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第58章 天王洲会 VS 山形組

あれから、関東網代一家の戦況は悪化した。


まず、天王洲真一という未成年の高校生を殺してしまったのが良くなかった。あれだけ、網代ケンをヒーロー扱いしていた世間も警察も、厳しい目で見るようになっていた。


もう一つ理由として、若頭の府中サトル、若頭補佐の黒羽ショウタが殺された事が原因である。手勢を束ねる指揮官を失った若い衆は混乱をしていた。


更に病院の銃撃戦で31人、府中組の事務所で29人もの人間が殺されて、若い衆は恐怖で使いモノにならなくなっていた。他にも赤坂組の戦闘力に怯え、東京から逃げ出す者や、天王洲会に戻りたいって人間が増えていった。こうして、関東網代一家は200名にも満たない組織に縮小していった。



その頃、新宿署の署長室では……。


新宿の署長はソファに座っていた。その対面には柏木警部と小田原刑事がいた。冒頭で出た、悪徳刑事と新人刑事である。3人は今後の暴力団の抗争について話をしていた。


まず、署長が口を開く。

「今回の抗争は天王洲会の肩を持つことにした。本庁からの命令だ」


柏木警部は溜息をつく。

「やっぱり、堅気のガキを殺したのがまずかったみたいですね。網代はヒーローから、殺人鬼扱いですよ。世間の評価って本当に適当ですわ」

「ああ、あとは府中や黒羽の若い衆がトンズラしたみたいだ。網代はもう終わりだな。最初は優勢だったが、堅気を巻き込んだのが失敗だったな。それに、欣也を病院で殺せなかったのが最大の失敗だったな。まあ、子分に恵まれなかったな」


それを聞いていた正義感の強い小田原は会話に入る。

「だけど、これって暴力団を弱まらせるチャンスですよ。天王洲会も50人以上殺しているし、天王洲欣也も使用者責任で逮捕出来るのでは?」


署長が頭を掻く。

「はぁー、お前バカだろ? 関東網代一家がなくなって、天王洲会がなくなったら、誰が歌舞伎町を移民から守るんだ? 天王洲会に手を汚してもらうしかないだろ?」

「だけど、ヤクザとはいえ、50人以上殺して、警察が動かないってのはダメでしょう? 国民の不安を煽りますよ」


柏木警部は煙草に火をつけた。

「小田原、今回は賞金首法の178条にあてるんだよ。これ見てみ?」

そう言って、スマホを小田原に見せた。


2100年頃、賞金首法という刑法に近い法律があった。今回はその中の178条について説明しよう。まず、賞金首法の178条に賞金首隠匿罪という罪がある。内容は賞金首または拘禁中に逃走した被拘禁者に協力したり,隠避させる罪。


つまり、柏木の言いたい事がこうだった。一例をあげると、病院の抗争は加古川ハルクに賞金がかかっており、その逃亡に協力する組員を殺したので、罪にはならないと言いたいのだ。府中サトルの時も同じで、府中をかくまった組員をたまたま巻き込んでしまった体である。


しかし、小田原は食い下がらない。

「こんなのこじつけ論じゃないですか?」


署長は溜息をついて苦笑いをする。

「ああ、分かっている。だが、世界のワイルバンチ会議で決まった法律だ。まあ、東京オリンピックみたいに、弱小である日本の意見は通らないさ。それに、天王洲会がなくなるのは困る。後は正当防衛で誤魔化すしかない」

「でも、幹部の山形ヒロキが残っていますよ。天王洲会にカチコミに行くかもしれませんよ? そっちはどうしますか?」


署長と柏木警部は顔を合わせて笑い出す。

「あの根性なしに、そんな度胸はねえよ。ねえ、署長?」

「赤坂ノブオの金魚のフンで有名だったからなぁ。今頃は温泉にでも逃げようとしているんじゃねえの?」

「ガハハ、署長言いすぎですよ。もう、死んでいるかもしれませんね。まあ、俺らに関係ないですけどね」


ヤクザとはいえ、署長と警部が人の命をゴミだと思っているのだ。それを見た小田原は、この世界に正義がない事を悟ったのであった。



最後の幹部の山形ヒロキは逃亡していた。年齢は63歳であり、小太りで足が短いのが悩みだ。天王洲会の創設メンバーであり、そのおかけで現在の地位にのし上がった男である。


年功序列で今の地位につき、特に何かをなしたタイプではない。なんとなく、ヤクザやって、なんとかなく生き延びられてきたタイプである。サラリーマンで言えば、働かない老害ってポジションだ。


だが、赤坂ノブオの舎弟だった時もあり、若い頃は調子に乗っていた時もあった。しかし、今は逃亡者の一人にすぎなかった。網代について行って、借金がなくなったのは良かった。しかし、赤坂組の戦闘力がここまでとは思わなかったのだ。


次は順番からして狙われるのは、自分の番だと分かっていた。そして、自分の若い衆では、どうにもならない事も分かっていた。だから、全てを捨てて逃げる事を選択したのだ。


不動産会社の社用車の車を使い、それで敵の目を欺いて、海外まで逃げる予定だ。腹心の子分に運転させて、自分は後部座席でトランクケースに入れた3000万ギルを震えながら抱いていた。


そして、親指を噛みながら呟く。

「くそ、絶対に逃げてやる」

すると、目の前に2台のパトカーが検問をしていた。山形はほとんど人通りがなく、車が通らない道を選んだのに運が悪いと思った。


運転手の子分は山形に意見を聞く。

「オヤジ、サツですわ。どうします?」

「おそらく、お台場カジノの立てこもりの件で検問しているだけだ。俺達には関係ない。武器もっていないし、そのままやり過ごせ」

「へい」


運転手の子分はパトカーの前で車を停めた。すると、警察官が窓をコンコンと叩いてきたので、仕方なく窓を開けた。


そして、怪しまれない笑顔を作った。

「お巡りさん、何かありましたか?」


警察官は全部で4人おり、その中の背の高い男が口を開く。

「お台場カジノの件です。どうやら、犯人の協力者が付近にいるようでして、ご協力お願いします。ところで、オタクらはどちらに行かれます?」

「私は不動産の仕事で、お客さんを案内して、神奈川まで行こうと思います」

運転手の子分はそう言って、後部座席の山形を指さした。警察官の視線に後部座席いた山形は無言で頷く。


背の高い警察官も頷く。

「そうですか、免許証の確認だけお願いします」

「免許ですか。ちょっと、待ってくださいね」

運転手の子分はそう言って、背広の財布から免許書を取り出そうとした。


その瞬間、背の高い警察官が拳銃を抜いて、運転手の子分の側頭部を撃ち抜いたのであった。もちろん即死であった。それを見た山形は慌てて、後部座席のドアを開けて、外に転がり落ちるように出た。


そして、顔をあげると、警察の制服を着た赤坂ノブオが立っていたのだ。

「よお、山形。そんなに急いで何処に行く? 親である網代を見捨てるのか?」

「あっ、赤坂のオジキ……。えへへ、警官のかっこも合いますね。元警官でしたっけ? なんか、誤解していますよ。ちゃんと聞けば、猿でもわかる話ですよ」

そう震えながら、媚びるような笑みを作った。しかし、赤坂ノブオはホルスターの拳銃は抜いた。


そして、銃口を山形に向けて、口元をニヤリとさせた。

「俺はジジイだから、聞いても分からんかもな。ところで、お前も天王洲会を裏切った人間が、どうなるかは分かるよな?」


その冷たい声に、山形は青ざめた顔で土下座をした。

「オッ、オジキ、頼む。俺にチャンスをくれ」

「チャンスだと?」


それから、山形は顔をあげて、赤坂ノブオの顔をみつめた。

「ええ、覚えていますか? 俺が20歳くらいの時にヘマをした件ですよ。関西ヤクザと揉めた時に、助けてくれたのは赤坂のオジキだけだった。俺はあの時の恩をまだ返せていません。俺にとっては忘れられない出来事です。オジキだって、覚えているでしょう?」

「覚えてねえよ、バカヤロー」

そう言って、赤坂ノブオは拳銃の引き金を引いた。放たれた一発の銃弾は山形の右モモを貫いた。


山形はその場でのたうちまわった。

「うがぁー、痛ってえぇえー」

「まあ、苦しんで死んでくれや」

そして、赤坂ノブオはM26手榴弾を、ポケットから取り出した。


それから、手慣れたように安全ピンを抜いて、それを山形に投げつけた。

「じゃあな、山形……」

そう言い残すと、その場から走って離れた。


すると、警察に変装した赤坂ノブオの子分達もその場から逃げた。そして、山形も逃げようとするが、足を撃たれているので動けない。その結果、手榴弾が爆発すると同時に、山形の身体もバラバラになった。


赤坂ノブオは久しぶりに走ったので、肩でゼエゼエと息をしていた。

「ハアハア……。まったく、年は取りたくないぜ。あとは、網代だけだ」

こうして、網代の周りの幹部は皆死んだのであった。


あとは、網代ケンと加古川ハルクを殺せば、全てが終結するはずだったのだ。しかし、世の中は何が起こるか分からないものなのだ。この世は裏切りの連続なのだ。

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