08 白い結婚
「ベルナデット様、間が悪いです」
「悪いのは間じゃなくてお前だろ」
このお二人はまごう事なき白い結婚だ。
白いも白い真っ白である。しかしそれを勝手に配下である私がお伝えするわけにはいかなかった。ちなみに国境隊でも周知の事実である。それもあって、閣下に言いよる臣下が男も女も後を絶たないのだ。
けれど、他国からきた『エマ』様がそれを知るには時間が足りなかった。閣下はエマ様にその辺りのご釈明をしたのだろうか。あの狼狽した顔を見る限り、何もお伝えしてなさそうだ。
閣下をレオンと呼び捨て、たじたじにさせる相手は王族でも少ない。もともとは第三王女様が閣下にご執心で、王命で婚約させられそうになったところを、利害が一致した第四王女様が「姉上の日除けになってやろうか?」と持ちかけた。お二人が目指すのは白い結婚である。三年お子ができなければ離婚ではなくめでたく婚姻解消となる。
もうすぐ三年の年季が明ける、とお二人とも喜んでおられた。
婚姻歴に傷もつかず侯爵位も継げて熱狂信者の第三王女様は第四王女様の代わりに他国へ嫁ぐとなれば、閣下にとってこの婚姻関係はいいこと尽くしなはずだった。エマ様と出会う2日前までは。
「なんで来たんですか」
恨めしげに閣下が言う。
「噂になっていたぞ。堅物の侯爵様が謎の姫君の手をとり愛の逃避行〜♪」
「何ですかそれは」
ちなみにお二人は似た者同士でなんだかんだウマは合うが、双方お好みではないらしい。
「それを聞いて、お前の姫君を見てみたかったんだ。賢くていい子だな。それに今日は良い知らせを持ってきた。父上から婚姻解消の勅許を得たぞ。なんだもう要らないのか?」
「要ります」
「ここから挽回するの大変だな」
「誰のせいで」
「だからお前自身のせいだろ」
「…そうかもしれません」
「そうかもじゃなくてそうなんだよ、なあリュシアン」
「私に振らないでください」
「いいことを教えてやろうか。ああ、その前にあの子に護衛をつけなければな、影を」
「いえ、護衛なら私の手の者を」
「たわけ。お前は今日、あの子を傷つけて、あの子に嫌われたんだよ。お前の影なんぞつけたらストーカーだぞ。姉上にされた時の戦慄を忘れたのか」
「………」
ベルナデット様が柏手を打つと、精鋭がエマ様を追ってくれた。
「さて、特別に教えてやる。私もお前もあの子に会ったことがあるよ、ランベルトで」
「……気づかなかった」
「男だからな。国交があった頃の聖典祭でヴェールや包帯で目隠ししていた女性が何人かいただろう。あの目隠しは女性の前でだけ外すことがあるんだ。王族女性ということで私への挨拶ではみな礼儀として外していた。その中にいたよ」
「あの子はランベルト教会の聖乙女、いわゆる聖女だ」
「聖乙女…」
「白い結婚を白と思うのは王族貴族だけだ。我々にとって結婚はただの契約だからな。でも皆が同じ感覚と思うなよ?あの子が教会教育を受けていたならなおさらだ。婚姻関係というのは男女間で最も尊重されるものなんだ。
なのにお前は順番と手順を間違えた。まずは婚姻解消の正式公示まで大人しくしているんだな」
本編外小話
◇◇
「あの子は私に要らぬ罪悪感を持っている。だから私を通してならお前はまたあの子に会えるんだよ。私のおかげで首の皮一枚つながったわけだ、感謝するんだな」




