【35】御堂家
――――梔子山から戻って暫くのこと。
あれから私と織姫は一華や陸璃くんも交えて甘味屋に行ったりお出掛けをしたりすることが増えた。
「雛、今日も出掛けるのか」
「うん、鳴砂。今日は織姫に誘われて御堂家に行くことになったの」
「御堂家に?」
「うん、是非遊びに来ないかって」
「そうか……それなら楽しんで来な」
鳴砂の手が優しく頭を撫でてくれる。
「うん!」
都で友だちが出来たことも嬉しいし、こうして鳴砂と平穏な日々を送れるのも嬉しい。
「俺は氷雨と鬼目家へ行くんだ」
「鬼目家……直斗さんに会いに……?」
「そんなとこ」
鬼目家……最初は恐ろしい場所と言う印象だったが、今はそれほどでもない。
頭領は薙斗や美百合を特別扱いするつもりはないようだし、直斗さんもそのつもりのようだ。
「それじゃぁ行ってきます」
「ああ、行ってらっしゃい」
鳴砂に手を振り、一華と御堂家に向かう。
※※※
御堂家に着けば、早速織姫が出迎えてくれる。
「いらっしゃい。待っていたのよ。雛。一華さん」
「こちらこそ、招いてくれてありがとう」
「お邪魔いたしますわ」
「そう言えば今日は陸璃くんは来られませんでしたわね」
「うん、今日はお稽古だって」
一緒に遊びに行くことも多いが、ちゃんと剣術の鍛錬も欠かさないところは偉いなぁ。稽古は鬼塚家にある道場でやってるらしくお兄ちゃんも参加すると言っていたっけ。
「なら、今度見学に行ってもいいのかしら」
「うん。是非来てって。多分鳴砂も許してくれると思う」
「まぁ、では応援に参りましょう」
「うん、いいかも」
きっと陸璃くんも喜ぶなぁ。あ、鳴砂もかな?
そんな話をしながらも案内された御堂家の客間では昔ながらの練切をご馳走になる。
「ん……美味しい」
「気に入ってくれて嬉しいわ。山では色んな美味しいものを教えていただいたもの。そのお礼も込めてよ」
「ありがとう」
「だけど……」
「どうしたの?」
「いえ、お父さまがね。きゃらめるとか飴とか庶民的なものは控えるようにと言われてしまって」
「山に登るのなら必須なのに」
「そうなの……一度目は直斗さまのお陰で登れたのだけど……やはり令嬢が山登りなどとって……」
「そっか……大変だったね」
「うん。でもね、山頂で食べた拉麺はとってもおいしくて……!お父さまは野蛮だと言うけれど私はまた食べたいわ」
「そうだよね。私もまた織姫と登りたいよ」
「うーん」
「一華?」
何かいい方法が思い付いたのだろうか?
「嫁げば実家の意向がなくなるので拉麺食べ放題ですわ」
「……あ、確かに」
「そうですわね。確かに一華さんの言う通りだわ。私、嫁ぐことが少し心配だったのだけど。今となっては早く嫁ぎたいわ」
「それにはあと2年か」
織姫はまだ16歳なのだ。
「長いですわね……だけどその、拉麺は絶対にまた食べに行きます!」
「うん!行こうね!」
「そうそう、屋台もあるようですし、閉山中はそちらでも食べられますわよ」
「まぁ、一華さん!屋台だなんて……女同士でいいのかしら」
「構うことはありませんわ。今度は陸璃さまも誘って拉麺女子会ですわ」
「いいかも!」
思えば屋台なんかは行ったことがないのだ。
「鳴砂たちは賛成してくれるかな?」
「鬼は心配性ですものね。近くに座ってるくらいなら」
「そうかも」
「なら直斗さまも誘って……そうだ!直斗さまとのでえとならお父さまも反対しませんわ」
「じゃぁそう言う口実で行けばいいのか」
「ええ。これでバッチリですわね」
「でら早速行く屋台の選別と日程調整を」
一華も楽しそうである。その時、女中が織姫を呼びに来る。
「ごめんなさい、急ぎの呼び出しみたいで」
「大丈夫だよ、一華とお話して待ってるね」
「ええ、寛いでいてね」
織姫を見送れば、一華とお茶を飲みながら暫し歓談だ。
「そう言えば一華、拉麺の屋台の他にも、屋台ってあるもののの?」
「もちろんですわ。例えばおでんとかうどんそば……色々とありますのよ」
「わぁ、すごい。これから冬だから特に恋しくなるかも」
「ええ。周辺のお山は閉山してしまいますが、楽しみはたくさんありますのよ」
「冬はそうやって楽しむのもありだね」
「ええ。それにしても……」
「一華?」
「何だか眠たくなって来てしまって……昨夜はちゃんと寝たのですが」
「思えば私もかも……ふぁ〜〜……」
だけどさすがに友だちの家で寝るわけには……あれ?
「雛さま、何かおかし……」
ふらりと一華が倒れる。
「いち……かっ」
だけど……眠気が。
だめだ……周囲が暗転する……。
そして薄れゆく意識の中、襖が開く音がする。誰かが私の身体を抱えるのが分かる。
どうして……こんな、ことを……。
ここで、私の意識は途絶えた。
※※※
――――side:鳴砂
今日は直斗に会いに来た……のはそうなのだが。
氷雨と共に鬼目の客間に通されれば、頭領と直斗が待っていた。
「鬼目家では、正式に薙斗を嫡男から外すと」
「はい、鳴砂さま。この件についてはお父上にも話しております。そして薙斗とその花嫁については結婚させ地方の別邸に隔離する予定です」
「薙斗のことを思うのならそれが一番だろう」
報告で聞いた話では、美百合は金のためだと言い娼館に入り浸り薙斗以外の男に抱かれていたとか。
そんなこと、鬼には到底耐えられないだろうな。薙斗は生け好かないやつだが、そこに関しては同情する。
「そして……ですが、跡継ぎには代わりに直斗を据える予定です」
「まぁそうなるだろうな」
嫡男に何かあった時のための次男。しかしながら本当にそうなるとは直斗も思っていなかったろう。
「しかしながら……」
「……何か懸念が?」
「直斗を跡取りにするという事は、将来は御堂家の花嫁を次期頭領夫人として迎える事になります」
「御堂織姫か。こちらとしては特に構わない。この間も雛と仲良く山登りしてたし」
「その話を直斗から聞いた時は驚きましたよ。御堂家の花嫁は柊木家をよく思っていない節があった」
「まぁそれは仕方のないことだが、織姫は雛は柊木家の出身たが、美百合との繋がりはないと割り切っている」
「ええ、そのように聞きました。しかし問題は……御堂家の方なのです」
「娘同士が仲が良いのに何の茶々を入れる気だ」
「そうですね……あちらとしては雛さまは未だ柊木家の娘なのです」
「俺としては雛の家族は紅鳶だけのつもりだが」
「それも通じないほどに、あの家は血統を重視する」
ほんと……紅鳶を連れてこなくて正解だったな。
「御堂家は納得しないでしょう。かつて柊木家によって次期頭領夫人の座を奪われた挙句、やっと手に入れた次期頭領夫人の座。しかしそうなるという事は御堂家の花嫁は雛さまに頭を下げるということです」
「そうだな……正式に頭領の嫁になれば、直斗と並んで俺たち夫婦を送り出す立場になる。それが何のためかも理解した上で御堂家は気に入らないのか」
「……そのようですね」
「本当に人間というものは……血統を重視し過ぎだ」
「それは我々鬼もですが」
「それもそうだが、しかし花嫁に関しては寛容だろう?その鬼が魂の響鳴に応じて選んだのなら、受け入れる」
「……ええ」
だからこそ頭領も苦渋を飲んで美百合を薙斗の花嫁として受け入れた。ま、その後追放することにはしているがな。
「鬼としては花嫁は運命の相手だ。その愛の間に人間同士の家の争いは持ち込んで欲しくないのだが」
「しかし人間の家は運命の花嫁を選ぶわけではありませんから」
「……政略結婚な」
だからこそ家同士の確執が生まれてくる。
「当の花嫁たちは仲良くやってるってーのに」
御堂家当主は娘たちの幸せよりも己の利権や家を取ると言うことだと分かっているのだろうか……?




