第54章 銀座のクラブにて
その頃、黒羽は銀座のクラブにいた。そこは銀座の並木通りに面するビルである。また、東雲組の所有物であり、クラブも東雲シマが管理をしていた。
いわゆる高級クラブであり、座っただけで、5万から10万近くとられるのだ。店内には、高級そうなソファとテーブルが設置されており、天井にはシャンデリアがキラキラと輝いていた。
時刻は夕方過ぎであり、まだ開店前なので、客は黒羽と子分の3人しかいなかった。黒羽の目の前にはママと2人のホステスがいた。いわゆる、貸し切り状態である。全員がソファに座って、開店後と同じようなサービスがされていた。
黒羽はシャンパンを口に含んだ。
「ママ、俺についた方がいいぜ。東雲シマが撃たれて、縄張りが荒れているんだろ? これからはよ、黒羽組が管理してやるよ」
30代後半の美人ママは着物姿であり、銀座で働いて10年以上になるベテランだ。
ママは黒羽に頭を下げる。
「この店は東雲組の姐さんに、なにかと面倒みてもらっています。失礼ですけどお引き取りください」
すると、黒羽はママに顔を近づけた。
「なあ、天王洲会は終わりだよ。欣也が撃たれて、東雲が撃たれて、若頭補佐の金沢も殺されたんだ。こっちに任せろよ、俺達は水商売のプロだぜ」
「………」
「なあ、聞いているのか? 美人ママさんよ」
しかし、ママは沈黙を続けた。
すると、黒羽は格の違いを見せる為に、ドスを懐から取り出して、テーブルに突き刺した。すると、ホステス2人は恐怖で顔が真っ青になっていく。
それから、黒羽はママの髪を右手で触った。
「ママさんよ、俺が優しい間に返事しろよ。でないと、その綺麗な顔を切り刻んで、一生傷が残るようにしてもいいんだぜ? そしたら、誰にも相手されない人生が待っているぞ。そこの2人の姉ちゃんも同じ目に合わせてやる。さて、どうする?」
その言葉にホステスの2人は体が震えていた。
それを見たママは溜息をついて、頭を軽く下げた。
「分かりました。でも、少し時間をください」
「ああ、いいぜ。でも、長くは待たねえぜ」
黒羽はその返事に納得して、テーブルに突き刺さったドスを懐にしまった。
黒羽の目的はこうだった。もし、関東網代一家が抗争に勝ったら、天王洲会の縄張りは、全て網代ケンのものになる。それから、黒羽の縄張りやシノギが割り当てられる事になる。
つまり、すぐに動かないと、取り分が少なくなるのに不満を持っていた。だから、東雲組の儲かっている店から、裏で売り上げを掠めるつもりだった。理由は水商売であれば、金の動きが分かりづらいのを知っていたからだ。そして、脱税もばれにくい。
それを知らずに、黒羽の隣のオールバッグの幹部は耳打ちをする。
「オヤジ、抗争中なのにこんな所で遊んでいて大丈夫ですか? 本家の親分は戦っているんですよね? もし、バレたら、破門じゃ済みませんよ」
黒羽はため息をついて口を開く。
「ママ、ちょっと席を外して」
「はい。みんな行くよ」
ママはそう言って立つと、2人のホステスも立ち上がって奥へ消えていった。
それから、黒羽はテーブルの上に足をドガッと乗せた。
「おい、別に遊んでねえよ。自分の縄張りで飲んでいるだけだ。いずれは、俺がココのオーナーになるんだしよ。なんか、文句あっか?」
オールバッグの幹部は困惑する顔になる。
「いえ、そういう訳じゃ……。すいません」
「あのな、こういうのは早めに動かないとダメなんだよ。網代組とは別に黒羽組にも、金が入る仕組みを作っておくんだよ。結局はヤクザで得するのは親分だけだしよ。バカ正直によ、なんでもかんでもよ、本家に報告しなくていいんだよ。それに東雲組を追い詰めたのは黒羽組だ」
「ええ、結果はそうなりますけど……」
「ああ、市原が東雲を撃ってくれたおかげだ。あのバカも役に立ったわ。市原は殺されたから、次の若頭はお前にしようと思っている。だから、網代には黙っておけよ」
すると、オールバッグの幹部は笑顔になる。
「マッ、マジっすか? 俺が若頭ですかい?」
「ああ、俺はそうするつもりだ」
今回の抗争で東雲シマは狙うなと、網代に言われていたが、死ななかったので、黒羽は処分は受けなかった。他にも理由があり、黒羽は網代とシャブの取引をしていたから、強く言われない関係にあったのだ。
結果、市原が東雲シマに重症を負わせた事により、関東網代一家の追い風になったので、黒羽組の評価もあがったのだ。
それから、オールバッグの幹部は上機嫌になり、ホスト風の2人の子分にシャンパンを注いだ。
「おい、お前らも飲め。俺が若頭になったら、兄弟の盃をやるからな」
すると、20歳前後のホスト風の子分達は喜んで飲んだ。
「あざーす、若頭昇進おめでとうございます」
「おう、ありがとうよ」
黒羽も全てがうまくいって上機嫌だった。
「まあ、今夜は俺のおごりだ。テメーらも黒羽組の為に頑張れよ」
「はい」
黒羽はそろそろ女と話したいと思い、ママを大声で呼んだ。
「ママ、新しい子を呼んでよぉー」
「はーい、すぐに行きますぅー」
ママも店の奥から、大声でそう返事をした。
しばらくすると、2人の美女があらわれたのであった。それはホステスに変装した、赤坂サナエと天王洲冬子であった。そして、2人の手には拳銃が握られていた。




