第49章 それぞれの事情
私は目を覚ました。
目の前には欣也伯父さんの顔が見えた。
「冬子、目を覚ましたか? 良かった、良かった」
「伯父さん、ここ何処?」
「ああ、本家の居間だ。あれから、まる一日経ったよ。お前は気絶していたんだよ」
私は布団から起き上がって、今日のあった出来事を思い出した。そうだ、病院でヒットマンに襲われたんだ。そして、ナツとサナエちゃんを置いて、欣也伯父さんと逃げたんだ。
私は2人の安否が気になった。
「みんな、無事なの? 伯父さんの怪我は? サナエちゃんは? ナツは?」
「落ち着け、ちゃんと説明をする。サナエとナツは無事だ」
私はその言葉に安心をした。それから、欣也伯父さんはゆっくりと事情を話してくれた。欣也伯父さんの怪我はかすり傷だった。それでも、耳の辺りには包帯をまいていた。
サナエちゃんはハルクの攻撃により、背骨にヒビが入っていたが、命に異常はないみたいだ。ナツはハルクに川に落とされたが、奇跡的に無傷の状態であったらしい。さすが、悪運は天下一だ。2人とも今は病院にいるらしい。
ただ、赤坂組の組員が4人死亡したらしい。他の事務所でもカチコミがあり、5人が死亡したみたいだ。ただ、こちらは病院で30人以上を殺したので、殺した数では勝っているみたいだ。しかし、量では勝っても、質では負けたみたいだ。
なぜなら、世間では天王洲会の崩壊が噂されていたからだ。まず、若頭補佐の金沢さんが殺されたことだ。そして、若頭であるシマ姉さんと、会長の欣也伯父さんが撃たれたのが大きい。2人とも生きているのに、瀕死の状態だというデマが流れていた。
これで、世間のニュースは天王洲会の不利だと報道された。また、天王洲会最強と言われるサナエちゃんが、加古川ハルクに倒された事も大きい。2人の戦いが病院で盗撮されており、誰かがネットにアップしたのだ。
これらの情報が浸透して、不安を感じた天王洲会の若い衆が、関東網代一家に鞍替えしようとしていた。その数は100人近くにもなっていた。つまり、天王洲会を裏切ろうとしている勢力が出来てしまったのだ。
しかし、伯父さんはニヤリと笑った。
「しかし、逆にチャンスだ。幹部の府中、黒羽、山形とかは自分が優勢だと思って、必ずスキを作るはずだ。とりあえず、サナエに潜らした組員に動きを探らせている」
「手勢を束ねる幹部を倒していけば逆転できるって事か……」
「ああ、府中や黒羽は外出が多くなったらしい。もう勝った気なのだろう。だけど、抗争は勝つまでは分からん」
それから、私は天王洲会の緊急幹部会に出席して、今後の作戦を練った。
その頃、ワン姉妹は隠れ家にいた。ワン・シャンリンはソファに座って、妹とテレビを見ていた。
テレビ画面には移民解放連盟による、お台場カジノの占拠事件が放映されていた。東大生が立てこもり、銃を持って、仲間を解放しろと叫んでいる映像が何度も放映されていた。テレビのコメンテーターは、ワン姉妹の敵討ちの犯行ではないかと叫んでいた。
それを見ていた妹のワン・マーメイはパソコンを弄りながら噴き出していた。
「キャハハ、まったくバカばっかりだね」
「ああ、でもこちらも動きやすくなってきたな」
「そうだね、ネットでもこの事件一色だよ」
「後は天王洲会の抗争はどうだ?」
ワン・マーメイはオーバーサイズのパーカーをかぶって、パソコンをカタカタと打ち込む。その打ち込む指には派手なネイルをしていた。
そして、ワン・マーメイは姉の方へ振り向く。
「ふぅー、テレビではほとんどやってないね。ネットの掲示板では盛り上がっているよ。病院で沢山の人が死んだみたい」
その内容の書き込みを姉に見せる。
――爺ちゃんの入院している病院で銃撃戦があった。テレビで放映しないっておかしくね?
――また、マスゴミの忖度だろ。ヤクザの報道は報復が怖いんじゃね?
――俺もその病院にいた。30人近く死んだらしいよ。スゲー大きい男がいた。
――怖いね、クズ同士で殺し合えばいい。網代ケンだっけ? ヤクザの英雄って(笑)
――バカ、網代さんはワン姉妹を殺したガチの英雄だぞ。天王洲会が悪いよ。親の七光りで、バカ息子を2代目にするつもりだったらしい。そりゃ、分裂するわ。
――いや、どっちもヤクザだからクズだよ。まあ、警察はカジノ占拠に、ヤクザの抗争で大変だな。千葉県警と神奈川県警にも応援を頼むらしい。
――いや、どこも警察は人手不足で無理だろwww。日本終了ってやつだろwww
ワン・マーメイは呟く。
「これなら、予定通りに警察も忙しくて動けないね。キャハハ」
「まあ、これで網代も天王洲も、両方が潰れてくれればいいんだけどな。まあ、私達は私達の仕事をするだけだ」
ワン姉妹の目的は日本のとあるモノを手に入れる事だったのだ。それは物語の後半で明らかになるのだった。
その頃の天王洲真一は……。学校帰りの真一は天王洲会がピンチだという噂を信じていた。他にも、冬子がハルクに殺されかけた話も聞いていた。もし、冬子が死んだらどうしよう? 真一はそればかりを考えていた。
だから、真一は告白するとしたら、今しかないと思っていた。昔から、冬子が好きだっただが、弟としてしか見てもらえなかった。真一は冬子に男だと認めてもらいたかった。
しかし、どうしたらいい分からず、ずっと悩んでいたのだ。そんな事を学校の帰り道に考えていると、後ろから背中を叩かれた。
それは真一の後輩で沢村という少女だった。
「先輩、真剣な顔で悩みですか? ウフフ、似合わないですよ。まあ、私で良ければ話くらいは聞きますよ?」
「なんだ、沢村かよ。まあ、いいや。最近さぁ、家を追い出されてさ。冬子が無事かなあと思ってよ」
「ああ、お姉さんの事ですか? 大丈夫だと思いますよ。凄く強いですしね」
真一はその言葉に大声をあげる。
「おい、気安く言うなよ。俺の家がヤクザだって知っているくせによ。しかも、今は抗争中だぞ。この街に住んでいるなら分かるだろ? テレビ放映されなくてもさ……」
「だから、お姉さんも巻き込みたくないと思って、先輩を安全な場所に移してくれたんでしょ? それくらい分かりますよね?」
「ああ、そんな事は分かっているよ。だけど、俺だってよ、天王洲家の家族の一人だぞ。俺だけが安全な場所で暮らしていいのかよ。自分の姉のピンチだぞ? 俺だって役に立ちたいんだよ、クソ」
それから、真一は涙目になって、制服の裾で目を抑えた。だけど、沢村には分かっていた。天王洲家の家族が真一を巻き込まないようにしている理由を……。
それは真一が優しい人間だからである。人の痛みが分かり、暴力が苦手で、人を殴ったり出来ない人間だからだ。沢村はそこに惚れていた。
だから、沢村は真一に告白をした。
「私、先輩の事が好きです」
「はあ、何の冗談だよ?」
「いえ、冗談じゃありません」
そう言って、真一の唇にキスをした。
そして、女性経験がない真一は顔を赤くして動揺した。
「バッ、バッカ。何するんだよ、そういうのは付き合っているカップルがするもんだぜ」
「じゃあ、付き合ってくださいよ」
「いや、俺は好きな人がいるし……」
「冬子さんの事でしょう? いつも、お姉さんの話をするときは楽しそうですもん。バレバレですよ、みんな気が付いていますよ」
真一は汗がダラダラと流れる。なぜなら、周りには気が付いてないと思っていたからだ。
「えっ、マジ? バレていたの?」
「はい、料理部のみんなも……」
「なら、いいだろ。お前とは付き合えないよ」
「じゃあ、冬子さんに振られたら、私にもチャンスをくださいよ。デート1回位はいいでしょう? じゃないと、冬子さんに恋愛感情があるって教えますよ」
すると、真一は焦ったように手を動かす。
「分かった、分かった。俺も冬子に告白しようと思っていた所だ。だから、俺が振られたら、デートはしてやる。でも、絶対に付き合わないからな」
沢村は少し涙くんで、真一の腕に抱きついた。
「デート、約束ですよ」
「ああ。約束だ」
こうして、真一は冬子に告白することにしたのだ。




