【40】閑話:冬の屋台
————その日、私は一華、陸璃くん、織姫と共にお出掛けである。
「より一層冷え込みましたわね」
「うん、一華。でもこの外套、あったかいね」
「ええ」
4人が着ている外套は元は海の向こうから入ってきたものと聞いている。
「若い娘の間でも流行っているそうですの」
「うん、周りにもたくさんいるね」
周囲にも外套を羽織って仲良く街を行き交う女性たちが見える。
「ぼくはそんなに……だけど」
そうは言いつつも、陸璃くんも鳴砂に買ってもらったらしい。どちらかと言うと男の子に人気のもののようだが。
「陸璃くんも似合ってるよ」
「う……うん、それなら。それにあの……」
「ん?」
「氷雨も珍しく『変ってわけじゃない』だって」
「まぁ、あのひとったら。素直に褒めてあげればいいのに」
クスクスと一華が微笑む。それでもすっかり慣れてしまった氷雨さん節である。
「最初はちょっと恐い方なのかと思っていたけれど」
織姫が呟く。
「誤解されやすい上に素直じゃないだけですわ」
そう一華が告げれば。
「ほんとそうだよね。あ、聞こえてないよね?」
「聞かせてもよろしいですわよ、陸璃さま」
「いやいや、一華ったら……!」
陸璃くんがクツクツと笑う。
女子4人でのお出掛け……とは言え心配性な鬼たちも後ろを付いてきているはずだ。
「まぁ、今回の目的地はここですから」
一華が示した屋台通り。定番のうどんやそば、拉麺、おでんなどたくさんの店が並んでいる。
女同士の客もいるが酔っぱらいやナンパもあるからと鳴砂たちも心配するようだ。
「早速行きましょう。最初はおでんですわよ!」
『おー!』
早速おでんを注文し、おでんの入った容器と割り箸を持ち屋台の近くの席につく。屋台の側にはこうした椅子や卓が用意されている。
「こう言うのは初めてですわ」
織姫はドキドキしながら席に付いているようだ。
「ふふっ、こうして外で食べると美味しいのですよ」
「ええ、一華さん。早速いただきます」
「でも熱いから気を付けなよ」
と、陸璃くん。
「特に卵とか」
「卵は最後にしようかな」
陸璃くんの言葉におでん串からはむっと口に含める。
「んん……美味しい!」
「お出汁が効いていて美味しいですわね」
「ええ。都のみんなはこんな美味しいものを食べていたのね!」
織姫が目を輝かせている。
「いやいや、織姫さんの方がいいもの食べてきてそうだけど」
と陸璃くん。
「確かに料亭のお料理なんかは食べてきましたけど……それとは違う美味しさがありますわ。ほら、山頂で食べる拉麺のような感覚です」
「ああ、それなら納得」
「ふふっ。そうてしょう?」
織姫が嬉しそうに微笑む。
そしておでんを楽しみ最後に卵を。
「ちょうどいい温度になってる」
「でしょ?」
陸璃くんが満足げに告げる。
「美味しかった」
「ええ、雛さま。もしまだ入りそうでしたら」
「一華?」
「シメの拉麺はいかがです?」
「私は食べたい!」
「私もですわ!」
織姫もスッと手をあげる。
「ぼくも」
「なら決まりですわね」
山頂でも食べたが、屋台の拉麺はどんな味だろうか?
早速食べ終えた容器と割り箸を片付け、拉麺屋台に向かう。
「ここは定店ですけれど夜に移動屋台をやっている拉麺屋さんもあるそうですわ」
「移動屋台?」
「ほら、喇叭のようなものを吹きながら」
「聞いたことがあるかも。あれ、拉麺の移動屋台だったんだ」
「ええ。尤も夜に食べに行くのは紅鳶さまたちが反対しそうですわ」
「過保護だもんね」
お兄ちゃんも鳴砂も。
「でも氷雨は紅鳶や他の鬼塚家の鬼たちと行ってるの知ってる」
と陸璃くん。
「知らなかった!今度お兄ちゃんに聞いてみようかなぁ」
そんな会話をしていれば。
「なぁあんたたち」
その時、私たちの前を遮ったのは……鬼の青年たち?
「良かったら俺たちと食べない?」
「……まぁ、ナンパですの?」
一華は女鬼と言うこともあり男鬼からの縁談も多かったそうだが、お兄ちゃんとの結婚でパッタリとやんだが……こう言うナンパはあるのか。
「申し訳ありませんが、私ひとづまでしてよ」
『えっ』
鬼たちが黙りこくる。
「あと兄は血の気が多いので注意した方がよろしくてよ」
「え……兄?」
男鬼たちは陸璃くんを見るが、明らかに年下であることに疑問形である。
————しかし。
「おいコラ、どういう意味だ」
次の瞬間、鬼のひとりの真後ろに氷雨さんが立っていた。そして抜きかけた刀の柄の先端をぐいと脇腹に押し付けているようだ。
「ひいぃっ!?」
氷雨さんの抗議は一華に向けたものだろうが、鬼たちをビビらせるには充分な覇気である。
「はぁ……全く。女子同士で楽しみたいって言うからこっちは大人しく見守ってたのに」
「そうだね。さすがに今回は看過できないな」
鳴砂とお兄ちゃんも現れる。
「ああ、顔と名前は把握してるから任せて」
にこりと微笑む直斗さん。
その顔にナンパ鬼たちが青い顔になる。
「俺の許嫁もナンパしたんだから……いいよね?」
『すみませんでしたーっ!!』
鬼たちが身体を90℃にし、脱兎のごとく去っていく。
「はぁ……全くもう。とにかくこれで大丈夫だな」
「うん、ありがとう。鳴砂」
「いいよ。もしまたナンパだの絡まれたりしたら助けに来るからな」
「う……うん!だけど鳴砂たちも……」
「おでんは俺らもこっそり食べたからな。拉麺も端のほうで食べてるよ。雛たちはせっかくの女子会なんだろ?楽しんできな」
「ありがとう!」
「はぁ……とは言え何で男だらけでおでんに拉麺……」
「いいだろう?氷雨だって南部では千里さんたちと男同士で……」
「付き合わされてるだけ」
「付き合ってあげてるのもなかなかだよね」
お兄ちゃんが苦笑すれば氷雨さんが抗議の目を向けている。
「ほら、氷雨ったら。早くしないと混んじゃうんだから」
陸璃くんが告げれば、仕方がないと顔を背けた。
「では参りましょう。今回は塩拉麺ですわ!」
「わぁ、違う味もあるんだね」
「ええ、雛さま。北部から入ってきた新しい味なのだとか」
「じゃぁ三雲さんたちも食べたことあるかな?」
「ええ、恐らく。このお店も北部から来た料理人が開いたそうですの」
「本場ってこと?」
「そのようですわ。それもあって今人気ですの」
私たちは早速拉麺を注文して席につく。鳴砂たちもちょっと離れた場所で味わっているようだ。
「味はどうだろう?」
スープから口に付ければ。
「醤油とはまた違う美味しさだね」
「ええ、これひこれで美味しいですわね」
「山ではスープまで飲むのが規定でしたけれど、これなら塩拉麺もスープまで飲みたいわ」
織姫が頷く。
「うん、それはぼくも。でも結構気にする女性も多いけど」
「後で野菜を多めに食べれば相殺よ」
にこりと織姫が笑む。
「そうかも」
陸璃くんがちゅるりと拉麺を啜る。
「では鬼塚家の本日のお夕飯はお野菜多めにしてもらわないと」
「私もお料理を手伝いながらそれとなく」
織姫がクスッと微笑む。
「お料理も手伝ってるんだ」
「ええ。もちろんよ。せっかくの花嫁修行ですもの。直斗さまにも手料理をご馳走したいの」
「直斗さんも幸せ者だね」
「そう言ってもらえると嬉しいわ」
織姫は直斗さんの方をちらりと見れば目が合う。
私たちはにこにこと手を振れば直斗さんや鳴砂も手を振り返してくれる。
今日は女子会で、向こうは陰ながらの護衛。しかし鳴砂たちも楽しんでいるようで何よりだった。
「そうだ……今日食べた塩拉麺のこと、三雲さんや椿さんたちにも手紙を書こうかな」
「まぁ、いいですわね。雛さま」
「うん!」
正式に祝言をあげたことや、お兄ちゃんと一華の婚姻については鬼塚家からの手紙で記されているだろうが、個人的には久々だ。
きっと来年も北部の登山でお世話になるだろうし、それから夏も……。
拉麺の汁まで美味しくいただき、食器を屋台に返せば後は軽く歩きながら帰路につく。
「美味しかったね」
「ええ、雛さま。みんなでまた来ましょうね」
「うん」
そして織姫と陸璃くんも楽しそうに頷く。
もうすぐ年末、年の瀬だ。
年始にはまた鬼目家で新年の宴があるようだからみんな集まるだろう。
その時はまた、次に食べに行きたいものでも話そうかな。
8章は書け次第更新します!




