第50章 告白
私は畳の居間で拳銃の手入れをしていた。すると、障子が開いた。
居間に入ってきた人物は真一だった。
「よう、冬子」
「おい、ココには来るなって言っただろ。ネットでも沢山の人間が死んだこと位は分かっているはずだ。すぐに帰れよ、迷惑だ」
「でも、シマ姉さんも欣也伯父さんも、銃で撃たれたらしいじゃん。次は冬子かもしれないだろ? 家族なら、心配するのは当たり前だろ。それとも、俺は部外者なのかよ?」
シマ姉さんと欣也伯父さんが、ヒットマンに襲撃されてから、真一は2人と会っていない。確かに安否が気になるのも分かるが、私が会わせないように手配していた。けれど、それには理由がある。
まず、欣也伯父さんには賞金がかかっており、真一を誘拐しておびき出す連中もいるかもしれないのだ。また、近くにいるとヒットマンの流れ弾に被弾する可能性だってある。現にシマ姉さんのお見舞いに行く時に、病院でヒットマンに襲われたのだ。だから、出来るだけ遠ざけたいのだ。
私は正直に言った。
「真一、お前は暴力に向かない。ここにいたら、足手まといになる。だから、全ての抗争が終わったら、シマ姉さんと欣也伯父さんに会わせてやる。今は組全体がピリついているんだ、すぐに帰ってくれ」
これで納得してくれると思ったが、真一はとんでもない事を言い出す。
「俺にも手伝わせてくれないか? 組の仕事をさ……」
「バカ、ヤクザにでもなる気かよ。人を殺したら、もう元に戻れないぞ。二度とそんな事言うな」
「冬子が死ぬくらいなら、俺は拳銃に握って守るよ。人だって殺すよ」
身内で堅気なのは真一だけだ。そして、そのカワイイ弟が人を殺したいと言っている。マグマのような怒りが込み上がってきた。
私は真一の頬にビンタをした。
「バカ、目を覚ませ。お前なんかすぐに殺されちゃうぞ?」
「それくらい、分かっているよ。でもさ、抗争はこちらが不利なんだろ? だから、猫の手も借りたいのが本音だろがぁー」
なんで、こんなに頑固な性格になってしまったのだ。中学生の頃は反抗期もあったけど、ここまで意地になった姿は見た事ない。
私は真一の両肩を揺さぶった。
「おい、目を覚ませよ。お前は高校卒業したら、料理人になるんだろ? あの後輩の沢村って子と一緒に生きていけばいいよ。それが一番だ、分かってくれるか?」
「いや、分からない」
「なんで?」
真一は少し顔を俯いて黙った。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「俺、俺さ……。冬子の事が好きだからよ」
「そりゃ、私だって好きだよ。カワイイ弟だ。だから、心配するのは当たり前じゃん」
これは本音である。真一は生意気だが、本当は優しい性格なのは知っている。その優しさに随分と救われた事があった。だから、幸せになってほしいと思っている。
すると、真一は大声を出す。
「違うよ、恋愛の方の好きだよ。俺は冬子の事が昔から好きだった。なあ、冬子はどう思っているんだ?」
真一が私の事が好き? とても、信じられない話だった。だが、真一は真剣な眼差しでこちらを見ている。
私は力なく笑う。
「冗談なんだろ? 結局はさ、ハハハ」
「いや、本気だよ」
真一は真っすぐな眼差しで、私の顔を見てきた。冗談であってほしかったが、どうやら本当の気持ちみたいだ。なら、答えはひとつしかない。
私は真一から目を逸らした。
「ごめん、弟としてしか見られないよ。それに私は人殺している。だから、真一とは一緒にはいられない……」
「そっ、そっか、そんな気はしたんだ。アハハ、気が楽になったわ。それでも、冬子の事は守るから……。じゃ、今日は帰るわ」
そう力なく言うと、涙目になりながら、走って外に行ってしまった。
これでいいんだ。後は普通に学校に行って、卒業して料理人になる人生だ。真一は頼りないから、沢村って子に尻をひかれた方が幸せになるだろう。こんな裏社会には関わらないで生きて欲しい。
私は真一の幸せを心から祈った。さて、こっちは抗争を終結に向けて動くとするか……。私は再び、リボルバー拳銃の手入れを再開した。




