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18 娼館

逃避行の姫と泣き別れてからフェーベルン卿は娼館通いをなさってるそうよ。たいそうな乱れようで、お気に入りの高級娼館には専用の部屋まで持っているらしいわーー



「という王宮の噂でございます」


もう領地にいるのだから王宮の戯言などどうでも良いだろう。リュシアンに確認を入れているのはベルナデット様だろうか。


「専用の部屋などない」


忠言に私は短く返事をする。そしてさっさと執務室を出ようとした。しかし右腕のリュシアンは見逃してくれない。


「娼館には行かれたのですか」

「行った」


リュシアンが悲痛な面持ちをしている。まさかうちの子が…と言わんばかりだ。リュシアンの子ではないが。


「身元の確かでない方との庶子が生まれましたらお家騒動です。そもそも貴方様なら、言葉は悪いですがそのような場所に行かずともどなたでもお選びになれますでしょう」

「ミラは選べなかった」


冷たく言ってから振り返ると、リュシアンは顔を崩して今にも泣き出しそうだった。


「すまないリュシアン、私の意地が悪かった」

「いえ私の気遣いが至りませんでした」

リュシアンはまるで歌劇のシーンのようにハンカチで涙を拭っていた。

「そういう行為はしていない。気晴らしに酒を飲んだだけだ」

「何か盛られるということがございます。護衛をお連れください」

「次からそうしよう。ありがとうリュシアン」


そう言って私は外套を羽織り、リュシアンの言いつけを無視して、また1人で娼館に繰り出した。



◇◇


『身元の確かでない方』それを言ったらミラもだな。リュシアンの言葉を思い出し、私は自嘲するように笑う。娼館の扉を潜ったとき、私が少し笑っていたせいか、女たちが一斉にこちらを見た。じろりと見回すとみな順に目を逸らす。しかし顔を赤らめてずっと見てくる者がいた。


その娘がすかさず寄ってきて腕に手を絡ませた。新しい顔だ。

「旦那様、なんて素敵な方。今日はど……」

「こら、手をお離し。その方は誰もお呼びにならないよ」

女将が慌ててすっ飛んできて小さな声で言った。「首が飛ぶよ」

新入りは「え」と言ってすぐに手を離して両手を軽く上げる。抵抗しませんの合図だ。熊皮を脱いだ後、ミラもこのポーズをしていた。


「名前は」

「え、あの、ミラージュです」

少し考えて

「いいよ、おいで」

と言うと新入りは戸惑いの表情を見せる。

妓名が少し似ていたというだけだった。


「いいんですかい、旦那様」

「ただの気まぐれだ」


「あの私、殺されるんですか」

「はは、殺さないよ」


その言い方がミラに似ていたので私は思わず素で笑った。その娘も、他の娘も、私のことを幽霊でも出たかのように口を開けて見ていた。



◇◇

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