表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/40

36 王太子殿下


王太子殿下と近衛たちが聖殿に到着したとの知らせで、神殿の小広間に呼ばれる。小塔の牢部屋から何ヶ月ぶりかで外に出た。

レオンと数人の護衛をとともに、広間で頭を下げて待つ。レオンも侍女として、本物の侍女の横に控えている。だが本物の侍女の手は小刻みに震えていた。

広間で待機する近衛たちを見てレオンがわずかに反応した。ああバレないだろうか。


王太子の入室だ。私たちの前の大きな背もたれの椅子に座ったようだ。近衛から合図があって顔を上げる。王太子殿下の正装は白地に金糸と女神様の紋様で、王族にしては短く刈り込まれたブルネットの髪……ブルネット?前にぼんやりと見た王太子は黒髪では無かった。レオンも同じことを思ったようだった。


「悪いな。元の王太子がお前のことを忘れていたようだ」

「ハハァ……」


元?元って何?ぺこぺこしながら疑問がぐるぐると頭を駆け巡る。


「お前は平民か?」

「へ、平民です」


あまりの威圧で噛んでしまった。





「前の」王太子はこんな鋭い感じでは無かった。顔はぼんやりとしか覚えていない、興味が無かったから。それは相手も同じだったようで、私と顔合わせの場であからさまにがっかりされた。

「美貌の将軍が尻を追いかけているというから期待したのに」

まさかそんな理由でわざわざ呼び戻したのか?

「でもよく見ると可愛いかも」

王太子は目を凝らして私に顔を近づける。ついでに口付けくらいは味見しようと少し口を開いた。

「殿下」

(はべ)っていた女のひとりが声をかけた。私を守ろうとしたのか、自分の立場を守ろうとしたのか定かではない。なかなかの美少女だった。

しかしその声よりも早く、私は自分と王太子の間に手のひらを差し込み、その唇を遮った。咄嗟にやってしまった。


「こっちでいいか」

前傾になっていた体を元に戻し、王太子は声をかけてきた美少女とむつみ合い始めた。立派な長椅子には王太子と彼にしなだれかかる二人の女が座っている。


私は固まったままどうしていいかわからない。


「こいつを下がらせろ。東の塔にでも入れておけ」


「殿下」

今度は近衛らしき男が嗜めるように声をかける。


「どうせ将軍が散らした後なんだろう?つまらん」

近衛はやるせない感じで私を誘導し始める。

「あとお前もクビ」


「殿下!」

「聖乙女を国外に(のが)したのだから当然だろう」

別の近衛が抗議の声を上げるが、言われた近衛が周りを制する。深く敬礼し私を連れて退室した。





「他の聖乙女もここに呼ぶ必要があるか?私はもう決めたが」

新しい王太子の声だった。


「はい、しきたりで」

司教がおずおずと答える。

「は、よく言うことだ。お前たちが勝手に定めたのだろう」

新王太子は冷めた目で司教を見る。

「まあよい。従ってやろう。全員集めろ」



そうして私以外にも聖乙女がぞろぞろと小広間に入ってきた。

50人はいるだろうか。あの日、前王太子に侍っていた女たちもいた。あれは聖乙女だったんだ。


ずらりと整列させられた女たちの前で、王太子はおもむろに口を開いた。


「側妃はお前」


私が指さされた。ぞわぞわと不安と恐怖が込み上がってくる。前の王太子の比ではない。


「と、お前」


続いて、私の後方を指さす。

誰かの「えっ…」という声がした。


「正妃は空席、以上だ」


王太子はざわつく広間を見渡す。


「側妃はここに残れ。それ以外は暇を出す。10日以内に退城しろ」


広間がしんと静まり返る。


「国庫は空に等しい。私の財で恩賞を出そう」


それを聞いて再び広間がざわざわした。聖乙女の仕事は女神への奉仕だから基本無給で、事情があって退役するときも何も労われないのが常だった。集められた聖乙女たちは、半分は嬉しそうに、半分は不安そうに部屋を出ていく。


「殿下。これでは聖なる力が」

「聖女見習いなら地方教会にいくらでもいるだろう」

王太子が司教を睨みつける。

「中央の聖乙女はただの後宮だ。馬鹿馬鹿しい」

ぴしゃりと言われて司教はうなだれた。


「そ、それに聖乙女以外からお選びになるのは」

「ここにいる誰でもいいんだろう?何か不都合でも?」

司教はあわあわしている。

「お前も下がれよ」

言われて司教も退室した。



「さて」

王太子は自分の護衛も側近2人のみを残した。

「後ろのお前はもっと前に出てこい」


そうだ、私のほかに、もうひとり側妃が選ばれたんだ。

勝手に振り返ったらそのまま首を落とされそうで、前方にいた私はその人を確認できなかった。もしかして前王太子に侍っていたあの美少女だろうか。


もうひとりの側妃が私の隣に並び立つ。私は心臓が止まりそうだった。見なくてもわかる。私はこの先の展開に、悪い想像しかできなかった。


「大きいほう、名前は?」

「シアンです」


レオンのかすれた声が広間に響いた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ