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09 城下町

王都は物価が高い。できれば他の町に行きたかったが土地勘が無かった。


まずは王都の宿屋に宿泊し、働ける場所を探した。幸にしてこの国の王都は好景気で、求人はいくつも見つかった。毎日食事にありつきたかったから、食事を出す店で働くことにした。決めたのは感じの良い女性店主の店で、その日余ったパンや賄いを出してくれる。私が宿屋住まいだというと、店の2階の空き部屋を使って良いと言ってくれた。


質素な部屋だったが、ランベルト時代に比べれば、十分だった。リュシアンに貸してもらった路銀で毛布と簡単な食器を買う。食器の店に木の椀があって、レオンがお湯をかけてくれたときの椀に似てるな、などと考えた。



消極的理由で選んだものの、王都生活は快適だった。

物価は高いが職も人も多くて私ひとり紛れ込んだところで誰も気にする様子はない。ランベルト時代のように病的にこき使われることもなく、適度な労働と、満腹を感じられる食事の量で、一日の終わりには心地よい疲れとともにベッドに潜り込むことができた。

なのに、毎日まいにち寝付けない。


あれは夢だったのか。レオンと過ごしたのはたった数日だ。しかしその数日が人生で最も辛いし輝かしい。今世は嫌なことが多くて、ずっとただ生きることだけ考えていたのにあの数日だけは夢のようだった。


もともと自分はレオンから離れようとしていた。レオンの世話にはならず、フェーべルン領のどこかでひっそり暮らそうと。結果的に、自分が選択しようとした人生とほぼ同じだ。

最初から縁が無かった。これは通常運行だ。何も失っていないのに後悔ばかりが溢れ出てくる。

裁判所のあと、すぐにさっさと旅立てば良かった。侯爵邸になんて行かなければ良かった。ずいぶん世話になったのにお礼もせず、元殿下にはレオンを慕う気持ちはおそらくバレて、みっともない別れ方をした。毎日恥ずかしくてつらくて仕方が無かった。


私はなぜ、レオンに正妻がいると思い至らなかったのだろう。侯爵家当主に、婚約者も妻もいないはずがない。それどころか上位貴族なら正室のみならず側室がいてもおかしくない。


私は騙されたのだろうか。いや、貴族社会ではそれが当然なのだろう。妻がいながら女性を口説く。騙したという意識すら無いのかもしれない。

レオンは女性の命と尊厳が軽い国だと言っていた。私の尊厳はレオンにとって軽かった。倫理観が違う、そういう考えもあるよね、というだけの話なのに、惨めで消えてしまいたかった。


明け方近くなってやっと眠気がきた。明日というかもう今日だけれど、今朝も早くから仕込みがあって忙しい。寝よう。こうやって毎日を過ごしているうちにだんだんとあの日のことは思い出さなくなったらいい。


本編外小話


◇◇


「ベルナデット様が白い結婚で得られるものはなんですか」

「玉座」



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