第46章 冬子 VS 加古川ハルク
どうやら、私は油断したみたいだ。なぜなら、ランドクルーザーから、降りてくる敵まで気がまわらなかったからだ。
その敵とは、私の首を掴んでいる加古川ハルクだ。その巨体から、歌舞伎町で知らない人はいない。ハルクは左手だけで軽々と、私を空高く持ち上げた。
こう見えても、私の体重は50キロ以上ある。しかし、ハルクは汗一つかかずに、軽々と持ち上げているので、人間離れしたパワーであるのが分かる。
私の両足はブランブラン状態であり、首つり自殺に等しい。くそ、息が苦しくて、意識が飛びそうだ。このままだと死ぬ。だけど、両手はまだ動く。なら、ハルクを殺すしかない。
私はサブマシンガンを撃ちこもうと、ハルクに銃口を向けた。しかし、ハルクは右手で、私の銃を持つ手首を掴んできた。それから、そのまま手首を空高く上げさせられて、挙手するような形になってしまう。私は銃口をハルクに再び向けようとしたが、万力のように凄い力で、右手がまったく動かない状態になった。
その結果、銃口はハルクから逸れて、空高くに照準が定まってしまった。更にその反動で、私はサブマシンガンを空に向かって、全弾を打ち尽くしてしまった。すると、薬莢の雨が私に降りかかり、凄く熱くて火傷しそうになった。
コッ、コイツ……。サブマシンガンもビビらない。でもさ、まだ切り札があるんだぜ。私は唯一自由に動く左手で、愛銃のスミス&ウェッソン社のM629を抜いた。
そして、最後の力を振り絞って、加古川ハルクに向かって全弾を撃った。半分意識が飛びそうな状態でも、この至近距離なら、体の何処かに当たったはずだ。しかし、一向に首を絞めているハルクの手は緩まない。
すると、ハルクは口を開いた。
「残念や、防弾スーツや」
ちくしょう、もうダメだ。このまま、首をへし折られてしまう。クソったれ、私はここまでだ。こんな時なのに、ナツの顔が頭に浮かんだ。なんで、アイツが……。まあ、いい……。ナツが仇を討ってくれるだろう。
私は死ぬ覚悟を決めた。
「くそ、早く、早く……。こっ、殺せよ」
「ふっ、ええ根性しとるわ。網代の親分が、アンタの事を随分と可愛がるも分かるわ。だから、今回は見逃したる。1回だけやで……」
そう言うと、ハルクは手を離した。
すると、私は地面に尻餅をついて倒れた。それから、四つん這いになりながら、大量の涎を地面に垂らした。まさか助かったのか? もしかして、網代のオジさんが、私を殺すなとハルクに言ったのかもしれない。ふっ、敵にも味方にも子ども扱いか……。まったく、情けない話だ。
とりあえず、私はその場で、呼吸を整えた。
「あがっ、はあ、はあ……」
敵は目の前にいる、倒すんだ。でも、だめだ、体が一歩も動かない。立ち上がるのさえ無理だ。
そして、ハルクがしゃがんで目線を合してきた。
「ええな、次に会ったら殺すで……。網代の親分に感謝するんやな」
くそ、やっぱり、網代のオジさんに助けられたって訳か……。私の完敗だ。
次の瞬間、ナツがハルクの顔面に飛び蹴りを入れた。
「冬子から、手を放せやぁーー。このデカブツがぁー」
そして、ナツは新体操選手のようにバク宙をしながら、地面に着地してドヤ顔をする。
「冬子、助けてやったぞ」
「バカ……。遅いよ……。しっ、死ぬとこだったよ……。ナチュはさぁ……」
クソ、呂律がまわらない。それに体もフラフラだ。脳に酸素が行ってないのかもしれない。
しかし、ナツはヘラヘラと笑う。
「まあ、このデカブツは冬子お嬢様には無理だ。俺がコイツを倒す。冬子は休んでいろ」
ナツは、ハルクが怖くないのか? 私は正直に言うと、ビビッてしまった。まるで、森の中でヒグマにあったような恐怖感があったのだ。やっぱり、ナツは精神的には、私よりも遥かに強い。
ハルクはナツを嬉しそうに見た。
「ナツ、久しぶりやなあ。この間の蹴りで、ワシの奥歯が折れてしまったんや。どう、落とし前を付けてくれるんや?」
「ふっ……。なら、残りの歯を全部折ってやるぜ。この俺様が治療してやる」
どうやら、歌舞伎町での喧嘩のケリをつける気みたいだ。
それから、欣也伯父さんが駆け付けた。そして、私をお姫様だっこで、ひょいと持ち上げた。
「冬子、軽いな。とりあえず、ココから逃げるぞ」
「うん。それより、欣也伯父さんの怪我は大丈夫なの?」
「ああ、問題ない。それより、ナツがランドクルーザーを奪ったんだ。これで逃げろってさ。さあ、行くぞ」
そして、私達がランドクルーザーの近くまで移動すると、黒パーカーの男が2人倒れていた。こいつら、ハルクの子分だ。おそらく、ナツが蹴り飛ばしたのだろう。
私は意識が朦朧となりつつも、ランドクルーザーの助手席に乗せられた。そして、欣也伯父さんはエンジンを駆けて、車を病院から発進させた。目の前にヒットマンが立つが、躊躇せずに轢いていった。そして、私と欣也伯父さんは、なんとか病院から逃げる事ができた。
欣也伯父さんが生きていれば、天王洲会は立て直せる。サナエちゃんは6人の子分と一緒に、50人近いヒットマンと戦っている頃だ。ナツもハルクみたいなバケモノと戦わないといけない。
私も力になりたいが、今は足手まといでしかない状態だ。自分が無力なのが、悔しくてもどかしい。クソ、さっきのダメージで、自分の意識が切れそうなのが分かる。せめて、私は意識を失う瞬間に、ナツとサナエちゃんの無事を祈った。




