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47 本物の神璽(3)



貴賓牢の応接で、王太子殿下と向かい合っている。

しんと静まった部屋で、レオンは片膝をついて謝罪をした。


「そのまま忠誠を誓えば、何もかも赦すのだが」

「二君にはお仕えいたしかね……」

「わかっている」


レオンに直るようにいい、王太子はフェリクスさんから受け取った布包みをテーブルの上に置いた。


「改めてこれをやろう。受け取れ」


レオンが包みを開くと、短剣だった。


「あのような不始末の後、こちらを賜るわけには」

「抜いてみろ。刃は(なまく)らの宝剣だ」


機能として人は切れないが、明らかに以前の下賜よりグレードアップした宝器だ。ふんだんに美しい鉱石が埋められ、金飾りで王太子印のどんぐりが施されている。


「これがあれば国内を自由に抜けることができる。ミラとともにノルドへ帰れ」


沈黙が流れる。レオンは思案してから、おもむろに口を開いた。


「神璽の話を、私にも聞かせてくれるのではないのですか?」


王太子が少し固まって、それから愛しげにレオンを見る。


「もう関わってはくれぬと思った」

「以前も今も、貴方様のお力になりたいと思っています」

レオンは真摯な眼差しでそう伝えた後、眉を下げる。

「ただ私は存外に嫉妬深い男でした」

「そうみたいだな」


しゅんとなるレオンに王太子が優しく声をかける。


「表向きはミラへの嫉妬と思われているぞ」

「え?」

「お前たちはほら、側妃だから」


あー側妃同士の争いってことですね。


「刃を向けようとした相手はミラで解釈されている」

「そう言われると、私をノルドに返そうとしたのも王太子様を独り占めするために見えますね」

「嘘でも苦しいです」

「だから私が二人をなるべく一緒にしないということで収まった」


王太子はにやりとする。


「睦むのは牢の中だけにしておけ」

「むつ……」


今度はレオンが固まっていた。


「では早速だがお前たちに神璽を見てもらおうか」

「ここへお持ちになったのですか」

「ああ、ど……」

と言いかけて、言葉を止めた王太子に私が「気づいています」と伝えると「へぇ、さすがだな」と嬉しそうにレオンを見た。そして、懐から艶のある布で包まれた神璽をそっとテーブルの上に置いた。テーブルに触れるとコトと硬い音を出す。


房のついた紫の布の中央に水晶のような小柱があって金の細工で飾られている。王太子は水晶を横に倒す。赤い印面が見える。底の部分は回転式になっていて、見えている印面はフクロウだった。

宇宙人みたいな、前世の土偶のような鳥の絵だ。どことなく見覚えがある。


「回転するんですか」

「試してみろ」


ローラーのように印面を回転させようとするが動かない。少し力を入れるが、バキッと壊したら怖いなと思って、諦めた。レオンも試したができなかった。


「他の者にはできないんだな」


王太子が持ち上げて印面を滑らせるとくるくると回転した。しかし。


「止めようとすると必ずフクロウになる」

「どういう仕組みなんでしょう」



「お前もやってみるか」

王太子が後ろに控えていたフェリクスさんに声をかける。

「フェリクスは公爵家の者なんだ。血脈を見ているなら回せるかもしれない」


よく気の利くこの護衛を、フェリクスさんと気軽な感じで声をかけていたが、フェリクス様と呼ぶべきだった。さん付け改めフェリクス様は印章を受け取る。


フェリクス様が長い指でそっと回転させると、何と動いた。同じくフクロウで止まる。回転をじっと見つめていて何かを察した王太子がリクエストする。


「もう1回」


言われてフェリクスさんが回すと今度は角のある獣だった。


「鹿か。もう1回」


言われるがまま何回もくるくる回すが、止まるのはフクロウか鹿だった。最後に鹿になったところで王太子はお願いを止めた。


鹿の印面をじっと見る。大木のような角が流線形に描かれている。木なのか鹿の頭なのか曖昧なデザインで、特徴的な紋様だ。雲のような波のような……あれ、これどこかで見たような。


「「あ」」


私とレオンが同時だった。私はレオンに「どうぞ」と発言を譲る。


「この印面は全部で4つですか」

「傾きからすると恐らく」

「殿下、お耳を」


レオンは殿下の座る椅子に近づき、顔を近づけた。殿下も少しレオンに体を傾ける。口元に指をかざして、レオンは何やら王太子に囁いた。その二人の姿に色気があってくらくらする。私より恋人ぽいんだけど。


「素晴らしい」


王太子が賞賛の声を上げる。レオンは神璽の姿に正解したようだ。

そして私はというと、ガチガチと手が震えてきた。


この印章と似た不思議な鹿の角の紋様を見たことがある。さっき見覚えがあると思った目のでっかいフクロウの柄も。これ土偶じゃん?と心の中で呟いたのを思い出す。


あの日、ランベルトから脱出した日、その箱は衣装部屋のテーブルに転がっていた。蝶番で留められた蓋がぱっくり開いたままで、中には何も入っていなかった。素朴な木製の箱だった。拾い上げると、外側に掘られた絵柄がちょっと可愛かった。いくつか私物の小物もあったので、しまうのにちょうど良いとそのままぽんとフロシキに放り込んだのだ。

木製でこれといった金や石の装飾もなく、まさかあれがそんなに価値ある品だとは思わなかった。金目のモノには見えなかったので、馬車の男にも渡さなかった。



「あの、犯人、私かもしれません」



私はものすごく気まずい心持ちで、恐る恐る手を挙げた。



本編外小話


◇◇


「この紙は何だ?」

「保釈金というか賠償金を考えていました」

「ずいぶん溜め込んだな」

「殿下はよくとも、不問では臣下が許さないかと思いまして」

王太子は走り書かれた計算を読み込む。

「桁をひとつ」

さすが王太子は鋭いと思ったら。

「落としてくれ」

意外な展開だった。

「その代わり分割で」

「分割」

「お前が私のところへ季節ごとに納めに来い」

レオンは提案の意味がわからず首をかしげる。

それ、ただ会いたいだけじゃないですか……私の呆れた顔に王太子は目を逸らして「どうだ?悪くない話だろ」と言った。



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