第47章 ナツ VS 加古川ハルク(第2ラウンド)
どうやら、冬子は脱出に成功したみたいだ。あの冬子のオジサンなら、車で安全な場所まで逃げられるだろう。こっちはこっちで、自分の仕事をするだけだ。
俺は加古川ハルクの前に立っていた。この間は歌舞伎町では恥をかいたから、借りを返さないといけないぜ。それにしても、冬子が油断していたとは言え、一瞬で戦闘不能状態に追い込むとはさすがだ。そこは褒めてやるぜ、ハルク。
話は変わるが、この俺にもアイデンティティってものがある。それは負けない事だ。この世界は負けるとおしまいだ。人間は負け癖がつくと、自分より下を見下すようになる。すると、あっという間に落ちていく。
そして、最後はみじめな人生で幕を閉じるのだ。だが、俺は勝つ女だ。そう思いながら、俺はハルクを見上げた。しかし、横にも縦にも大きい男だ。
まるで、ヒグマだな。なら、俺は野生の狼って所だな。簡単に言えば、この対決はパワーとスピードのどっちが上か決めるだけだ。さて、殺し合いを始めるか……。
ハルクは俺を見下ろしてきた。
「おどれ、ワシに勝てると思ってんのか?」
「勝負ってのは、やってみたいのと分からねえよ。なあ、ハルクくんよぉ?」
「せやな。ほんなら、始めようか?」
「ああ、こっから行くぜぇー」
俺は素早く、空高くジャンプをして、ハルクの顔面の前回し蹴りをぶち込んだ。しかし、右手首であっけなくガードされた。クソ、感触が固くて冷蔵庫みたいだぜ。やっぱり、正攻法で勝つのは無理だな。
ハルクは口元に笑みを浮かべた。
「なかなか、ええ蹴りや。極道に向いているで、ナツ」
「うるせー、こっちはカワイイ乙女だっーの」
「ワシの子分を病院送りにして、乙女もクソもあるかい。今までに何人殺したんやぁー」
そう叫びながら、右パンチを繰り出してきた。まるで、鉄球が突っ込んで来るような威圧感だった。
俺は素早く屈んで避けた。
「いちいち、数えてねえよ。バカ」
「ふっ、ワシもや」
ハルクは次にアッパーと繰り出してきたので、俺は後ろにさがって避けた。
俺はハルクの弱点を考えていた。コイツも人間だし、体の中心と目は鍛えられないはずだ。目を狙いたいけど、スキが全然ねえな。こりゃ、早めに終わらしたいぜ。
しかも、コイツは格闘技ではなく、自己流のステゴロだ。つまり、スポーツの格闘技ではなく、素手で人を殺すプロなのだ。だから、その分は動きも読みづらい。さてと、どう倒せばいいやら……。考えろ、感じるんだ。
その頃、赤坂サナエは子分の6人と共に、網代組と銃撃戦をしていた。7対50と圧倒的に不利な状況であったが、五分五分の戦いをしていた。赤坂組は車を盾にしながら、網代組の侵攻を銃で防ぐ。
サナエは子分達に命令する。
「みなさん、接近戦にはさせないようにお願いします。近づかれたら、終わりだと思ってください」
サナエの子分達は黙って頷いて、確実に相手の身体に弾をぶち込んでいた。
次々に網代組の組員が地面に倒れていく。赤坂組は人数的には不利だが、網代組より上回っている能力があった。
それは赤坂組の全員が軍隊経験者であり、20メートル先のターゲットなら、拳銃で当てる位は造作もなかったからだ。対する網代組のヒットマンは武闘派であるが、拳銃は接近戦の武器と考えており、3メートル位の距離で、ようやく当てられるレベルである。
つまり、ドスのように接近戦の武器と同等だった。サナエはそれを見抜いていた。これらの理由から、銃器の扱いに関しては、赤坂組の方が圧倒的に有利である。
しかし、接近戦になると話は別だ。網代組の方が人数も武器も多く持っているから、赤坂組の方が全滅する可能性が高くなる。だから、サナエは銃撃戦だけで、ケリをつけたいと思っているのだ。
サナエは病院の門の方をふと見ると、ナツが冬子と欣也を逃がしたのを確認した。本来は自分の役目なのだが、ナツが代わりに対応してくれたので、心からの感謝を祈った。
それから、ナツが加古川ハルクに苦戦しているのを目撃した。サナエは自分が応援に行った方が良いと判断した。
しばらくすると、赤坂組の全員が弾切れになったが、まだ20人近くの網代組のヒットマンが生き残っていた。そして、その20人全員がドスを抜いて、サナエ達に向かって突撃してきた。
網代組のヒットマン達も弾切れになり、接近戦でケリをつける作戦に出たのだ。そして、全員が網代ケンの為に死ぬ気だった。
サナエは命令を出す。
「こちらも、ナイフで対応してください」
すると、赤坂組の組員はサバイバルナイフを取り出して、網代組と交戦をした。サナエはサバイバルナイフを逆手で両手に持ち、相手の頸動脈をスパッスパッと切り裂いた。まるで、忍者のような動きに、網代組のヒットマンも困惑していた。
数分後、網代組は全滅したのだ。しかし、赤坂組も3名の犠牲者が出てしまった。首筋にドスを刺されたり、後ろから刺されたり、心臓を一突きされたりして、3人は死んだのだ。
いくら、赤坂組が武闘派でも、大人数相手では厳しかったのだ。そして、4人目の犠牲者が出ようとしていた。その男は20台後半のヒデという組員だった。
サナエはヒデに近づいた。
「ヒデ、大丈夫ですか?」
「姉御、しくじってしまいましたよ。えへへ」
そう言いながら、ヒデと言われる男は口から血をダラダラと流す。腹を刺されており、そこが致命傷になったのだ。
サナエはヒデの背中をしっかりと支えて最後に会話をした。
「ヒデ、しっかりしてください。病院は目の前です」
「おっ、俺……。やっ、やっ、役に立てましたか?」
「もちろんです、もう、しゃべらないでください」
「なら、良かった……。俺は、姉御の事を……」
ヒデは最後まで言葉を言い終える事なく、そのまま息を引き取った。
サナエは残った2人の子分に命令をする。
「私はナツ様の援護にいきます。1人はこの場を離脱してください。そして、各事務所へ応援の連絡をお願いします」
「了解しました」
そう言って、1人はこの場を離れた。
元はみんな軍人なので、死んだ仲間の供養より、上官であるサナエの命令を絶対にしていた。サナエは残りの1人は自分についてくるように命令をした。こうして、サナエはナツが戦っている場所に向かった。
その頃、ナツはハルクと死闘を繰り広げていた。
俺はハルクの攻撃をスイスイと避けていた。だけど、いずれは当たっちまう。コイツもスタミナありすぎだろ。くそ、追い込まれている。コノヤロー、こちらに攻撃をさせない気かよ。
まあ、俺にも考えがあるぜ。相手の顎を蹴り飛ばす作戦だ。まあ、顎なら脳が揺れるはずだ。だが、スキがないので、俺は煙幕弾をポケットから取り出して、地面に投げつけた。すぐにモクモクとした煙に辺りが包まれた。これで、ハルクの視界はゼロだ。
すると、ハルクが大声をあげる。
「なんや、これは? 煙幕とは汚いのう、ナツ」
バカめ、殺し合いに卑怯もヘッタクレもあるかよ。
どうやら、ハルクは煙に包まれて、俺の位置を把握していないみたいだ。煙は通常は空に向かって上っていく。つまり、足元はバッチリと見えるのだ。俺はハルクの革靴の動きを凝視する。
どうやら、ハルクは闇雲にパンチを連打しているみたいだ。今は左足を前に出しているので、つまり右パンチを繰り出しているのだ。この動きを読めば、顎がノーガードになる瞬間が来るはず。そして、その瞬間が来たのだ。
俺は素早く、ハルクの顎の真下にスライディングをして、そのままサマーソルトキックをぶち込んでやった。鉄板入りのブーツがハルクの顎を直撃した。よし、手ごたえあり。いや、足ごたえか……。
しばらくして、煙は徐々に消えていき、片膝をついたハルクの姿が見えた。なんだ、俺様のケリが効いているじゃねえかよ。所詮、コイツもタダの人間様だぜ。
よし、これはチャンスだ。しかし、両手で顔を覆っており、目を狙うのは無理そうだ。だけど、ダメージが回復する前に、なんとかケリをつけたい。おっ、首がノーガードじゃん。
俺は空高く飛び上がり、両足をハルクの首に巻き付けた。そして、サイボーグブーツの力で締め上げて、コイツを気絶させる作戦にでた。
俺はニヤリと笑った。
「ハルク、俺の勝ちだ」
俺は勝ったと確信したが、どうやら甘かったようだった。ハルクは勢いよく立ち上がり、俺はバランスを崩しそうになる。まるで、肩車して落ちそうな子供のようだった。
もう、ダメージから回復したのかよ? ハルクはこのスキを見逃さずに、俺の右足首をガッチリと掴んできた。
そして、ハルクはそのままハンマー投げのように、俺をグルグルと回し始めた。
「ナツ、これで終わりやぁー」
「うわぁー、うわっー、やめろぉー。冬子ちゃーん、助けてぇー」
こええ、目が回ってパニック状態だ。まるで、遊園地の絶叫マシンに乗っているみたいだ。
そして、俺をハンマーのように病院の外に投げ飛ばした。やべーよ、世界陸上の新記録が出そうだ。俺は空を飛んでいて、電柱に激突しようとしていた。おいおい、あれに頭から激突したら、即死の可能性が高い。
俺はなんとか、右足で電柱を蹴って、空中で体の位置を変えた。だが、着地場所までは読めずに、神のみぞ知るってパターンにかけた。
もしかしたら、車に轢かれるかもしれないし、コンクリートに頭から着地するかもしれない。つまり、ギャンブルだ。
だが、俺は悪運が強く、病院前の川に落ちたのであった。つまり、水がクッション代わりになって助かったのだ。しかし、川の流れは激しく、そのまま流されていった。ヤバい、激流で流される。すぐに戻って、ハルクをぶち殺したい。でも、ダメだ、泳ぐので精一杯だ。
なので、俺は川に流されながら大声を出した。
「ハルク、次は殺すからなぁー。ワハハハハハァー」
これが、最後のプライドだ。奴に聞こえていると信じたい。




