28 入国
「いいですねぇ、不揃いの髪が」
セルジオが嬉しそうだ。他の者も驚いていた。髪型が少し違うだけでこんなにも反応されるとは。20年近く同じ髪型をしていたから、もの珍しいのかもしれない。
「髪も染めましょうか。元が銀髪なら簡単にできますよ」
「頼む」
ランベルト国境目前のセルジオの拠点で最後の調整をする。
灰色の目立たぬローブを着ているが中は女性の服だった。女性服といっても巻きスカートのような上衣に乗馬服のような長履きとがっしりとしたブーツを合わせてある。女性服も男性服のようだが、巻き方の右左が違うのと、男性と女性で使って良いモチーフや色が異なるのだとか。そして女性は女神のシンボルである白地に金の刺繍をしてはいけない。許されるのは教会服のみだという。
私の上衣の色は曇天のような青灰だった。
「本当は濃紺とかロイヤルブルーが良かったんですけど、目立っても良くないんで」
そう言ってセルジオは自分の上着の前を少し開いた。
「裏地に入れました」
裏地!着ているとき裏地が派手だなと思っていた。
「入国自体は簡単です。洋服や靴など至る所にお金を入れておいてください。石か金も縫い付けて。今は国の中がガタガタなんで、捕まったとしても下っ端なら賄賂でなんとかなる可能性も高いです」
すでにベストには小さな宝石がいくつか縫い付けられている。用意がいい。
「あと平民には食糧です。干した食材をたくさん用意しました。これも腰カバンに常時入れておいてください。高過ぎず安すぎずでちょっとした案内やお願いを頼むにもいいですよ」
干した果物や穀物の入った小袋を渡される。
「武具の持ち込みはできませんから、入ったら馴染みの店で揃えます。生活用品ギリギリのサイズで調達しましょう。長剣は登録が必要で足がつくので無理です。必要なら戦った相手から奪うしかないですね……」
経験があるのだろうか。さらっと物騒なことを言って頼もしい。
私は長剣と短剣をセルジオの拠点に置いていく。侯爵名の入った長剣が手元から離れるのは初めてのことだった。
「明日出発しますんで。下男や商会員もきますから、お名前どうしましょうか」
領に置いてきて泣かれたリュシアンのことを思い出した。
「シアンで」
「かしこまりました!完全に偽名だと何かあった時に出国できない可能性があるので、関所名簿は家名無しのレオンで、それ以外は通称シアンでいきますね。名簿は代表の俺しか見ませんから」
事務連絡の後、セルジオはデレデレしながら個人的感想を付け加える。
「ああシアン、いい響きです!中性的でいいですね!ナイスチョイスです!この後は戻ってくるまでシアンさんと呼ばせてもらいます」
◇◇




