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公爵令嬢だけが何も知らない世界~無理やり婚約させられたのに、一方的に婚約破棄ってありですか~  作者: 白根 ぎぃ
第三章

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71、魔力測定のあと《1年目》

本日夜(22時頃になるかと)にもう一話アップ予定です。




 今までの鬱憤を晴らすかのように、特に女子生徒たちはベアトリーチェを嘲笑う。


 その声に反論するかのように、一人の少女が声を上げた。


「酷いわ……! やめてくださいっ! お姉様をそんな風に悪く言わないでください!」


 顔を歪めながらアンナは悲痛な叫び声を上げる。


 アンナは潤んだ瞳をクラスメイトたちに向け、必死にベアトリーチェを庇おうとする。

 だが、その純真に見える行動こそが、ベアトリーチェのプライドを踏みにじった。わなわなと震える手を押さえつけるかのように、ベアトリーチェはスカートを握りしめた。


「アンナ様、あなたはなんてお優しいの……。あんな、あんな……魔力も乏しい令嬢にまで」


「そうですわ、あの方はあなたを平民と同じと罵ったのですよ?」


「違います! お姉様にはきっと事情があるのですっ」


 アンナは皆の視線を集めると、ベアトリーチェに振り返った。

 顔を赤くし、俯いていたベアトリーチェは顔を上げると、アンナの目を見据え怒鳴りつけた。


「……うるさい! どいつもこいつも……王太子殿下の婚約者にも選ばれなかった女たちが、こんな時ばかり声が大きくなっちゃって……みっともないこと!」


 ベアトリーチェは自分を見据えるディエゴ、縋るような目を向けるアンナ、そして嘲笑を隠そうともしないクラスメイトたちを睨みつけた。


「アンナ、あんたのその偽善に満ちた顔、反吐が出るわ! あんたを身内と思ったことはないと何度言えば分かるのかしら。馴れ馴れしくしないでちょうだい」


「……っそんな……」


「それに……この測定結果だって、そうよ! これが正しいなんて誰が分かるのかしら? 先生だってすぐに出て行ってしまわれて……。本当に皆さんの結果も正しいのかしらねえ?」


 捨て台詞を吐き捨てるように、怒鳴りつける。

 ディエゴは俯いたまま、何も言わなかった。その態度こそが、生徒たちを増長させると知っていての行動であった。


 ベアトリーチェはスカートを翻すと、教室を後にした。


 アンナが何かを叫んでいる声が聞こえるが、それに構う必要はないと判断したベアトリーチェは足早に駆け出していく。


「お姉様! 待ってくださいっ」


 後を追おうとするアンナの細い手をディエゴが優しく掴み、止める。


「……よさないか、アンナ嬢。今は、彼女も一人になりたいはずだ」


 その声は、婚約者であるベアトリーチェに対する情を滲ませていた。


「ですが……お姉様が……」


 アンナが話そうとすると、その言葉を遮るかのように先ほどまでベアトリーチェに対して辛辣な言葉を投げつけていた侯爵令嬢たちが、笑顔でアンナを囲んで囁いた。


「アンナ様……本当に、なんて立派な態度なのでしょう。一応……姉ということになっている、無能な方の肩を持つなんて……」


「ええ、本当に。お優しすぎですわ。見ている私たちが心配になってしまいましたわ」


「そうですわ! あまり関わりますと、聖女様のお名前に傷が付きかねませんわ」


「あの、そんな……お姉様はそんな方では……」


 アンナは困惑したように立ち尽くした。


 ディエゴも、周囲の生徒も誰もアンナを助けることはない。

 眉根を寄せて困った表情を浮かべているアンナの顔を見ると、ディエゴは内心醜い感情が湧き出してきた。


「さあ、皆。授業は終わっていないよ。ベアトリーチェは僕の側近に探させるから……()()()していようじゃないか」



 教室での会話など知らないベアトリーチェは、廊下をがむしゃらに走ると、人気のない中庭で足を止めた。


 肩で息をしながら、震える自分の手を見つめる。



―――なぜ……? 公爵家の血を引く私が、平民以下の魔力だなんて……。何かの間違いよ、絶対に……。お父様もお母様にも、魔力を見せた記憶が……記憶があるの? あったかしら……思い出せない……。なぜなの……?



 いくら記憶を辿っても、昔の記憶は思い出せない。


 自分には、母と同じ火の魔力が宿っていた。

 だが、あんなにもか細く使い物にならないほどの魔力だったとは、信じられない。


「……悲しむ暇なんて、ありませんよ。ベアトリーチェお嬢様」


 背後から響いた声は、冷たく昏い。


 ベアトリーチェは心臓が跳ね上がるのを感じながら、後ろを振り返った。


「ジルダ……。あなた、なぜここに……」


 いつの間にか後をつけてきていた、ジルダが立っていた。


 髪留めで前髪を留め、昨日の痣を晒したジルダは、冷たい視線でベアトリーチェを見つめていた。


「碌な魔力も持たない婚約者なのですから、王太子殿下の言われる通りに動くのです。婚約者でありながら……まさか魔力が平民以下とは……ふっ。さあ、次の授業が始まりますよ」


「やめて……戻りたくないわ……っ」


「我儘を言える立場ですか?」


 ジルダはベアトリーチェの腕を強い力で掴み上げた。


「うっ……嫌よ、嫌なの……! お願い、ジルダ……今日だけは……」


「ふふ、公爵令嬢のお願いですか……。とても良い響きね。でも、駄目よ。あんたは笑われるためだけに、あの教室に戻るのよ。それがあんたの役目なんだから。さあ、早く行くわよ」


 抗う力すら残っていなかった。



―――今戻れば、きっと笑われる……。ああ、良いわ……どうせ、未来は変わらないのだもの。ディエゴ殿下の言われる通りに振舞うことが最善なのよ。



 ベアトリーチェは、ジルダに引きずられるようにして廊下を歩く。


 教室に近付くにつれ、頭はぼんやりとしてくる。



―――ああ、またこの感覚……。なぜ、こんなにも頭がぼんやりとするの……。


 

 教室に入った瞬間、嘲笑するかのような視線が刺さる。


「ベアトリーチェ、皆が心配していたよ。さあ、皆に迷惑かけた謝罪を……」


「……なぜですか、ディエゴ様。私は……わたくしは王太子殿下の婚約者ですもの。そのような些細なことで謝罪などいたしませんわ」


「……! ああ、なんてことを言うんだい、ベアトリーチェ!」


 嘲笑、憐れみ、拒絶。


 ベアトリーチェの口からは、自然と言葉がこぼれた。


 考えることなど、もうベアトリーチェにはない。

 ただディエゴの思うままに言葉を返せばいいだけなのだ。



 これからの学園生活など、ベアトリーチェにはないも等しい。



「まあ、なぜそんなにお怒りになるのですか、ディエゴ様? わたくしは王太子妃になる女ですもの……そんなに簡単に頭を下げるような真似は致しませんわ」

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