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40 貴賓室


王太子に続いて私とレオンも部屋を出る。夜着のままだが、その方が兄上も警戒しないだろうそのまま行け、と王太子が言い出したので、レオンにがっちりローブの紐を絞められた。



「殿下、紛失の咎とのことですが、ミラが持ち去っていない証明でも良いのですよね?」

「まあ、そうだな。よく気がつくことだ」

「あまりミラを脅さないでください」

「気に留めておく。私はお前が私のために動いてくれればそれでいい」


言ってから王太子は護衛に挟まれ、歩を早くし、私たちの先頭に立った。


私のせいでレオンがいいようにされているのか?と心配していると、

「大丈夫、あの殿下に命じられるのはそれほど嫌ではないんだ」

とこっそり教えてくれた。実は私も、と同意すると、レオンは眉間に皺を寄せた。なんでだ。


「王太子様は少し似ていますね。脅威的に振る舞うわりに人死には少なくしたがるところとか」

「似ているって誰と」

「……シオンさんと」

「もうバレているのだからその設定要らなくないか」


レオンは隙あらばレオンと呼ばせたい。でも私はどうも避けてしまう。

自分でも不思議に思う。コードネーム(?)のシオンならいくらでも呼べるのに、なんでかレオンと呼べないのだ。レオンさん……心の中で呼んで、その違和感におののく。レオンさんって何。


そうこうしているうちに聖殿奥の貴賓室に着いた。


「あ」


見覚えのある扉だった。東塔の前にここへ連れてこられた。絶対にレオンには言わないほうがいいだろう。


「ああミラは来たことがあるか」


王太子が余計なことをいう。横にいるレオンの視線が怖すぎて首を曲げずに正面だけを見る。

扉前の護衛に取り次ぎを頼むとだいぶ待たされてから扉が開いた。


「こんな時間に無粋だな、サミラ」

「申し訳ありません兄上」


「私の(いみな)だ。忘れろ」

王太子が私たちに小さく言った。私はその名を頭から消そうとした。しかし消そうとするほどしっかりと刻まれてしまう。へぇ王族の諱って女神様の名前なんだ、などと余分なことを考えてしまう。エルミラと同じくサミラも女神の名前だった。


貴賓室の中央の長椅子に、(元)王太子と女が酒を飲みながら重なっている。


「いい女を連れているじゃないか」


もちろん私のことではなく、元王太子はレオンのほうをじろじろと見ていた。


「兄上、私の女がここに逃げ込んだようです。探しても?」

「好きにしろ」


私たちは貴賓室の奥に進む。通り過ぎようとしたら、


「待て。お前は残れ」


と言って元王太子がレオンの服の袖を掴んだ。


「乙女では無さそうだが、ここまで美しければ許そう」


いやいやいや、レオンがあんたに許してもらう必要性ゼロだけど!?と怒りが込み上げてくるが

「あやつならうまくやるだろうから放っておけ。その間にここの壁をすべて調べるぞ」

王太子はそう言って「右の方」に声をかける。

「お前はミラについていろ」


「右の方」がレオンの代わりに私の横に並ぶ。それを見てレオンは安心したのか、元王太子の前の椅子に座った。


「なかなか美しいではないか。名はなんという。私はサフィラだ」


元王太子はレオンにあっさり自己紹介してしまった。サフィラも女神の名前である。


「……今のも諱だ、忘れておけ」


忘れろと言われるほど考えてしまう。そういうことってある。サフィラって何の神だっけ?と聖典に自分で書き込んだ超図解女神様相関図を思い返していると王太子が、


「忘れろよ」


と言って私のおでこを人差し指でぽんと軽く押した。

するとどうしたことか、さっきまで何を忘れようとしていたのかを忘れた。私が忘れようとしたのはなんだっけ。


ふと見ると、レオンは元王太子の向かいに座ったままお酌をしている。元王太子はデレデレである。あんな銀座のクラブのママみたいな立ち回り、いつどこで覚えたのだろう。


レオンが気を引いているうちに、床材や壁や家具をコツコツと叩きながら、全員でくまなく調べるが、とくに怪しい造りはなかった。


「兄上、ここにはおりませんでした」

「そうか。お前、逃げられるほど女に無体するなよ」

「はは、気をつけます」



「無体……?」

「するわけないだろ。調子を合わせておけば兄上は私にも協力的なんだ」

私のつぶやきをすかさず拾い上げ、王太子は小声で弁明する。


「兄上、戻りますので、その者をお返しくださいませ」


元王太子は渋ったが、王太子がもう一度「お返しください」と優しく、しかし毅然とした態度で言うと、諦めて侍らせている女といちゃいちゃし始めた。


レオンが戻ってきて合流し、みなで揃って貴賓室を出る。


部屋を出るなりレオンが王太子に尋ねた。

「先ほどミラに何をなさったのですか?」

「まじないみたいなものだ。お前もしてやろうか」


王太子は人差し指を差し出す。良いとも悪いとも言わず、レオンは不機嫌な様子で王太子を見る。


「この私がお前のご機嫌取りをする羽目になるとは」


王太子は「寝物語でも聞かせてやろう」と言って、私たちを寝室に手招きした。



◇◇


本編外メモ

◇◇

女神エルミラ 最高神

女神サミラ

女神サフィラ

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