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第56章 天王洲会 VS 府中組

それから、2日後。府中は要塞のような事務所に引きこもっていた。理由は黒羽が殺された事に対して、とてつもなく恐怖を感じていたからだ。


府中は3Fの応接室のソファに座っており、その周りには屈強な子分達がうろついていた。もちろん、全員の子分に拳銃を標準装備させていた。


府中は要塞のような事務所に囲まれ、拳銃を持つ屈強の子分がいるにもかかわらず、小心者なのでビクビクしていた。その時、網代から電話がかかってきた。府中は仕方なく、電話に出る事にした。


網代は府中に幹部会に顔を出さなかったことを咎めた。

「おい、若頭補佐の黒羽が死んだっていうのに、幹部会に顔を出さないってどういう事だ? テメー、若頭だろう? 組織のナンバー2が幹部会に出ないでどうすんだ? 子分の指揮が下がる事くらい分かるだろうがぁ?」

「会長、黒羽の件は残念ですよ。けどね、俺も襲われたばっかりなんですよ。まあ、堅気のガキでしたけどね。とにかく、今は外出するべきじゃないですよ」

「ボケがぁ、籠城しても殺されるだけだぞ。さっさと、本部に顔を出せや。それとも、破門になりたいのか?」

「わっ、分かりましたよ、来週には必ず……」

「おい、ちょっと待っ」

府中は網代の会話を強制的に切断した。つまり、電話を一方的に切ったのだ。


府中は全てにイライラしていた。ます、網代とは5分の兄弟分だったのに、偉そうに命令される関係になって不満が溜まっていた。他にも、府中は抗争が苦手であり、弱い者イジメは出来ても、強い者イジメは出来なかった。


それに網代が自分を破門にする事はないと知っていた。もし、破門にしたら、同時に120人の戦力がなくなるのだ。そうなれば、天王洲会との数のバランスが崩れる。だから、府中はすぐにでも、網代が天王洲欣也を殺してくれる事を祈っていた。全ては他力本願の男だった。


坊主頭の幹部が府中に耳打ちをした。

「オヤジ、本家は何って言っていましたか?」

「黒羽が殺されたから、態勢を立て直したいらしい。だから、幹部会に顔を出せだとさ。今後の抗争の見直しをするそうだ」

「じゃあ、すぐに車を出します」


しかし、府中は坊主頭の幹部の頭を引っぱたく。

「ボケ、俺を殺す気か? どうやら、黒羽を殺したのは赤坂サナエらしい。あの女はハルクにやられて、再起不能って聞いていたが、どうやらガセだったみたいだ。くそ、しぶといアマだ。あの女に狙われたら、まず助からん。アウトだ」

「そうだとしたら、こっちから攻めた方がいいでしょう?」


すると、府中は坊主頭の顔をビンタする。

「バッ、バカやろう、死ぬ気か? この事務所を見ろよ、まさにシェルターだろ? 窓ガラスは全部が防弾ガラスだ。それと、事務所の周りの鉄板の壁はトラックでも壊せん。つまりだ、ここにいれば安全なんだ」


確かに府中の言う通りであり、周りの壁の高さは3メートル程で、厚さも60センチはある鉄板入りである。他にも、監視カメラもあるし、若い衆の見張りもいるのだ。普通のヒットマンでは侵入は不可能に近い。


しかし、それとは別に坊主頭は心配そうな顔をする。

「しかし、本家の命令に逆らって大丈夫なんですか? 網代会長の所の若い衆なんて、40人以上死んでいますよ? ウチらの死傷者はゼロだし、そろそろ動かないと、さすがにマズくないですか?」

「だーかーらー、頭悪い奴だな。網代と天王洲が相打ちになったら、俺が天下の時代になるんだぜ。見ろよ、この東京がな」

そう言って、府中が窓の方を見ていると、向かいのビルにRPG7を構えた赤坂サナエがいた。


それを見た府中の身体は硬直して、その場に立ち尽くした。坊主頭の幹部も気が付き、府中を庇って床に伏せた。


次の瞬間、サナエの放ったグレネードランチャ―が防弾ガラスを砕き、府中組の3F事務所を火の海にした。数十人いた組員の半分が、爆風によりバラバラになった。


坊主頭は府中を抱えて、なんとか部屋の外を出て、3Fの廊下まで逃げ出せた。しばらくすると、窓ガラスから煙が出ていき、視界が見えるようになってくる。


無事だった組員達は、すぐに拳銃を取り出した。そして、向かいのビルにいる赤坂サナエに向けて発砲した。10人の組員がサナエに向かって、パンパンと拳銃で撃ちまくる。しかし、距離が10メートル以上離れており、パニック状態の素人の腕では当たる事はなかった。


その反面、サナエは冷静にカラシニコフいわゆるAK―47を取り出した。そして、それを府中組に向けて発砲した。ズドドドドというドリルで地面を掘るような、凄まじい銃声が辺りに響き渡った。


7・92mmクルツのライフル弾が、府中組の組員に向かって飛んでいった。およそ、30発のライフル弾が府中組の組員の胴体、手足、脳天などぶち抜いた。


まるで、クラブで踊る若者のように、クネクネと数秒動いた後に、次々と組員が床に倒れていく。コンクリートを撃ち抜く威力のあるライフル弾は、府中組の組員達を肉片と変貌させたのであった。


すぐに、2Fから応援部隊として、府中組の組員達が拳銃を握りしめて駆け付けた。だが、肉片に変貌した仲間を直視して、恐怖でパニックになっていた。どこから、攻撃されたのか理解していなかったのだ。


しかし、サナエの方は取り乱すこともなく、全弾を撃ち尽くしたマガジンを替えて、すぐに、3F事務所にいる組員に向かって撃ち続けた。再び、AK―47の銃撃音が辺りに響いた。


数分後、3Fの事務所で動くものはいなくなった。サナエは無傷の状態で、30人近くを一人で撃ち殺したのだった。これが軍人とチンピラの違いである。プロボクサーが素人のパンチに当たらないように、サナエもチンピラの銃の射程距離を分かっていたのだ。


その頃、府中は3Fの渡り廊下に座り込んで、情けなく小便を漏らしていた。死んだ子分の死体の山を見て怖くなったのだ。


そして、府中は大声で叫ぶ。

「はあ、はあ……。くそったれがぁー」

そう言いながら、ズレ落ちたサングラスをもとに戻す。


そして、府中は坊主頭に命令をした。

「おい、なんとかしろ。車だ、車を用意しろ」

「はい、すぐに連絡を取ります」

すると、坊主頭の幹部はどこかに電話をしていた。


そして、通話が終わると、こう答えたのであった。

「オヤジ、1Fの裏口に車を用意してあります。それで逃げてください」

「おお、お前も一緒に逃げようぜ」

「むっ、無理です。俺は右足が……」

そう言われたので、府中は坊主頭の足を見ると、右足首が無くなっていた。


足首の断面図からは、骨のようなモノが見えていた。そう、サナエのRPG7の攻撃が原因であった。


坊主男は青ざめた顔で喋る。

「俺は歩けません。早く、逃げてください。オヤジが一人で行ってください。裏口を出て、南の鉄壁のドアから逃げてください。それなら、安全なはずです」

「わっ、分かった」


府中は心の中でクソったれと思いながら、階段を早足で駆け下りる。100万円のオーダースーツは小便と煤で汚れており、300万はする自慢のフランクミュラーはガラスにヒビが入っていた。


普段なら、このような格好で外に出る事は、死んでもしない府中であった。理由は何よりも、カッコつけたい男なのだ。


しかし、今は事情が違った。3Fの事務所で見た死体の山や、坊主男の足首の切断面を見て、恐怖でパニックを起こしていた。そして、今までの人生悔いながら、自分自身に語り続けた。


――神様、ごめんなさい。ブランド品も、高級腕時計、高級マンション、ベンツのマイバッハ……。こんなモノはいりません。それに、オレオレ詐欺で老人を騙して、ごめんなさい。情報商材で若者を騙して、ごめんなさい。もう、ホームレスになってもいいです。


だから、生きたいんです。どうか、どうか、神様、俺を助けてください。残りの人生を全て、ボランティアに捧げます。もう、二度と嘘はつきません。


ああ、どこから、俺の人生は間違った? あの堅気のガキを殺したから? いや、天王洲会を裏切ったから? いや、ヤクザになったから? いや、万引きするようになってから?


いや、俺の家が貧乏だったのが原因だ。オヤジは借金だらけの酔っぱらい、母親は寂れたスナック経営者の環境で、グレない方がオカシイだろ? 俺はツギハギの服を着ていて、同級生にバカにされてイジメられた。そうだよ、両親が悪い。


俺は悪くない、俺は悪くない、俺は悪くない、俺は悪くない、俺は悪くない、俺は悪くない、俺は悪くない、俺は悪くない、俺は悪くない、俺は悪くない……――。


府中はそう思いながら、階段を2段飛ばして降りる。顔が鼻水と涙でグチャグチャになりながらも、1Fの裏口に向けて走った。そして、1Fの裏口の扉をゆっくりと開いて、敵がいないか左右を確認する。それから、南側の鉄壁の鍵を開けて、素早く外に飛び出た。


そこには愛車のベンツがあった。府中は人生で一番の喜びを経験した。今日の夜に食べるディナーは最高に旨いと確信した。そして、後部座席に素早く乗り込む。


そして、大声をあげる。

「おい、すぐに出せ」

しかし、運転手がエンジンさえもかけない。


なので、府中はブチ切れて運転席を蹴りまくる。

「テメー、出せって言っているんだよ。破門にすんぞ、コラっ?」


それでも、無反応だったので、運転手の胸倉を掴んでやろうと、前のめりに上半身を出そうとする。しかし、そこには運転手の死体があった。首にはドスが突き刺さっており、白いワイシャツ部分は血まみれ状態である。


府中は思わず、情けない声を出す。

「ひえっ……」

そして、助手席に座っている男が振り向く。その男は府中が良く知っている人物だった。


府中は震える声を出した。

「あっ、赤坂のオジキ……」

赤坂ノブオは浮世離れした格好だった。白髪にサングラス姿で、海外バンドのTシャツに背広を羽織っていた。


そして、赤坂ノブオは口元を緩めた。

「黒羽、おしかったなぁ」

そう言いつつ、懐から拳銃を取り出した。コルトローマンの4インチモデルだ。それを府中に向けたのだ。


すると、府中は命乞いを始めるのであった。

「オジキ、オジキ……。ちょっと、ちょっと聞いてください。5分、いや3分でいいんです。どうか、俺の話を聞いてください。金もあります、金もありますので……」

「ハハハ、落ち着けよ。俺は別に殺す気はない。俺はな……」


府中は子供のように目に涙を浮かべた。

「いや、嘘だ。嘘だ、嘘だ」

「いいから、落ち着けつーの。お前と話をしたい人物がいる。ソイツを説得出来たら、逃がしてやってもいいぞ。この俺が約束してやる」


その言葉に府中はパッと明るくなる。まだまだ、チャンスはあるぞ。嘘をついて、なんとか誤魔化して逃げてやる。今までも、そうやって生きてきたんだ。府中はそう思ったのである。しばらくして、後部座席に女が入ってきて、府中の隣に座った。


その女こそ、天王洲冬子であった。

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