第53章 特定抗争指定暴力団
私は家に帰ると、欣也伯父さん、ノブオ爺ちゃん、サナエちゃん、ナツに真一が死んだ報告をした。すぐに応接室が重苦しい雰囲気になる。
ナツは俯き顔で呟く。
「そっか……」
珍しく、ふざける事もなくナツはそう呟いた。私の弟だから、気を使っているのだろう。
ノブオ爺ちゃんは何も言わずに、ポケットから取り出した煙草に火をつけた。
欣也伯父さんは謝る。
「すまん、俺の力不足だ」
「いや、伯父さんは悪くないよ」
一方、サナエちゃんは冷静な判断をする。
「冬子お嬢様、敵討ちは絶対にしましょう。だけど、感情で動きますと、逆にこちらが殺されます。ところで話は変わりますが、黒羽の行動がつかめました。会長とシマお嬢様が撃たれてからは、東雲組の縄張りに顔を出しているようです」
「なんで?」
サナエちゃんは現在の状況を説明してくれた。
「おそらく、シマお嬢様が撃たれたので、東雲組が大混乱しており、このスキに縄張りを奪うつもりだと思います。昨日は赤坂のクラブに来たらしく、今日は銀座のクラブに顔を出すみたいです。そこで、殺っちゃいましょう」
「そっか、分かった。じゃあ、すぐに動こう。まずはシマ姉さんの敵討ちからだ」
「ええ、準備は既に出来ていますよ」
シマ姉さんを撃ったのは、黒羽組の若頭である市原である。だから、黒羽も殺さないと周りに示しがつかない。しかも、警戒心の強い黒羽を殺れる最大のチャンスだ。
欣也伯父さんは心配そうな顔をする。
「お前ら、2人だけでやる気か?」
サナエちゃんはニッコリと笑う。
「私と冬子お嬢様で、ホステスに変装して殺ります。ああ見えても、黒羽は用心深い男ですので、大人数で動くと気が付かれます。だから、2人で十分ですよ」
「分かった、無理はするなよ。冬子も逃走ルートを、ちゃんと確認しておけよ」
「任せてよ、伯父さん」
私とサナエちゃんはドレスに着替えて、髪をセットして、銀座のクラブに向かったのである。
その頃、関東網代一家は大騒ぎになっていた。網代は応接室で、真一が殺された話を聞いた。
すると、血相を変えてソファから立ち上がり、右手でテーブルを叩く。
「府中が真一を殺した? 何をやってんだ、あのバカ。真一は堅気だぞ? ハルク、何がどうなっている?」
「へい。ワシもさっき聞いたばかりでっせ。オヤッさん、実は……」
ハルクは警察から聞いた説明をする。話の内容は、真一が拳銃を持って、府中の命を狙ったけど、拳銃の弾が出ずに失敗した。普通はそこで、真一を捕まえて警察に引き渡せばいいのに、なぜか殺してしまったという話だ。
ハルクは深いため息をつく。
「それで、新宿の署長が言うには堅気を殺したら、網代組を庇いきれへんそうですわ。一応は未成年同士の殺し合いで処理するつもりですけど、目撃者が多くてどうなるやら分かりまへん」
「あそこは防犯カメラも多いだろ? 目撃者を黙らすには、かなり厳しくねえか?」
「ええ、防犯カメラの映像が流れたら、完全にアウトですわ。おそらくですが、来週には特定抗争指定暴力団に指定する手続きをとるみたいです」
「なら、すぐに欣也を殺して、抗争を終わらせるしかない。その後に、府中は破門にする」
網代は焦っていた。まず、特定抗争指定暴力団に指定されると、今後の動きがとりづらくなる。例えば、網代が自分の縄張り内で、組員が5人以上集まったら、警察に逮捕されてしまう法律なのだ。
そして、関東網代一家の若頭が、堅気の高校生を殺したとなれば、世間の風向きはヤクザに厳しくなる。最悪の場合、関東網代一家は解散しなくてはならなくなる。
だから、特定抗争指定暴力団に指定される前に、天王洲欣也を殺して、府中を破門にして、全てを終わりにしないといけなくなったのだ。もはや、抗争は今週中にでも、すぐに終わらせたかった。
そして、網代は府中に電話をした。
「おい、兄弟。堅気の高校生を殺すって、テメーは一体何を考えているんだ? このボケ」
「悪い、悪い。けれどよ、相手は拳銃を持っていたんだぞ。俺が殺されたかもしれねえ。あれは事故みたいなものだぜ」
「だけど、こういう場合は捕まえてよ、警察に渡すのが筋だろう? 真一は堅気なんだぞ? それに、真一の拳銃の弾は出なかったらしいじゃねえか?」
しかし、府中は親である網代に口答えをする。
「だけどよ、兄弟が病院で欣也を殺っていればよ、こんな状態にならなかったぞ。お前こそ、組を割る時に言っただろ? 俺に任せろってよ。早く、抗争を終わらしてくれよ」
「おい、コラ。誰に口きいているんだ? 俺はお前の親だぞ。もう、兄弟分じゃねえぞ。少しはテメーの子分も手を汚せや」
しかし、府中はニヤニヤと笑っていた。
「会長も知っていると思うが、ウチの子分は数が多いよ。でも、ヘタレばっかりだ。だからよ、逆にウチで失敗したら、欣也が警戒心を持っちまうよ。そしたら、面倒だろ? まあ、そっちでヒットマン出して、さっさと欣也を殺しちまえよ。それで、全て済むだろう。なあ、会長が組を割ったんだから、その責任はとるべきだろ?」
「くっ……」
網代も本音では、使えない府中を破門にしたかった。しかし、ここで120人を抱える府中組に抜けられるのは痛かった。
だから、我慢するしかなかった。
「分かった、もう、真一の件はいい。それとな、真一は天王洲家の子供だった男だ。赤坂組がすぐ報復に来るぞ。ドンパチの準備をしておけよ、攻撃こそ最大の防御だからな」
「いや、俺らは籠城作戦で戦いますわ。知っていると思いますが、ウチの事務所なら、簡単には入り込めませんから。それに赤坂サナエも重体らしいですよ」
「バカ、籠城なんか負けるだけだ。ヤクザは防御にまわったら終わりだぞ。攻めなきゃ、テメーが死ぬぞ」
「へいへい、じゃあ攻めますよ。それでいいでしょ?」
そう不貞腐れながら、府中は電話を切ったのだった。
ハルクが網代に近づく。
「オヤッさん、どうでしたか?」
「おそらく、府中はもうダメだ。籠城に持ち込むみたいだ」
「ふぅー、そうでっか。まあ、結局はワシらが動くしかないって事ですわ」
網代は疲れた顔をしながら、煙草に火をつけた。
「ああ、貧乏クジばっかりだな。そういえば、黒羽はどうしている?」
「なんでも、武器を買いにいくとか言っていましたわ。ロシアンマフィアの知り合いがおるみたいです。寄り道をしなかったらええですけど……」
黒羽が武器を買いに行くとのは本当であるが、その帰りに銀座に行くのが真の目的であった。そう、黒羽は東雲組のシノギの一つである銀座のクラブを乗っとろうとしていたのだ。




