第45章 病院前で、ドンパチ騒ぎ
病院の受付のソファではナツとサナエちゃんがいた。
ナツは足を組んで、漫画雑誌を読んでいた。
「おつかれー」
「おつかれーじゃねえよ、漫画なんか見ている場合かよ? 周りに怪しい奴がいないとか、見るのがナツの仕事だろ?」
「サーセン、サーセン」
このヤロー、借金持ちのくせして態度悪いな。それに恋愛漫画なんか見ている所が、似合わなくて腹立つな。まあ、それはいい。
隣にいたサナエちゃんは立ち上がって、私に耳打ちをしてきた。
「シマお嬢様は? どうでしたか?」
「大丈夫、命は無事だったよ」
「そうですか。とりあえず、安心しました」
そこに、欣也伯父さんが小声で喋る。
「でもな、左貴に一発、後は横腹に一発かすめたらしい。だから、しばらくは役にはたたない。いつもの強気の姿勢だったが、感情的で使いモノにならない。しばらくは、ホテルに隠れるように手配しておいた。あのハコネがボディガードなら大丈夫だろ」
「そうですね、その方がいいですね。正直言うと、今回の抗争では、あまり役には立ちませんからね」
「ああ、ここは俺達の出番って所だ。シマには経済部分で助けられたからな。今度はこっちが活躍する番だ。網代を絶対に殺すだけだ」
私はサナエちゃんから、イングラムM11とS&WのM629を返してもらった。それを病院のトイレで、動作を確認して、身に着けたのだった。
病院の外を出たら、セキュリティが弱くなっている。院内と違って、油断は出来ない状態だ。こうして、私達は欣也伯父さんを囲むように、病院の玄関前に出た。
サナエちゃんがインカムで車を呼ぶ。
「私です。終わりましたので、車を玄関口にまわしてください」
その時、目の前に車いすを押している女性がいた。乗っている男は老人っぽい服装で、野球帽を被っていた。押している女性は30代くらいだ。父と娘ってところか……。だが、私の判断は間違っていた。
突然、車いすの男が立ち上がり、拳銃を取り出して、こちらへ向けて撃ってきたのだ。同時に、私もイングラムM11を懐から出していた。そして、すぐに引き金を絞った。サブマシンガンの銃口から、パラララという音と共に、無数の弾丸が発射された。
私の放った弾丸は車いすの男の身体全身を撃ち抜いた。男は体中から血を流して、ダンスをしているような動きをして、すぐに地面に倒れた。服装は70代だが、俊敏な動きからして、おそらく30歳くらいの男だと思われる。
すると、車いすを押していた女は大声をあげる。
「くそ、やりやがったわね」
そう言って、女は拳銃を懐から取り出す。
しかし、サナエちゃんは、すでに銃を抜いており、女に照準を合わせて、冷静に引き金を引いた。サナエちゃんの愛銃であるコルトウッズマンから、発射された弾丸が、女の額を撃ち抜いた。額からは大量の血が噴き出て、女は男に追いかぶさるように倒れた。
サナエちゃんは大声を出す。
「会長、大丈夫ですか?」
私は欣也伯父さんの方を見ると、右肩から血が流れており、頭から血が出ていた。私は流れ弾に当たって死んだと思った。
しかし、欣也伯父さんは笑顔を見せた。
「だっ、大丈夫だ。かすり傷だ」
確かに肩は擦った程度だが、顔が血だらけになっていた。
私は思わず、声が震えてしまった。
「でも、頭から血が……」
「いや、ほんとだ。多分、耳が少し削り取られただけだ。ちゃんと、くっついているか確認してくれ」
私は欣也伯父さんの右耳を見ると、確かに少し無くなっていた。右耳からの出血が顔にかかっていたので、大怪我に見えたのだ。
それに口調も呼吸も普段とあまり変わらない。ちゃんと喋れるし、移動するにも問題はないみたいだ。しかし、こんなに情報が簡単に漏れるとは、網代オジさんも侮れない。それより、今はここから脱出することが第一だ。
そこで、ナツが大声で指をさす。
「おいおい、あれもヒットマンだろ?」
私はナツが言った方向を見ると、3人の拳銃を持った男が走ってきていた。
そのヒットマン達は大声を出す。
「くそ、失敗しみたいだ」
「でも、欣也に当たったみたいだ。弱っていて、今がチャンスだぜ」
「なら、俺達でやるぞ。1億ギルは俺のもんだ」
やばい、弾を防ぐ壁がない。
しかし、サナエちゃんがインカムに大声を出す。
「轢けぇえー」
すると、1台のクラウンが猛スピードで、3人のヒットマンを轢いた。3人はイノシシに突進されたように、前方に10メートル近く吹き飛ばされて、ピクリとも動かない状態になった。そして、残りの2台のクラウンもこちらへ応援に来た。
サナエちゃんは子分に指示をする。
「全員、車を盾にしてください。それから、1台は会長を乗せて、ここから離脱します。残りはここで、ヒットマンを食い止めます。まだ、絶対にいるはずです」
すぐに車から、サナエちゃんの子分達が降りて来て、拳銃を懐から出す。それから、子分の一人がすぐに包帯などで、欣也伯父さんを応急手当した。軍隊出身なので、手慣れたようだった。なんとか、血も止まったので安心した。
それにしても、私達の情報が洩れている。くそぉー、全部でヒットマンは何人だ? すると、近くの駐車場の10tトラックから、スーツの男達が数十人おりてきた。やばい、50人以上はいる。相手はここでケリをつける気だ。
私は思わずその数に驚く。
「サナエちゃん、車を盾にしても、あんなに人数がいたら無理だよ。ガソリンに引火して、こちらは火ダルマで死ぬ」
だが、サナエちゃんはニッコリとほほ笑む。
「冬子お嬢様、このクラウンは3台とも防弾仕様です。拳銃の弾ならビクともしません。冬子お嬢様は、会長とナツ様と、一緒に先に車で逃げてください。私達も後から行きます。会長が殺されたら、こちらの負けです」
私は嫌な予感がした。
「サナエちゃん、死ぬ気じゃないよね?」
「まさか、冬子お嬢様が結婚するまで死にませんよ」
そう言うと、残りの6人の子分も微笑んだ。
「さあ、お嬢行ってください。会長を頼みます」
ここで、時間を食っても無駄だ。ここはサナエちゃんに任せるのがベストな判断だ。
私はクラウンの後部座席に欣也伯父さんを乗せて、その隣にナツも同乗させた。
「ナツ、本家に電話して、応援を呼ぶように言って」
「おいおい、それまでに持つのかよ?」
「いいから、早く電話しろよ。バカ、アホ、クズ……。うんたから、かんたら……」
「分かった、分かった。怒るなよ」
ナツは素直に電話した。私は運転席に座り、エンジンを駆けて車を発進した。病院の門を出て、信号無視で全速力なら逃げられるはずだ。しかし、門に向かう途中で邪魔が入る。先程のヒットマンがこちらに、向かって一斉に拳銃を撃ってきた。
くそ、欣也伯父さんが乗っているがバレているのだろう。車の窓ガラスに銃弾の雨が降ってきたが、防弾仕様なのでビクともしない。
車内が安全だと分かると、ナツが思わず笑い出す。
「ワハハ、これなら安心だぜ。これぞ、文明の知恵なりぃー」
私はこれで、欣也伯父さんを安全な場所に移動させて、本家の応援を呼ぶ事に成功したと思った。そして、サナエちゃんも無事に助けられると確信した。
しかし、敵も甘くはなかった。それは病院の門を出る直前に、起こった出来事だった。私の乗っているクラウンに、助手席側から、ランドクルーザーが突っ込んできたのだ。
あまりの衝撃に思わず、体が揺さぶられた。そして、私がハンドルを離してしまったので、クラウンの進行方向は定まらず、病院近くの電柱にぶつかって止まった。
ナツはこの衝撃で、後部座席から、助手席まで転がってきた。
「くそ、頭ぶつけた。超いてーよ、帰ってゲームしたいよ」
逆立ちに近い状態で、パンツ丸見えの状態だったので、ギャグ漫画のように見えた。だが、後部座席の欣也伯父さんは無事だった。運転席側の後部座席という事もあり、怪我はなさそうだった。
私は欣也伯父さんに聞く。
「欣也伯父さん、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。全然、動けるぜ。さっきの傷も血が止まっているしな」
ナツはさっきの体勢のまま、元気よく文句を垂れる。
「バカ、俺も心配しろや。絶対に治療費も貰うからな」
よし、全員が移動できる状態である。戦場では走れなくなったら、もう終わりなのだ。窓の外を見ると、背広のヒットマン達が、こちらに近づいてきたのが分かった。車の中にいたら、殺されるだけだ。
私は素早く、変形したドアを蹴り飛ばして、身をかがめて外に出た。そして、サブマシンガンをヒットマンに向けて撃ちまくった。パラララという発射音と共に、大量の薬莢が地面にカンカンと音を鳴らしながら落ちる。
すぐに、敵の5人は弾を喰らって絶命した。よし、当たる、当たる。このサブマシンガンは使いやすいし、強力で大人数相手にはもってこいだ。現代でも通用する良い銃だ。
よし、残りのヒットマンもここで片づけてしまおう。マガジンはまだ沢山ある。だから、サナエちゃんと挟み撃ちにすれば、ここでヒットマンを壊滅出来るかもしれない。
私は空のマガジンを地面に捨て、新しいのに変えようとした。その瞬間、後ろから巨大な手が、私の首を掴んだのであった。




