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24 - 幕間 -


◇幕間◇


「レオン様は女装するのが良いと思います」


セルジオ・カラヴェラが自信を持って意見してくる。いつもの娼館でランベルト行き商隊の計画を詰めていた。


「神殿に入ってからは男性でも良いかと思うのですが、それまでは女性の姿のほうが安全かと。特に国境沿いではお顔が知れています」


一理ある。しかし女装とは。


「ランベルトは北方民族も多く、女性の上背もありますよ。問題ありません。あとは羞恥心を仕舞うだけです」


それもそうかと了承すると、セルジオは「やったぜ」と言って大喜びした。これは防護以上の感情ではないかと訝しげにしていると、誤魔化すようにセルジオが質問してきた。


「ところでレオン様はなぜその髪型なんですか」


長髪の男性は珍しくないが、肩までに切り揃えて下ろした髪はあまり見ない。亡き母が私のこの髪型を好きだったからなんとなくこれで定着したが、たしかに貴族の童子のようではある。


「母がこの髪型を気に入っていたから」

「レオン様のお母様、天才ですね!!」


言ってから、いい年をして母親が理由などみっともなかったと後悔したが、褒められて終わった。気をよくした私はぺらぺらと続けてしまう。セルジオは商売人の才がある。


「入隊後すぐの時期だけ短髪だったが」

「えええ見たいです見たいです!!その頃に描かせた絵とか無いんですか」

「領地の本邸にあったはず」

「貴重!!戻ったら見に伺ってもいいですか」

「はは、招待しよう」


セルジオは戻ってくる前提の話をする。それはランベルト往復便という地獄道を明るく希望で照らしてくれる。


図らずも代名詞のようになっているこの髪型は変えたほうがいいだろうか。


「そうですね、結えるだけで印象が違うので出発前まで伸ばしましょう。ランベルトは髪結の職人もいないので向こうに入ったら勝手に伸びますよ」

「髪結がいない?」

「国内情勢が不安定だと、首の近くで刃物を持たせられませんからね。髪は伸ばすか自分で切るかです」


セルジオの砕けた言動を不快に思わないのは、商人として各地を実際に渡り歩いた現場感があるからだろう。関わるようになって気づいたが、彼はとにかく行動量が多い。

優秀な人間は好きだ。


「レオン様、実は今日、女性ものの衣装を用意してきました」


行動が早い。


「試着をしましょう。ご自身で着替えられますか。向こうの様式でなるべく複雑でないものを選びましたが」

「頼んでいいか」

渡された衣類を広げてみたが、わからなかった。

セルジオは「もちろんです」と言ってから静かになった。シュルシュルと布が動く音だけが響く。


私は身を任せながら王立騎士団の入隊時を思い返していた。

入隊時の規定が短髪であったからばっさり刈り込んでいったら上官に泣きつかれたのだ。「俺がいじめているみたいだから伸ばしてくれない?」と。

周りを見れば、貴族出身の隊員は新人であっても長髪だった。不文律に迎合するのは好まず、ルールはルールとして準じたかったから少し困った。一定の役職がつけば髪型は自由になるようだったから、なるべく早く官位をあげようと職務に励んだ。髪が耳にかかる頃にはその上官の上官になっていた。

その話をしたら「さすが解決の仕方が鬼ですね!そういう話もっとください!」とセルジオに満面の笑みで言われた。


◇◇


「よっしゃ、お召し替え担当ゲットだぜ」

馬車に小物類を取りにいったセルジオは自分を抱えるように拳を握った。

なるべく複雑でないもの、は少し嘘だった。標準よりも少し複雑なものを咄嗟に選んだ。

レオンは高位貴族でありつつ軍人で、たいていの身の回りのことは自分でできてしまう。だが宗教色の強いランベルトは民族衣装も日常着に取り入れられているから初見では着こなしが難しい。案の定、少し戸惑っている様子だった。


『頼んでいいか』と言われて小躍りしたかったが、なるべく平静を装って淡々と更衣を手伝う。絶対に肌に触れないよう、じろじろ見ないよう気を遣う。

(あ…こんなところにほくろ……)と気づいても無心を心がける。香水もないのにどこかいい匂いがするが、嗅がないように気をつける。

正直、下心はあったが、着替えを進めるうち純粋にレオンの肢体の造形美に圧倒された。ここまでバランスがいいとあの系統もいけるな、セミオーダーでアレンジしようか、などとアイデアが膨らむ。

そうして無事に着付けが終わった後、レオンから『また頼む』と言われたのだ。


飲み込みの早いレオンは本格民族衣装すら、ものの数日で覚えてしまい、残念なことに入国前にお役御免となるのだが、レオンファンの自分にとって至高の経験となった。



本編外小話


◇◇


「今の騎士団は短髪が多いですよね?レオン様が上になった時に髪型のルール変えたんですか?」

「いや、そのまま貴族の長髪は黙認だ。ルール外のことをしていると自分の居心地が悪いというだけで、長髪で何か不利益があるわけではない。ただせっかく入隊して配下になったわけだから、希望者は入隊の儀で私が髪を切ることにした。そしたらみんな短髪になった」

「レオン様やばい神団長すぎる」

「さすがに第三王子が列に並んでいた時は少し長めに切った」




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