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05 王都裁判(2)

◇◇


馬車は2日かけて中央都の区画に到着した。


そのまま中心部にある裁判所に向かう。荘厳な建造物に王都裁判所の文字があった。

ここは貴族専用の裁判所だそうで、そもそも私は入庁できるのだろかと不安だったが、馬車に描かれた侯爵家の紋を見るなり、何もしなくてもすぐに裁判所の扉は開いた。


法廷横を通り過ぎ、2階の応接間に通される。応接に入り扉が閉まると、リュシアンが私の肩にかかっていたロングケープを預かった。露わになった手首の黒い手錠を、レオンから渡されていた鍵で外す。私は軽く手首の運動をする。

ソファに座りながらここは貴族向けの待合室なのかなと思っていたら、ゾロゾロと人がやってきてそのままいきなり裁判が始まった。お貴族様の裁判はこんな感じなんだ。下の法廷であれこれやるんじゃんないんだ。


リュシアンが準備していた書類とレオン直筆の書状を重厚なローデスクの上に並べる。いくつかの検査や問答を行った後、比較的すぐに審議結果が出てサインを求められた。リュシアンがまず目通しして

「不利益はございません。ご署名を」

と私に促した。

私も重要事項を確認する。署名するときは筆跡がバレないよう念のため左手にペンを持ち替えてサインした。


不法入国は重罪だが、相応の理由があれば裁かれる前に保護対象となるそうだ。しかも今回の身元引受人欄が侯爵位の自著であったから多くの確認事項が省略された。

同席した女性軍医の診断によると私が栄養失調状態だったため、庇護申請で通った。亡命扱いにならずに済んでほっとした。なるべく目立ちたくはない。


裁判所の審議は無事終わったが、「少しお時間をいただけませんかお嬢様」と裁判に同席したお貴族様に聞かれた。リュシアンを振り返るとちょうど事務手続きで外していたので、少しだけなら、と了承する。


案内された2階の別の部屋に入った。

長テーブルには上品なお茶やお菓子が並んでいて、テーブルの向こう側にはレオンが身元保証をした女に興味深々なお貴族様が並んで座っていた。4、5人はいただろうか。そうだ男性が2人、女性が3人。

お茶会か……。てっきり入国に関連する追加作業か何かだと思っていたのに。


先触れもなく突然、供から離されて、お茶に誘う。事前に言えばレオンに断られてしまうし、断れない相手の場合も対策をされてしまうだろう。みな侯爵に囲われたいわくつきの栄養失調女の失敗を望んでいるのだ。見下されているのがわかる。


これはあえてご期待通り野ザルのように振る舞うべきか、それとも…。目立ちたくはないが、自分のせいで世話になったレオンがこんなやつらに馬鹿にされるのも嫌だった。


私は淑女の礼をした。


部屋にいたお貴族たちが予想外のことに感嘆のため息をついた。これはランベルトの『躾』で得たものだ。しかしこれ以上はボロが出る。私は会話ができない。一方的に口上を述べるならまだしも、貴族の思惑に合わせて身を交わす、などという芸当は難しい。それにランベルトの聖殿や宮廷で発していい単語は少ししかなかった。「祝福を」「神よ」あとは何だっけ。


誰かに何かを尋ねられたが、節目がちに微笑みをたたえて、曖昧にただ黙っていた。早く誰か来てくれ。


黙っているのも限界になったとき、ガガガンっとおよそお貴族様のお茶には似つかわしくない大きな音で後ろの扉が開いた。ああ、リュシアンありがとう、そう思って振り返ると、そこにいたのは息を切らしたレオンだった。


「いなくなってしまったかと思った」

レオンは足早やに近づき、私の肩をそっと抱き寄せる。


「悪趣味ですよ、皆様方」

そう言ってレオンが小首を傾げて微笑むと、男女問わず頬を染めて口々に言い訳やお茶への誘いをかき鳴らした。


レオンは気にも留めず、丁寧に一礼すると、私の手を握った。私を引っ張るような形で部屋を退室し、駆け足で階段を降りていく。後ろからリュシアンも小走りについてきた。正面に止まっていた侯爵紋の黒馬車に駆け込む。とにかく急いでいたから、馬車の乗り方はレディもクソも無かったのだが、その辺りも美しく脚色されて「侯爵様が謎の姫君の手をとり逃避行」などというゴシップが王都貴族たちの間に流れたのだった。

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