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29 入国(2)

◇◇



セルジオの予告通り、呆気ないほどすんなりランベルトの関所を通れた。入国しようとする列はまばらで、時間もそうかからなかった。


「いつもご苦労様です!」

ランベルト側に足を踏み入れるとセルジオは関所の兵士たちに差し入れも用意していた。木箱には食糧やちょっとした生活用品、石鹸やタバコなどが入っている。感心していると説明が入る。

「これで罪が軽くなったりはしませんけど、しょっ引かれる時に優しくエスコートしてもらえます。あとお茶出してもらえたり」

セルジオは楽しそうに言うが、しょっ引かれたことがあるのだろうか。

「でも一番は身元引受人を呼んでもらえることです。それなりに資産があると思われて保釈金で解決しますんで。お金がなさそうだとその手続きにすら進めません」


「セルジオ様」

早くも「設定」を忘れかけているセルジオに嗜めるように声をかけるとセルジオは身震いして

「シ、シアンさん、急に呼ぶのはちょっと」

などと言って顔を覆っている。


「なんだセルジオの兄貴、いい女連れているな」

先ほどの様子をイチャイチャしてると思ったのか、関所の馴染みらしい門兵が声をかけてきた。「へぇ」と私をじろじろ見た後「どれ」と言って、私の顎に手を伸ばそうとする。セルジオがすかさずその手を柔らかく受け止めて、間に割って入る。


「ごめんなさいね、いま俺この人に本気だから。これお詫び」

「なんだよ、本命かよ。悪かったな」


そう言って兵士は伸ばした手を引っ込めて追加で差し出されたタバコの箱を掴む。門兵はしばらく惜しむように私を見ていたが、次の通行人がきたので業務に戻った。


「セルジオ様は人あしらいがお上手ですね。感心します」

関所を通過し、門兵たちが見えなくなったところで声をかける。結果的に簡単に抜けられたが自分1人だったら揉めた気がする。

「そうですか。慣れですよ慣れ」

「経験の賜物ですね」

セルジオは照れた。

「でも帰りに今のがいないといいんですけど。完全にシアンさんの顔覚えちゃってますよね」

セルジオはため息をついて言った。

「美しいのも罪ですね」


美しいのは罪。美しいのは呪い。スティルトの言葉も重なる。


「でも!美しさは武器でもありますから!」


何気ないセルジオのつぶやきに暗くなりかけたが、一瞬でまたセルジオの言葉が救い上げる。やっぱりこの男は好ましい。帰ったら正式に侯爵家名で契約したいなどと考える。


「荷物を片付けたら、さっそく中央区の司教に挨拶しに行きましょう。気持ち悪がらないでほしいんですけど、あの司教、シオンさんならすんなり教会内に入れてくれると思います」

「言わせんな、と言ったアレですね」

「アハハ……」

セルジオは目をそらして頭を掻く。

「教会には王宮の侍女も出入りしています。あそこは実質、こ…王宮みたいなものなんで。侍女にもなるべく愛想振り撒いてくださいね。お探しの方、教会で情報を掴めなかったら、王宮内に入らないといけませんから。侍女の手引きが必要になります」


馬は国境に置いてきたので、ランベルト内の拠点まで下男たちが荷車を押している。その横をセルジオと話しながら歩いていたが「お姉さん」と何度か声をかけられた。その度にセルジオが相手を(なだ)めて(すか)して追い払う。


「やっぱり教会の前に武器屋行きますか。心配だから。護身用くらい持っておいたほうが良さそうです」


軍服でなくても男のいでたちであれば、無闇に声をかけられることは無かった。女性というのはなかなか大変なのだなと私は思った。



◇◇

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