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第60章 東雲ハコネのお願い

私は本家の居間にいた。欣也伯父さん、ノブオ爺ちゃん、サナエちゃんと今後の話をしていた。テーブルの前には暖かいお茶と、サナエちゃんが買ってきた肉まんがあった。


今頃、ナツは寒空の空で、門番をしている頃だろうな。さすがに可愛そうなので、肉まんでも持っていってやろうかな? いや、アイツは甘やかすと、限度を知らない奴だ。よし、やめておこう。やれ、ピザまんがいい、カレーまんがいいとか言い出すに違いない。


その時、スマホに着信があったのだ。んっ? ハコネからか……。

「ハコネ、なんかあった?」

「冬子ちゃん、姉ちゃんがヒットマンに狙われておるんや。外にハルクらしき人物がいるかもしれへん。おそらく、網代組の残党や。どうしたらええ?」


網代組の解散に不満があった奴らが、最後に一花咲かせようとしているかもしれない。確かに、網代オジさんが組を割った原因はシマ姉さんだ。まず、シマ姉さんを最初に殺す理由には十分だ。


私は詳しい状況を聞く。

「今って何処にいるんだ? それと、護衛の数と敵の数は?」

「場所は八王子の闇医者のところや。こっちの護衛はウチしかおらん。敵は分からんが、10人はおると思う」

「そうか、分かった。すぐに兵隊を送るよ。間違っても、ハルクとは戦うなよ」

「うん、分かったで。あっ、ちょっと待って、姉ちゃんが何か言っとるわ……。はいはい、姉ちゃんが直接会って、何か伝えたい事があるみたいや。それでな、冬子ちゃんにも、八王子に来てほしいみたいや。 正直、姉ちゃんの体調も良くないんや。もしかしたら、後遺症が原因かもしれへん……。まあ、すぐに死ぬ事はないと思うんやけど……」


ハコネの声のトーンがやたら暗い。クソ、病状が悪化したのか? もしかして、死ぬ前に伝えた事があるのかもしれない。それに、私はハルクが相手なら、リベンジもしたいと考えていた。


なので、私はシマ姉さんの指示に従う事にした。

「分かった、私も八王子に行くよ。それと、兵隊は赤坂組の組員を連れていく。10人もいれば大丈夫でしょ?」

「うん、任せるで。けど、赤坂組の組員を10人も連れてきて、本家のガードは大丈夫なんか? 会長が殺されたらシャレにならんやろ?」

「欣也伯父さんには、サナエちゃん、ノブオ爺ちゃんの2人が守っているから大丈夫だよ。まあ、本家は2人に任せよう」

「ありがとう。でも、冬子ちゃんも気を付けてな」

「うん、分かった。ハコネも外に出るなよ」


そこで、電話を切った。ヤバい、ヤバい、ハルクがシマ姉さんを狙っている。ハコネは強いけど、ハルク相手ではどうにもならないはずだ。私は一連の事情をみんなに説明をした。


欣也伯父さんが静かにうなずく。

「大体の事情は分かった。なら、赤坂組の組員を10人は連れて行け」

「伯父さん、ありがとう」


サナエちゃんはニッコリと笑った。

「本家は私とお爺ちゃんに任せてください。必ず、会長の命は守りますので、ご安心してください」

ノブオ爺ちゃんも黙って頷く。


それから、サナエちゃんはコルトウッズマンを差し出した。

「これを私だと思って使ってください。ハルク相手なので……」

「でも、サナエちゃんは?」

「私にはこれがあります。こちらの方が得意なので……」

そう言って、大型のサバイバルナイフを見せた。


私はコルトウッズマンを後ろのベルトに挟んだ。これはいざって時の切り札だ。そして、ハコスカに乗ってエンジンをかけた。私が運転するハコスカの後を、ヴェルファイアに乗った赤坂組の組員がついてくる。人数は全部で8人だ。サナエちゃんと同じように軍服の上着を羽織っている。


屋敷内にいる門番が車を出すために、鉄製の門を開けてくれた。ギギギギという鈍い音が聞こえた。この扉は鉄板入りで、拳銃ではビクともしないものだ。


私が外に出ると、ナツが不貞腐れた顔で門番をしていた。こちらへ気が付いて、運転席の窓をバンバンと叩いてきた。私は仕方なく、窓を開けて対応した。


ナツはこちらの事情を知らずに、能天気な顔でのぞいてきた。

「あれれ、冬子ちゃん何処に行くの? 俺も連れて行ってよ。寒すぎで冷凍みかんの気分よ」

「悪いな、今はナツにかまっている暇はない。シマ姉さんがピンチなんだ」

「シマ姉さん? ああ、そういえば資料が……」


私は話が長くなりそうなので、すぐに車を発進させた。

「ナツ、今は時間がない。帰ってきたら聞くわ」


ここから、八王子までは飛ばしても、30分以上かかると思われる。なんとか、ハコネに持ちこたえてもらいたい。とにかく、急いで助けに行くしかない。もう、父さんや、真一みたいに家族を亡くしたくないのだ。東雲姉妹は私が守る。



俺は寒空の下で門番を続けていた。上はスカジャン、下はスカートで生足を出しているので寒い。こんな警備員みたいなクソな仕事勘弁してくれ。時間が過ぎていくのが遅すぎる。まるで、拷問に近い。しかし、この資料を冬子に渡してやろうと思ったのに……。


しばらくすると、若い組員が出てきた。

「ナツ様、門番交代の時間です」

「うん、分かった」


私はノソノソと本家の方に足を運んだ。振り返ると、鉄の門がギギギギという音を立てて閉まった。これなら、誰も入って来られないだろうよ。門番の意味あるのか?


そして、玄関ではサナエちゃんが出迎えてくれた。

「ナツ様、ご苦労様です。肉まんを用意していますよ」

「わーい、ありがとー」


俺は玄関を抜けて、居間に移動をした。畳張りの部屋は大きくて、何十人も寝られそうな広さだ。長机の周りは冬子の伯父さん、ノブオの爺さんなどがいた。


そのノブオ爺さんが声をかけてきた。

「さあ、ナツちゃんも食べな」

「サンキューです」


俺は横に座って肉まんをモグモグと頬張る。

「うめーな。日本って何でも旨いな」


ノブオ爺ちゃんは俺の持っている資料に気が付く。

「その資料は?」

「ああ、東雲不動産の人が持ってきたやつみたいです、はい。肉まんうめー」

「ちょっと、借りるぜ」

あれ、東雲シマ以外に見せて良かったっけ?


まあ、身内に資料を渡したからいいか。結局は天王洲家のシノギの話だ。それから、3人は資料とにらめっこしていた。そして、何やら難しい顔つきになっていく。


まあ、俺には関係ないことだ。そんな事を考えていると、外で爆発音が聞こえた。何だ、爆弾かダイナマイトか? なんか、嫌な予感がするんだが……。しばらくすると、居間のふすまが開いて、スーツの若い男が入ってきた。


男は顔を真っ青にして、ハアハアと息をもらしていた。

「かっ、会長、カチコミです。網代とハルクです」

「他には?」

「あとは10人程度の兵隊を連れています。全員が門の前で暴れています」


どうやら、トラックに乗った網代ケン、加古川ハルク、その子分の10人が天王洲本家に殴り込みに来たみたいだ。いわゆる、カチコミってやつだ。


まず、ダイナマイトで天王洲本家の扉をぶち壊したらしい。門番をしていた男は、跡形もなく消えてしまったみたいだ。もし、30分前だったら、俺が死んでいたな……。あぶねー、あぶねー。


それから、網代は日本刀、ハルクは素手、子分達は拳銃やドスを握りしめて武装しているらしい。そして、天王洲の本家を守る兵隊と一戦を交えているみたいだ。


まず、赤坂ノブオが立ち上がった。

「サナエ、お前はここで会長をお守りしろ。俺は子分達となんとか食い止める。おそらく、網代は死ぬ気だぜ。俺もどうなるか分からん」


すると、サナエちゃんが頷く。

「ええ、私は大丈夫です。ですが、本家にいる兵隊は20人程度です。赤坂組の子分は一人もいませんよ。大丈夫ですか?」


赤坂ノブオはポケットから、手榴弾を取り出して、こちらに見せてきた。

「まあ、網代かハルクはコイツで一緒に連れていくぜ……。まあ、任せろや」

あの加古川ハルクがいるのか……。賞金額は8000万ギルだ。ハハハ、やってやろうじゃねえか。


俺も立ち上がって、ノブオの爺さんに話しかける。

「俺も行くぞ、ハルクとはケリをつけてえ」

「ふっ、死んでもしらんぜ。赤毛のお嬢ちゃん」

「ハハハ、爺さんも無理すんな。俺がハルクを倒してやるから、邪魔だけすんなよ」

「ハハハ、タメ口かよ。まあ、期待しているぜ、じゃあ、行くか」

「おうよ」


赤坂ノブオという爺さんは修羅場を潜っている事は分かる。70歳に近い年齢だろうが、南米のロック歌手って感じで若い。そして、歩き方からして、軍人の経験があるのが分かる。


この爺さんと俺なら、なんとか食い止められるかもしれない。まあ、しくじっても、せいぜい死ぬだけだ。殺し合いはいつもそんなもんだ。


俺と赤坂ノブオは玄関の方へ向かった。どうやら、外は戦場になっていたみたいだ。

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