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【和風NL】忌み鬼に嫁いで山に登ります  作者: 夕凪 瓊紗.com
御堂家

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39/40

【39】意外な報せ



————例の騒動から数ヶ月。都はすっかり冷え込んで山は雪化粧に身を包んでいる。


「冬はおでんの屋台がおすすめだよ」

「わぁ、いいね。今度女の子同士で行こうか」

「うん、雛」

陸璃くんとそんな会話をしつつ、織姫にも誘いの文を書く。鬼目の分家での暮らしは快適らしく、友だちづきあいも理解してくれているようで安心である。


「ちょっと一華を探しに……」

一華ならついてきてくれるだろうが予定を確認しなくては。私の手習いの予定も一華が管理してくれているし。


「雛、ちょっといいか?」

「鳴砂?どうしたの?」

「ちょっと話がな。陸璃はそこで待ってて」

「えー、ぼくだけおあずけ?」

「お前にも後で話すから。とにかく今はその……まずは雛に」

私に……?一体どういうことなのだろう?


陸璃くんに手を振り、鳴砂についていけば。ここって応接間だよね?

恐る恐る中に入れば、そこには何故か一華とお兄ちゃんがいた。


「その……」

「とにかく雛も隣に」

鳴砂に促されて着席すれば、一華とお兄ちゃんが意味深に視線を合わせる。な……何だろう?いつもは2人がそれぞれ私たちの隣にいてくれるから、正面向かい合う体勢には慣れない。


「その……雛」

「お兄ちゃん?」

「鳴砂には先に話したんだが……その」

お兄ちゃんが言い淀めば、一華がお兄ちゃんの手に掌を重ねる。

「……?」


「あの、その……雛」

お兄ちゃんは背筋を伸ばし、改めて真っ直ぐに見てくる。


「一華と、籍を入れたいと思っている」

「……え?」


「その、結婚を……するつもりだ」

「……えと……その、えええぇっ!?」

寝耳に水の言葉に思わず開いた口がふさがらない。


「雛にとっても一華は大切だろうが」

「あなたも雛さまにとっては……」

「そうなんだけど……その、何というか」

照れたように頭を掻く兄の様子は今まで一度も見たことがないように新鮮である。


「雛はその……どうだ?」

「どう……と言われてもそのっ」

「やっぱりすぐには受け入れられないだろうか」

「そ……そんなことはっ」

思わずピンと立ち上がる。


「お兄ちゃんと一華が……幸せになれるなら」

それほど嬉しいことはない。


「まぁ……嬉しいですわ。それに紅鳶さまと結婚すれば雛さまとは姉妹になれるんですもの」

「そう言えばっ」

姉などいたことがないから新鮮すぎる。


「それは……嬉しいかも」

何だか私まで照れてきてしまった。


「雛に賛成してもらえて嬉しい」

「うん、お兄ちゃん」

お兄ちゃんには幸せになってほしいと思っていた。そしてそれは一華にもだ。


「ああ、でも最大の関門が」

「ですわよね」


「ええと、お義父さまとお義母さま?」

お兄ちゃんの主は鳴砂たが、当主夫妻だし。


「いや、父さん母さんは賛成するだろ。ただでさえ、一華には縁談がひっきりなしだったんだぞ?」

「縁談……女鬼ってやっぱり」 

「ああ。北部と同じように縁談が多く来る」

北部では現地で結婚することが多いし、強引な縁談なら三雲さんが跳ね除けそうだ。もちろん一華への強引な縁談なんてお義父さまもお義母さまも認めないだろうが。


「ですわね。さきの一件でも私が未婚であることも原因のひとつになりましたし」

「そんなこと……っ」

あれはむしろ相手方が無理矢理一華が未婚であることを利用したようなものだ。


「そろそろ……行き遅れと言われないうちにと思いまして」

「行き遅れだなんて」

お兄ちゃんが首を横に振る。


「よく考えればすぐ隣に優良物件がございましたし」

「いやその……俺で釣り合うのかどうか」

「十分に釣り合いますわ。もっと自信を持ってくださいませ!」

「あはは……分かった分かった」

やっぱり一華とお兄ちゃんは息が合うと思うんだよね。


「だけど氷雨さんは」

「そうですわよね」

あ……そっか。氷雨さんは記憶はないとはいえ、一華の記憶を追体験したことで兄妹であることが明らかになったのだ。


「まずはあの頑固者をうんと言わせることだ」

鳴砂の言うとおりである。

私たちは恐る恐る氷雨さんの元を訪れれば……どうしてか陸璃くんも一緒だ。


「陸璃、何してたんだ?」

「なず兄?みんなこそ一緒に……ぼくは稽古の話だよ」

「はいはい、もう満足した?」

氷雨さんはもう終わりとばかりに席を立とうとするのだが、今の今までは付き合ってくれていたのだろう。本当は優しいのにそれを隠すところは相変わらずである。


「ちょうどいい。陸璃と氷雨もまとめて聞くように!」

鳴砂がビシッと告げれば氷雨さんが面倒くさそうな顔をする。だがその時、お兄ちゃんが氷雨さんに向かい合う。


「氷雨さん!」

「……何?」

「その……ええと」

「たいした用じゃないならもう行くよ」

「ちょま……っ、重要なことです!」

お兄ちゃんが思わず氷雨さんの腕を掴む。


「はぁ?何」

面倒くさそうにしながらも無理矢理振りほどいたりはしないようだ。


「その……氷雨さん」

「何?早くして」

「い……妹さんを俺にください!」

「……は?」

氷雨さんのあんな表情は初めて見る。


「……妹なんていないけど」

「いますよね!?」

「だからそんなのは」

「俺、結婚したいんです!」

「はぁ……すれば?」

「でもお兄さんが認めてくれなければ」

「誰がお兄さんだよ」

「一華の……花嫁側の親族が」

「そんなの南部の野郎どもに頼めば……」

「なら氷雨さまの野郎に頼みますわ」

一華がにこりと笑う。

「氷雨さまも南部の野郎ですわよね?」

「……おい」

「わざわざ千里さまたちに来ていただくのもご足労でしょう?南部はそれほど雪は積もりませんがこちらは雪が降ることもございますし」

「それはそうだが……」


「氷雨」

「……鳴砂?」

「主命令だ、聞け」

な、鳴砂ったら!いやしかしこの場で一番効力のある言葉はそれである。


「ずるくない?」

氷雨さんがさすがに抗議の目を向けるのだが。


「それで……お義兄さん」

「やめんか、紅鳶」

「ですけど!」

何だか仲のいい男兄弟に見えてしまうのは気のせいだろうか?


「妹さんは俺が幸せにします」

「……勝手にすれば」 

「はい!勝手に幸せにします!」

「あーもう、うるさいな。分かったから。新婦側の親族として出席すればいいんだろ」

「はい!納得してくださったんですよね」

「……主命令だ」

そうでもしないと素直にならないんだもの。


「あー……でもさ、ひとついい?」

その時陸璃くんが手を挙げる。


「どつした?陸璃」

「……なず兄たちも、式挙げてなくない?」


『……』

その言葉に鳴砂と顔を合わせる。


「それはその、主君が先に」

「ですわよねー」

2人の言葉にぐうの音も出ない。


————なのだが。


「私の親族には、お兄ちゃんが……」

「うん、雛」

「それなら……」

それほど幸せなことはない。


「雛、今までバタバタしてしまって本当に済まない」

「いいの、鳴砂。それに今だからこそ」

お兄ちゃんにも祝ってもらえるし、何なら義理の姉になる一華もそのお兄さんである氷雨さんもいる。


「そうだな。鬼目側の証人としてスグと織姫も呼べるだろ」

「うん……!」

祝言に親族と、友だちも来てくれるなんて。そんな幸せなことはないから。


※※※


その日鬼塚家はバタバタしながらも、二組の新郎新婦の祝言が行われた。


「雛」

「お兄ちゃん?」

「祝言の前にこれを」

お兄ちゃんが差し出してきたのは。


「これ……短刀?」

「うん、今日に間に合ってよかった。嫁入り道具だよ」

「あ、ありがとう!」

「幸せになるんだよ」

「……!」

何だか急に感極まるものがある。


「お兄ちゃんもね」

「ああ、お互いにね」

こんな風に兄妹で祝福し合える日が来るなんて。暫くすればお義母さまに呼ばれ、私は白無垢の最終確認を行う。


そうしてひと組目の私と鳴砂の祝言が始まる。

私の親族としてはお兄さんと一華が、鳴砂の親族としては義両親と陸璃くんが立会人となってくれた。


神職を務めるのは鎮命山の麓から駆け付けてくれた静那(しずな)さんだ。


「幸せにね、鳴砂。雛ちゃん」

「ああ、しず兄」

「はい、お義兄さま」

そして静那さんの言葉で新郎新婦が盃を飲み交わす。私はまだあまり飲めないから口をつけるだけでいいそうだ。


そうして私たちの祝言が終われば、私と鳴砂はお兄ちゃんの親族として、氷雨さんが一華の親族として立会人になってくれた。


鬼目家側の証人の直斗さんや織姫、鬼塚家のみんなに祝福されながら二組の夫婦が誓いを新たにしたのだった。


「そう言えば、雛さま」

「一華?」

互いに白無垢を脱ぎ宴会用の晴れ着に着替えれば一華があるものを見せてくれた。


「それ……短刀?……だけどどうして?」

「嫁入り道具だそうですわ」

「嫁入り道具……?お義母さまからとか……」

だろうか?

「氷雨さまからです」

「えっ!?」

「短刀と言ってもすぐに出来るものではありませんわ」

「なら氷雨さんは……」

「いつの間に注文していらしたのかしら、全く」

「氷雨さんらしいかも」

もしかしたら氷雨さんはずっと……。


「ふふっ。ですわね。本当に……変わりませんわ」

そう言うと一華は幸せそうに微笑んだ。


「さぁ、雛さま」

「うん、一華」

2人で手を繋ぎ宴会場に足を踏み入れればそれぞれの夫が迎えてくれる。


「雛」

「一華」


「鳴砂」

「紅鳶さん」

私たちはその手に導かれながら幸せを享受する。





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