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第52章 さらば、愛しき弟よ

それから、3日後。府中サトルは自分の事務所でくつろいでいた。


府中組の事務所は、第三次世界大戦に備えた建物であった。建物は3F建てであり、全ての窓が防弾ガラスを使用していた。また、建物の四方には、厚さ60センチの鉄板の壁で囲まれており、トラックが突撃しても中々と壊れない造りであった。


まさに、小心者で見栄っ張りの府中らしい事務所であった。府中は欣也と東雲が撃たれて、更に若頭補佐の金沢が死んだことで、戦況はこちらが有利と判断していた。だから、気分はご機嫌であった。


府中は高級ソファに座りながら、高級腕時計をニヤニヤと眺めていた。ご自慢の時計はロレックスデイトナのダイヤモンド入りで、700万ギル近くするシロモノだ。そして、派手なスーツは銀座のテーラーが作ったモノである。靴もエドワードグリーンであり、身に着けるモノはハイブランドの拘りがあった。


幼少期が貧乏であり、常におさがりのボロを着ていて、同級生にバカにされたコンプレックスが原因である。だから、府中はヤクザになって、ブランド品に囲まれて幸せを感じていた。その府中の周りには、護衛の子分が数人立っていた。


府中はソファから立ち上がり、子分の1人に声をかけた。

「さてと、1億ギルが手に入ったし、次はベンツの新型を買いに行くぞ」


すると、側近の子分が慌てて止めに入る。

「オヤジ、今は抗争中ですぜ。それに、こないだロレックスを買ったばかりじゃないですか。まずは借金を返しましょうや。車なんてどうだっていいでしょう?」

「バカ、抗争はもう勝ったようなものだ。それによ、俺がマスコミに取材される時に、古い型のベンツじゃ恰好がつかないだろう。それとも、親に恥をかけって言うのか?」


子分は深く溜息をつく。

「いや、いや……。今乗っているベンツだって、十分に新しいですよ。それに、網代の親分しか戦ってないじゃないですか? ウチも応援部隊を送った方がいいんじゃないですか? オヤジだって、一応は若頭なんですから……」


府中は金髪にサングラスに派手なスーツ姿である。一見すると強面のヤクザに見えるが、ゴマすりだけで、のし上がってきたのだ。自己中な性格であり、子分からの人望もない。


だから、府中の本音はこうだ。網代ケンと天王洲欣也が相打ちになって欲しいと願っていた。そうすれば、関東網代一家の2代目会長の座が手に入るのだ。


そして、子分にワガママな子供のように命令をする。

「いいから、車をまわせや。俺は東京を仕切る男だぜ。だから、全てが一流品じゃないとダメなんだよ。どうせ、天王洲会はもうダメだ。その内に解散するだろ」


子分達は心の中で溜息をつきながら、ついていく親を間違えたと思っていた。しかし、この世界は盃が何よりも大切なので、子分達も他の組に移れる事は滅多にないのだ。こうして、府中は網代の忠告も聞かずに、事務所の外に出た。



その頃、真一は拳銃を握りしめて、府中組の事務所の前に立っていた。小さい頃から、天王洲会の本家にいたので、武器の隠し場所は分かっていた。だから、トカレフを一丁拝借したのであった。


この抗争を終わらすために、関東網代一家の府中を殺す事にしたのだ。本来なら、トップの網代ケンを殺すのが筋だ。しかし、小さい頃に世話をしてもらった恩があった。だから、真一は網代に銃口を向けることは出来なかった。なので、ナンバー2である府中サトルを狙う事にしたのだ。


今日で張り込んで2日目であった。近くには交番もあるので、失敗しても逃げられると考えていた。そうしている内に、事務所の目の前にベンツが停まった。そして、10分後に府中が数人の子分を引き連れて、事務所から出てきたのである。


真一はターゲットを確認した。金髪にサングラスで派手なスーツなので間違いなかった。真一がネットで見つけた情報通りだった。


あとは府中に近づき、拳銃の引き金を絞るだけだった。関東網代一家のナンバー2が死ねば、天王洲会側に風向きが変わると信じていた。それで、真一は冬子に男だと認めてもらおうとしていた


真一は心の中で呟く。

――俺だって、天王洲家の子供だ。料理人になるより、冬子のそばにいたい。それが、報われない恋だとしてもだ。冬子は強くても女だし、俺は男だ。俺が家族を守るんだ――


真一はブレザーの制服姿で、スマホを弄っている高校生を演じていた。スクールバッグにはトカレフが入っている。チャンスが来たら、それを使うだけだ。府中がベンツに乗ろうとしていた。真一はチャンスだと思い、バッグからトカレフを取り出した。


そして、真一は大声をあげながら、府中に向かって走り出した。

「うおおおおおー」

府中は声のする方を振り向くと、真一が拳銃を持っている事に気が付く。


すると、府中はヤクザとは思えない、ひどく情けない声を出した。

「うわあぁああああー。待って、待ってぇー」

そして、手足を子供のようにバタバタと動かして、泣きそうな表情になる。


真一と府中との距離は3メートル位になる。さすがに当たる距離だと思い、真一はトカレフの引き金を引いた。しかし、弾は発射される事はなかった。なぜなら、真一はオートマチック式の拳銃の使い方を知らなかったのだ。


真一は思わず呟く。

「なんでだ? 弾は入っているのに……。くそったれがぁー」

そう言って、何度も引き金を引くがガチガチと音がするだけだった。


オートマチック式の拳銃は、マガジンに弾は入っていても、スライドを引いて、本体に弾が装填されないと使えないのだ。真一はそれすら知らなかったのだ。府中の子分達は真一に気が付くと、一斉に拳銃を取り出して銃口を向けた。


府中の子分の一人が大声をあげた。

「なんだ、テメー? 高校生か? まず、その持っている拳銃を捨てろ。そしたら、命までは殺らねえ」


そこにいる全員が真一に危険がないと判断したのだ。そして、ここは交番が近いので、誰もが拳銃の使用はしたくなかった。しかし、1人だけそれを理解してない男がいた。それが府中サトルという男だった。


府中は自分が安全だと分かると、豹変したように強気になった。

「こっ、この俺様を狙い、狙いやがって……。おっ、おい、拷問してはかせろ。らっ、楽に死なせねえ」


その言葉に、真一は腰を抜かして、地面に座り込んでしまう。そして、恐怖のあまりトカレフを府中に投げつけた。その結果、府中の左手首にまいたロレックスに、トカレフが当たってしまう事になる。ロレックスのガラス部分は砕け散り、秒針がグニャっと曲がって壊れた状態になった。


それが原因で、府中はブチ切れてしまう。

「俺の、俺のロレックスが……。このガキ、ざけやがってぇー」


それから、府中は懐から拳銃を取り出して、腰を抜かしている真一に向けて発砲した。街中にパンと乾いた音がした。弾は真一の腹を直撃して、おびただしい血が、コンクリートの地面に飛び散る。


真一が悲鳴をあげる。

「あぐっ……」

それから、府中は2発目を真一の胸の辺りに撃ちこんだ。すると、首元のワイシャツとネクタイが血まみれになった。そして、真一は地面に大の字に倒れたのであった。


府中の子分達は堅気を殺してしまったら、警察が厳しくなるのを知っていた。だから、子分の一人が府中の拳銃ももぎ取った。


そして、子分は激高する。

「アッ、アンタ、何をやっているんだ? まだ、高校生のガキじゃねえか、こういう場合は捕まえて、警察に突き出すのが正しい判断だろう。若頭なら分かれよ」

「うるせぇー、コイツが悪い。殺さないと気がすまねえ」

そう叫んで、府中は瀕死の真一を蹴ろうとした。すぐに、子分達は暴れる府中の手足を抑える。


しかし、府中は子供のようにジタバタと暴れる。

「俺のロレックスが壊されたんだぞ。殺させてくれ」

子分達はさすがに真一に同情をしていた。


それから、子分達は救急車を呼んだのであった。そして、半グレの未成年を呼び出して自首させた。府中は子分達に押さえつけられて、事務所の中に引きずりこまれていった。


子分達もさすがに、若頭が高校生を殺したら、シャレにならないと判断したのだ。だから、未成年同士の殺し合いの事件にしようとしてた。


当の真一は仰向け状態で、口に血を溜めながら、真っ赤な夕焼けを見ていた。それから、冬子の顔を思い浮かべていた。その顔は激しく怒っていた。


そして、口に血が溜まりながらも呟く。

「ああ……。せっ、制服が血だらけだぜ。とっ、冬子に怒られちまうよ。えへへ……」

最後はそう呟きながら、真一は17歳の生涯を閉じたのであった。



私は息を切らしながら走っていた。自分の弟である天王洲真一が死んだという連絡が入ったからだ。なんかの冗談だと思っていた。しかし、病院に着くと霊安室に案内された。


どこかで、真一が考えたドッキリだと、この時点までは信じていた。そうさ、人違いに決まっている。しかし、霊安室のベッドの上には人らしきモノに、白いシーツにかけられていた。


そして、私は顔にかかっている布をとった。そこにはまぎれもなく、真一の顔があった。私はその場で声を殺しながら、冷たい床に泣き崩れたのであった。その様子を見ていた医者と看護婦が部屋を出ていく。


どうやら、懇意している情報屋に聞くと、府中を狙って返り討ちにあったらしい。くそ、私のせいだ、私のせいだ。私が真一を振ったから、アイツは勝手に暴走して、このような結果になってしまったのだ。


くそ、くそ、くそ、なんでこうなったんだ。何処で間違えた? 私が真一を振った瞬間か? 真一が天王洲家に養子に来た時か? いや、第三次世界大戦がなければ……。


いや、もう考えても真一は生き返らない。くそ、くそ、絶対に仇は討ってやるからな。それしか出来そうもない。こんな情けない姉でゴメン。私はスーツの袖で涙を拭って、なんとか立ち上がった。


そこに、真一の後輩である沢村が入ってきた。それから、すぐに走りながら、真一の遺体に駆け寄った。

「先輩、先輩、先輩……。デートの約束したじゃないですか? 嘘つき、嘘つき……」

そして、大声を出しながら泣き出した。私はその部屋を後にした。さよなら、真一。


そして、私は霊安室を出ると、思いっきり壁を殴った。

「府中だけは絶対に許さねえぞ……」

私は府中だけは自分の手で殺すと誓った。

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