第51章 関東網代一家の弱点
その頃、関東網代一家の事務所では……。
応接室には、網代ケン、府中サトル、黒羽ショウタ、山形ヒロキ、加古川ハルクが集まっていた。それぞれがソファに座って、今後の抗争について会議をしていた。
ますは若頭である府中が口を開いた。
「もう、俺らの勝ちだな。欣也も東雲も重症で動けないみたいだしな。指揮をする奴がいなきゃ、組織は自然にバラバラになるだけだ」
次に若頭補佐の黒羽が煙草に火を点けた。
「若頭、それと赤坂サナエも再起不能みたいですよ。それに、若頭補佐の金沢も死にましたよ。まあ、武闘派チームは全滅ってやつです。これも、ハルクのおかげだぜ。なあ、ハルク?」
そう言って、黒羽はハルクの顔を見た。
ハルクは黒羽に頭を下げた。
「いえ、ワシは自分の仕事をしただけです」
「またまた、謙遜するなよ。俺のスカウトした女を、ご褒美として紹介してやるぞ。その体の大きさなら、下半身も大きいだろう? なんてな、ワハハハハ」
その下ネタに府中も山形もゲタゲタと腹を抱えて笑う。
ハルクは黒羽に再び頭を下げる。
「黒羽さん、ワシは遠慮しときますわ。それより、今後の抗争について考えましょうや。まだ、天王洲欣也は生きてまっせ」
そこに山形が会話に入ってくる。
「まあまあ、ハルクも心配症だなあ。あのよ、天王洲会の若い衆が、こちらに寝返りたいって話が来ているんだよ。そいつらを引き入れば、ウチはもっと大きくなるぞ。抗争より、今後のシノギの話をしようや」
そこで、網代ケンがクリスタル製の灰皿を地面に叩きつける。パリンという音がして、ガラス片が床に散り張りになる。すると、応接室はシーンと静かな空間になった。
それから、網代は幹部たちに喝を入れた。
「山形ぁー、何がシノギだ? まだ、抗争は終わってねえぞ?」
「いや、網代よ……」
そこで、網代はテーブルをバシンと叩く。
「おい、俺は会長だぞ。網代って何だ? あっ、コラっ?」
「いっ、いや、悪かった、悪かったです。ですけど、向こうの若い衆を、こっちに引き込めば勝ちですよ。あとは赤坂ノブオくらいしかいないし……。まあ、単なるジジイですよ、あんなの。なあ、府中もそう思うだろ?」
府中は網代の怒りを鎮める為に、山形の意見に乗る事にした。
「網代、いや……。会長、山形のオジキの言う通りですよ。状況はこちらが有利だし、赤坂ノブオだって、昔はイケイケだったのは知っていますよ。でも、今は70歳の爺さんじゃないですか?」
網代は溜息をついた。
「それなら、テメーが赤坂ノブオを殺ってこい」
「あっ、いや……。そういう意味じゃなくて……」
府中は赤坂ノブオの恐ろしさを知っていたのだ。若い頃は怖くて、目も合わせる事が出来なかった存在であった。まず、赤坂ノブオは人殺しのプロなのだ。だから、殺しに行きますとは言えなかった。なので、後はダンマリで下を向いて、時間を過ぎるのを待った。
網代は時間の無駄だと思い、黒羽と山形にも同じこと聞いた。
「黒羽、山形はどうなんだ? テメーら、赤坂組に殴り込みに行けるのか?」
その言葉に2人の顔は青くなっていく、病院で30人以上も殺したのを聞いたからだ。
黒羽は頭を掻きながら誤魔化す。
「いや、俺は行っていいですけど、ハルクに殺させた方が確実でしょ? 俺は若頭補佐で、頭脳戦が仕事ですしね。アハハハ、まいったな、こりゃ……」
山形もヘラヘラと笑い続ける。
「まあ、俺は赤坂のオジキにはお世話になったし、ちょっと気がひけるなあ。末端の若い衆にやらせるのがいいと思うぜ。若造どもには、良い勉強にもなるからよ」
そう言って、腕を組んでウンウンと頷いていた。
なんだかんだ理由をつけて、3人はカチコミに行きたくないのだ。
そして、網代はテーブルを強く叩く。
「いいか、今回の抗争を始めたのは俺だ。だから、責任は俺にある。俺の子分はすでに41人が死んでいる。まあ、赤坂ノブオを殺すのは、お前らには無理だ。俺とハルクで殺すつもりだ。お前らは殺されないように過ごせ、以上だ」
そう言うと、網代はソファから立ち上がり部屋を出ようとした。
そして、ドアの前で振り返り、幹部たちに再度警告をした。
「いいか、天王洲会を甘くみるな。まだ、欣也は死んでない。お前らは間違っても、気軽に外出をしたり、どこかへ逃げようとするなよ。絶対に殺されるからな。あと、ハルク、ちょっと来い」
すると、ハルクは立ち上がり、網代を追いかけて部屋を出て行った。
応接室では府中、黒羽、山形はイラついた顔をしていた。
まず、府中はサングラスを外した。
「ケッ、偉そうにしやがってよ。俺らが無能みたい言い方しやがってよ。あいつとは、元々は5分の関係だぜ。それを上から目線で腹立つぜ」
小太りの山形もそれに同意する。
「ああ、俺達が協力しなければ、分裂も出来なかったくせにな。若造が偉そうに……」
黒羽はニヤニヤと笑って場を明るくする。
「だけど、赤坂ノブオを殺しに行けって言われた時はビビりましたよ。そんな、危険な橋は渡らねえっつーの。ねえ、みなさん」
その言葉に、3人はゲラゲラと笑い出した。
府中はチーフハンカチでサングラスを拭きだした。
「まあ、黒羽も山形のオジキも落ち着けよ。網代はビジネスについては素人以下だ。アイツに分からねえように、東雲のシノギを3人で分けちまおうぜ。もう、天王洲会の消滅は近いしよ」
山形はその場を立ち上がり喜ぶ。
「そりゃ、いいわ。俺らだって頑張ったもんな。組を割るリスクを抱えたし……。まあ、お互いに抜け駆けはなしにしようぜ」
黒羽は煙草の紫煙を吐く。それから、ニッコリとした表情をする。
「ええ、3人で仲良くやりましょうや」
しかし、黒羽は府中と山形を出し抜いて、シノギを独り占めしようと模索していた。
網代は子分には恵まれない男であった。自分の手を汚さず、美味しい部分だけを奪っていく。そんな3幹部しかいなかった。それが、関東網代一家の最大の弱点であった。




