで、

胸をいっぱいにしているのです。


震えながらも、

絶望しながらも、

福大様を見つめる眼はキラキラ輝いております。


皆、とても楽しそうでございます。



私は店の奥から、

特大アイスクリームを持ってまいりました。


直径30cmの巨大パフェグラスに、

ふわふわの雪のようなミルクアイスを乗せて、山盛りのマンゴー、桃、メロン、ブルーベリーを飾り、上から金箔がひらひらと舞い落とします。

白雪様をイメージして作った『雪の結晶型クッキー』を刺し、グラスの縁にはレモンピールを飾っております。

そして上には小さな綿菓子の雲がふわりと乗せ、最後に、蜂蜜をとろりと流れ落とします。


白雪様は眼を輝かせて、

特大アイスに飛びつきました。


「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


その声は、

店中の人形達の心を震わせるほど可愛らしいものでございました。


福大様も思わず笑顔になり、

私も静かに微笑みました。


白雪様が幸せそうにアイスを食べる姿は、

この店の宝物でございます。


「あの・・・この人形・・・。

 なんだか・・・生きてるみたい・・・

 あれ?眼・・・入れたんですね。

 綺麗な眼ですね。」


福大様はショーケースの人形を不思議そうに見ておられます。

気になりますか?

そうですよね。

気になりますよね。

はい、最近眼を手に入れたのです。


「この人形もメリーさんなんですか?」

「こちらは集月依人様。私の大切な方でございます。」

 

その時——

カランカラン

ガラガラッ!


店のドアが勢いよく開きました。


【芽璃依さんと漁師さん】


「やってるかい?」


店の扉が勢いよく開き、

サァーっと、海風が店内に流れ込んでまいりました。


潮の匂い。

魚の匂い。

そして、海そのものの気配がいたします。


その全てを背負うように

一人の男が店に入ってまいりました。


集灯湾の漁師、漁太様でございます。


「おう、芽璃依。」


店中に響き渡る大きな声でございます。


「今年も頼むわ。」

「かしこまりました。こちらでお待ち下さい。」

「おう。」


漁太様は福大様の隣の席にドカッとお座りになりました。

福大様は唖然とした様子で漁太様を見上げております。


漁太様の肌は海風と日差しで真っ黒に焼けており、腕は縄を引き上げる筋肉で盛り上がり、手は傷だらけでございます。


潮で白く粉を吹いた古びた漁師ジャンパー。

濡れたゴム長靴。

潮風でボサボサになった黒髪には白髪が混じり、

無精髭が海の男らしさを際立たせております。


「坊主!」

「は、はい。」

「魚は好きか!」

「は、はい。」

「よし。ちょっと待ってろ。」


私が戻ると、ちょうど漁太様が店の外に飛び出していきます。


「あ、あの・・・僕、どうしたら?」


私は静かに微笑みます。


漁太様は直ぐに戻って参りました。

大きなお魚を抱えて。


「坊主。こいつを持ってけ。」

「む、無理でーーす。」


福大様よりも大きなお魚を、漁太様は片手で持ち上げております。


「遠慮すんな。芽璃依が貰わないんだ。お前が持ってけ。」

「えーー!!」


漁太様は福大様にお魚を渡します。

福大様はお魚に抱きついたまま、お魚がピチピチと大暴れしております。


ヒェーーーー!


福大様がとても喜んでおられます。


「漁太様。こちらでございます。」


私はトレーに乗せた、米粒よりも小さなメリーさん人形を持って参りました。


漁太様は米粒メリーさんを小指で持ち上げ、食い入る様に見つめております。


しばらく見つめ、ニヤリとお笑いになり。


「今年も良い出来じゃねぇか。

よし、こいつで頼む。」


どうやら満足して頂けた様でございます。


「後で若い奴ら寄越すからよろしくな。」

「お買い上げありがとうございます。」

「これで今年も大漁だ!!」


ガラガラッ!!


漁太様は笑顔でお帰りになりました。


ヒェーーーー!


「ぼ、僕。どうしたら良いの!?」

 

福大様は魚に掴まったままビチビチと床を楽しそうに跳ねておいでです。

私は魚と一緒に飛び跳ねる福大様と、白雪様がアイスを食べる姿を見ながら、静かに微笑んでおります。

 


【ワタシメリーさん、今・・・】


ワタシ、メリーさん。

今ね、ワタシお船に乗ってるの。


沢山のお船に、

沢山のワタシ達が乗ってるの。


お船はどんどん進んで行くの。

大海原にレッツゴー!なの。


海風が気持ち良いの。

潮の匂いも格別なの。

いっぱいのカモメさんが船の横を飛んでるの。

とっても可愛いの。


・・・でも。・・・数が多すぎなの。


ワタシ達の上を、

バサァッ!バサァッ!バサァッ!

って飛んでくの。


「わぁ〜可愛い〜」

って思ってたら——


カモメの眼がキラーンって光ったの。

急降下して口を開けて襲ってきたの。


間一髪で避けたけど、

完全に獲物を見る眼だったの。

ワタシ達を見て、

舌をペロッてしてるの。


「やめてなの!

ワタシは食べ物じゃないの!

人形なの!

カロリーゼロ!0キロカロリーなの!

食べても太らないの!!」


でもカモメ達は聞いてくれないの。


カモメが一羽、ワタシをつつこうとしてきたの。


「やめるなの!!」


ワタシは必死に抵抗したの。

でもワタシは人形なの。

身動き出来ないの。


カモメはワタシの頭をパクッと咥えたの。


「ぎゃーーーーーなの!!」


ワタシは空中に持ち上げられたの。

空中散歩なの。ちい散歩なの。

いやいや、散歩じゃないの。

誘拐なの。

お巡りさん助けてなの!!


他のメリーさん達も次々に連れ去られていくの。


「助けてなのーーー!!」


でもカモメ達は聞いてくれないの。

ワタシ達を空中でブンブン振り回して遊んでるの。


「やめるなの!!

ワタシはおもちゃじゃないの!!」

いや、人形はおもちゃ?

ワタシはおもちゃなの?!」


【ワタシメリーさん、今貴方の・・・・】


そんな事を考えてたら、

漁師さん達がワタシ達を海に投げ捨てたの。


「ヒョエーーーーーなの!」


なんなの、なんなの!?

なんでわざわざ沢山買って、

なんで海の真ん中で捨てるの!?


これはイジメなの。

不法投棄なの。

お巡りさんに通報なの。

海での事故は118番なの。


ワタシ達は海にポチャンと落ちて、

プカプカ浮いてたの。


そしたら——


海の底から、

黒い影がスーッと近づいてきたの。


「え?カモメ?

 ワタシ達、カモメの餌にされたの?」


違ったの。

カモメは空からなの。

この黒い影は海の底からなの。


これは・・・・

お魚なの。

カツオなの!!


しかもめちゃくちゃ大きいカツオなの!


「お前ら沢山食ってけよ。」


お船の上から漁太さんが酷い事言ってるの。

ゲラゲラ笑いながら、ワタシ達をばら撒いてるの。


あ!め、眼が合ったの。

大きなカツオさんがどんどん近づいてくるの。


デカイのー!

どデカイカツオさんが目の前にいるのー!


ワタシ達を見て、

「お、今日のご飯は人形か」

って顔してるの!


パクッ。


ワタシの隣のメリーさんが食べられたの。


「ぎゃーーーーーなの!!」


パクパク、パクパク。

吸い込む様に食べるの。

ワタシ達、美味しく食べられてるの。


「やめるなの!

ワタシは脂身じゃないの!

タンパク質ゼロなの!

カロリーオフなの!!

食べても太らないの!」


でもカツオさんは全然聞いてくれないの。

誰か、サザエさんを呼んでくるの。

波平さんでも良いの。


カツオさんは片っ端から食べるの。

ワタシ達をモグモグして、

次から次へと食べてくの。


空にはカモメさん、海の中にはカツオさん。

詰んだなの。詰みなの。罪と罰なの。


パクパク、パクパク、

どんどん食べられていくの。

そんなワタシ達を、漁太さんや漁師さん達が笑いながら見てるの。


ここは地獄なの!

地獄の一丁目なの!

東村山一丁目なの!!


♪いっちょめ、いっちょめ、ワァーオなの♪


「お前達、ちゃんと戻って来いよー!!」


漁太さんがお船の上から叫んでるの。


酷すぎるの。

絶対戻ってきてやるの。

メリーさんの名にかけてなの。


「今年も大漁間違いなしだ!!」


漁太さんは満足そうなの。

ワタシ達は満足じゃないの。


トゥルルルルルル


ワタシ、メリーさん。

今、カツオのお腹の中にいるの。


《集灯町ローカルニュース》


本日午前、

集灯湾沖で漁船による“人形投下”が確認されました。


漁業関係者によりますと、

米粒サイズの人形を海に撒く行為は、

古くから続く漁の儀式だということです。


海面には多数の人形が浮かび、

その直後、

大型魚による捕食が確認されました。


10月頃、集灯湾では

“戻り鰹”と呼ばれる脂の乗った鰹が大量に水揚げされます。


戻り鰹は、

餌を求めて北上した後、

再び南下して戻ってくる習性があり、

地元では「必ず戻る魚」として知られています。


漁協は、

「例年通りの光景であり、

 漁の安全祈願として行っている」

とコメントしています。


なお、

人形の一部は海流に乗って北上している可能性があり、

海上保安庁が位置情報を確認中です。


トゥルルルルルル


ワタシ、メリーさん。

今、北海道にいるの。


もうすぐ戻るの。

絶対戻るの。

戻って戻鰹漁太さんに文句言うの。

そして芽璃依さんに慰めてもらうの。


トゥルルルルルル

 

ワタシ、メリーさん。

一緒に戻るのが仕事なの。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。