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12 告白


『母上とミラは同郷か?』



答えに詰まって固まってしまった。そうかもしれない。温泉のときからうっすら誰か前世日本人がいたのか?とは思っていた。あの温泉は誰の指示で作った?他に日本人がいたらしい片鱗はあったろうか。逆に私の行動で何かこの世界ではやらないことをしていた、その可能性は多分にある。


レオンのお母様がなんらかの理由で日本に関わりがあるとして、転移者なのか?転生者なのか?前世の記憶を持っているのか?それを幼いレオンに伝えているのか、いないのか。何か書き残したものがあるのか無いのか。それによって話していい内容が変わる。必然自分についての開示も必要だ。


「わかりません」


私は本当にどう答えていいかわからなくて、ものすごく長い沈黙のあとそう言った。


「ミラ…良いのだ、私が大切に思う者同士に何か繋がりがあるのかと考えただけだ。ただ私が嬉しいというだけで。詮索したいわけじゃない」


「お前はすぐに地雷を踏むな?」

「ベルナデット様!!」


私はもうひとつ思い至ったことがある。

先ほど母を重ねているわけではないとレオンは言ったが、お母様の魂が日本人なら、今世の人々からすれば、私は相当似て見えるのではないか。

この美貌の侯爵が、初手から飛ばして自分のモノにしようとしてきた。そこまでの魅力が私にあるとは思えない。そこの違和感は拭えない。

だが幼き日に死に別れた母を私を通して見ているのであれば…。

自分のことをレオンと呼んでくれと言ったのも、あれは…。


「…ミラ、ミラ!」


呼ばれてハッと思考を止める。

「今ミラの頭のなかにある想像はたぶん違う」


レオンは私の下唇を親指でなぞりながらこちらをじっと見る。

「私は母の唇を欲しいとは思わない」

「これ、ここで口説くんじゃない」


ベルナデット様はお茶のおかわりを頼んだ。


「ミラはなぜそんなに自信が無いんだ?私はこやつがここまでおかしくなっている姿を見たことがない。普段から女にはそっけない。はたから見ても惚れていると思うぞ」

「僭越ながら。私も閣下とは長い付き合いですがそのように思います」

「社交が華やかに見えるかもしれないが、それは相手が勝手に寄ってくるだけで」

寄ってくるんだ…。私は俯いてしまった。


「ミラ」

心配そうにレオンが覗き込む。

プラチナブロンドがゆれてレオンのいい匂いがする。美貌の侯爵は宮廷仕様の軍服に身を包んで、まるで王子様のようだった。私は自分の甘い気持ちにめまいがした。


そのときベルナデット様は私に言った。

「ミラ、いま心のなかで思ったことをそのまま言葉に出せ。そのままだ」

なぜだかわからないが第四王女の言葉には抗えぬ強さがあった。

私はレオンを見て呟いた。


「なんでこんな人、好きになっちゃったんだろう」


レオンの目の色が変わる。いい終わるか終わらないかのうちに、私は腰を引き寄せられ、レオンに口をふさがれた。まるで今の言葉ごと食べられたようなキスだった。

ベルナデット様が席を立つ音がした。おそらくリュシアンも。


レオンは息も忘れて私のことを離さない。

ようやく唇が離れ、終わったと思ったらまたレオンが近づいてくる。あれ、今の息継ぎってこと?びっくりして体をのけぞらせると、頭の後ろをそっと押さえられた。逃す気はないと言われたようだ。今度は子どもにするように優しく顔中に口付けてくる。おでこも鼻先も、まぶたも耳も。

私がそれに慣れてくると今度は唇を深く。それで私が逃げるとまた弱めてを繰り返す。


お貴族様のキスって長くないか?これが標準なのか?


最後は、とめどなくキスを落としてくるレオンがうっかりテーブルの茶器を倒し「ミラ、怪我してないか」と慌てて唇と腕を離してようやく終わった。


日当たりの良い離宮は冬でも暖かい。庭園前はいつもより人が多かった。窓辺にいた侍女や巡回中の騎士、植物の世話をしていた使用人、口伝えに聞いてやってきた野次馬貴族、みんながあんぐり口を開けて、レオンの長い長い情熱的な口付けを遠巻きに見ていた。



◇◇



「次の鐘が鳴るまで続いたそうですよ!!」

「「「きゃーーーーー!!」」」

「何が何が」

「フェーベルン卿(兄)と逃避行の姫のアレですよ!!」


穴があったら入りたい。私がそれとは気づかず盛り上がっている侍女たちの横をすり抜ける。やっぱりあれは異常に長かったんだ。あんな、外で、恥ずかしい。王宮のバッシングを受けるかと思ったら、熱愛物語として馬鹿みたいにウケているようだ。

場を取り持ったのも第四王女であったから、尊き方も公認の仲ということで中傷もなく落ち着いた。


レオンはすぐに私と婚約したがったが、まだそこまでの覚悟がなく、庇護下にある婚約者候補という立場になった。いわゆる彼氏、侯爵閣下がエスコートを許すお相手である。

でも私は絶対に夜会には行きませんよ、と言ったらそれでいい、むしろ外に出したくない、と言われた。


昨日までお世話になったお店の仕事はどうしようと悩んでいたら、ミラが続けたいなら働いていい、その代わり警護をつけると言う。警護費用のほうが私のお給金より高くつきそうなので、店には町を引っ越すことになった旨を伝えて仕事を辞めた。

ミラに良くしてくれた店だからと、レオンはその後もそれとなく発注や融資などの助力を手回ししてくれた。ありがたい。


王都の侯爵邸でしばらくすごし、厳冬がくる前に侯爵領へ帰ることになった。

それまではベルナデット様とお茶をしたり、侯爵家が懇意にしている伯爵家にて私の養子縁組の手続きを進めたりしていた。


ノルド王国での日々が平和すぎて幸せすぎて、私はすっかり緩んでいた。ランベルトで私の捜索はまだ打ち切られていなかったのに。



◇◇




本編外小話


◇◇


「私も恋をしてみたいものだ」

「私は貴方様のように特別な力を持ってみたいですが」

「は、そんなものはない」

「継承戦、楽しみにしております」

「その時はお前も助けてくれよリュシアン」

「もちろんですとも」



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