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公爵令嬢だけが何も知らない世界~無理やり婚約させられたのに、一方的に婚約破棄ってありですか~  作者: 白根 ぎぃ
第三章

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74、模擬戦後①~ディエゴ視点~《1年目》




 学園の訓練場。


 擬似魔物との模擬戦を終えたカッシオは、荒い息を吐きながら剣を地面に突いた。


「カッシオ、良い戦い方だったな」


「ハッ……はい、殿下」


 荒く息を吐くカッシオに、呼吸一つ乱していないディエゴが褒める。



―――まあ、ここまでは予想通りだな。カッシオがここまで強くなっているのは、僕がゲームの知識を活用しているのだから、当然だ。



 カッシオ以外にも穏やかに周囲に声をかけていくディエゴは、間違いなく学園で一番の存在だった。

 火、水、風と三属性持っており、その複合魔法を齢十六ですでに使いこなしている。


「私もまだまだ鍛錬しないと、すぐにカッシオに追い抜かれそうだね」


 その彼を守るべく、カッシオもまたとある方法で周囲の同年代より強くなっていた。


 その、とある方法というのはディエゴあってのものだった。


 主人公が攻略者たちとレベル上げするために使用するアイテムやイベントを、先にこなしていたのだ。



―――ただのレベル上げだから、恋愛感情は皆無でいい。ゲームでは主人公(アンナ)が神聖力に目覚め学園に入学して以降に始まるレベル上げだが……どこに隠されているのかが分かれば容易く奪い取れる。すまないな、アンナ。今後もお前が僕の先に行くことはない。



 先回りすることで、カッシオはディエゴに追いつくことはできないが、周囲の生徒や年齢が上の青年騎士よりも強くなっていた。


「そんなことはありません! 殿下は唯一無二のお方です! 今も我らと同じ年で、魔法を使いこなしておいでではないですか……!」


「そうです! ディエゴ殿下を見習って、僕たちの方がもっと鍛錬を積まねばっ」


「ああ! そうだな、我らももっと努力をしよう!」


 ディエゴの言葉に、疑似魔物との模擬戦に参加していた生徒たちは頷き合う。


 参加していた男子生徒も女子生徒も、互いに認め合い高め合うことを誓っている。これも全てディエゴの求心力というチート能力である。


「君たちだけが努力すればいいというわけではない。学園全体で努力して、高め合っていこう」


 ディエゴの銀色の髪がふわりと風で揺れる。


 その姿は亡き母であるシルヴィア前王妃に生き写しのようであった。

 銀色の髪が揺れて見える首筋は細く、体の線は細い。だが、この場にいる生徒、そして学園にいるどの生徒よりも強いのは事実である。


「はい! 殿下のために、我らは精進いたし……っ」


 その場にいる生徒が、ディエゴを囲むようにして膝をつき、礼をしようとした。

 カッシオが、う、と呻き声を上げる。周囲の生徒は皆、礼をとっている。


 擬似魔物との打ち合いの最中にカッシオは深い裂傷を負っており、今の今まで気づいていなかったのだ。礼をする動作の痛みで、初めて怪我に気付いた。


 じわりと滲む血が、徐々に袖に広がっていく。


「カッシオ様! 大変、怪我をしているわ……!」


 駆け寄ってきたのはアンナだった。


 アンナはディエゴの激励の言葉を、少し離れた位置から聞いていた。

 自身もディエゴとカッシオたちと模擬戦に参加していたが、治癒担当のアンナは少し後ろに下がって治癒に専念していたからだ。


「……アンナ嬢、これしきの傷、大したことはありません。あなたは下がって……」


 ディエゴへの忠誠を誓っている最中での失態。


 そのことがカッシオには恐ろしく思えた。

 周囲は平民から直接ディエゴに取り立てられたカッシオを、厳しい視線でいつも見ている。今回もそうであった。だからこそ、些細な失態も許されない。


「大したことではありません! 殿下への忠誠はいつでも誓えます! ですが、この傷はかなり大きなものです。抉れているではありませんか……!」


「……ぅっ! へ、平気ですから……」


「殿下! 今、カッシオ様に治療をする許可をお願いしますっ」


 アンナはカッシオではなく、ディエゴに許可をとる。

 その場にいた生徒たちは騒めき、ディエゴを見やった。


「アンナ嬢、許可なんて必要ない。カッシオは私の大事な護衛でもあるんだ。私からも、是非お願いするよ」


「はい!」


 アンナは自身の服が血で汚れることも気にせず、カッシオの傷ついた腕を両手で包み込んだ。


 優しい光がアンナの手から放たれ、カッシオの傷付いた腕を包み込む。


「ああ、何度見てもアンナ嬢の力は凄いわ……」


「本当に聖女様の力は見ているだけで心が洗われそうだ」


 アンナは慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。


「……治療が完了しました。痛くはないですか?」


「あ、ああ……どこも痛くない。すまなかったな……」


「良かったです! 殿下、お話の最中にすみませんでしたっ」


 くるりと後方にいたディエゴに振り返ると、アンナが頭を下げるとピンク色の美しい髪が乱れた。


「……いいや、こちらこそ助かったよ。ありがとう」


「お礼だなんて……私は当然のことをしたまでですから」


 先ほどまでのディエゴを尊敬する眼差しはすでになく、今はアンナの治癒の光を見たことで皆の視線はアンナへと向かっていた。



―――この女……わざとか? いや、だがゲームでもこのシーンはあったな。カッシオとのスチルになっていたはずだ……なぜ、私は忘れていたんだ。先にけがを指摘するべきだったな。チッ。



 ディエゴは笑顔のままアンナを注視するが、周囲の生徒から褒められて、少し困ったようにたじろいでいる姿は演技をしているようには見えなかった。


「…………スチル、か」


 アンナがカッシオに治療をするスチル。


 それは何度も見たものであり、今同じ場面が再現されている。

 目の前の光景は、全てゲームのフラグ回収作業にしか見えていない。ディエゴにとってこのゲームの世界は、自分のためだけの物語(ディエゴのための世界)なのだ。


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