第43章 血まみれの喫茶店
私は金沢さんが殺されたのを本家で聞いた。
「欣也伯父さん、これからどうする?」
「クソ、勝手に動くなと言ったのに……。あれ、シマは何処に行った?」
「ああ、強力な武器を仕入れに行くってさ。自分は抗争で戦えないから、これ位しか出来ないって……。それで、外出したみたい」
欣也伯父さんはテーブルをバシンと叩いた。
「あのバカ、抗争時に出歩きやがって……。どいつも、こいつも先走りやがってよ」
「でも、ハコネと一緒だから安心だよ。待ち合わせの喫茶店は堅気も多いから、敵も簡単に手を出せないはずだよ。私はシマ姉さんとハコネを信じるよ」
「だと、いいんだけどな」
しかし、私の予想は大きく外れていくのであった。
その頃、日本政府と警察は大混乱になっていた。移民解放連盟のリーダーである二階堂は、ワン姉妹が死んだと思っていた。だから、遺言通りに、お台場のカジノを占拠する行動に出た。
結果、二階堂は8人の仲間と拳銃を使って、カジノを占拠に成功をする。すぐに警察がカジノ周辺を取り囲み、二階堂らに対して人質解放の交渉を進めた。警察はまず、要求について聞いたのであった。
すると、二階堂は刑務所にいる仲間を解放するように要求した。もちろん、警察はそんな要求は呑めないので、粘り強く説得をする事にした。
更に移民解放連盟のメンバーが東京中で、捜査かく乱の為に発砲事件を起こしていた。日本政府は移民解放連盟の壊滅に全力を尽くす事を決定した。このテロリスト撲滅作戦について、マスコミは朝から晩までテレビ放映した。ヤクザの抗争は夕方に、申し訳ない程度に放映された。
こうして、ワン・シャンリンの狙い通りに、天王洲会の抗争に、警察もマスコミも、力を入れる事はなかった。これで、天王洲会と関東網代一家の抗争に邪魔は入らなくなったのだ。
だが、移民解放連盟は一枚岩ではなかった。物語の冒頭で、アルタ前でデモ活動をしていた川島健太という男は、二階堂とは別の考えだった。ワン・シャンリンがヤクザに殺された以上は、天王洲会に殴り込みに行くのが筋と考えていた。だから、川島は二階堂とは別の行動をとっていた。
そして、川島はあるタレコミ情報を聞きつける。それは天王洲会のナンバー2である東雲シマが、喫茶店にいるという情報である。そこで、彼は2人の仲間を呼んで、東雲シマを殺す事にした。川島は2人の仲間に日本刀を持たして、喫茶店に乗りこもうとしていた。
しかし、もう一人の男も東雲シマを狙っていた。それは黒羽組の若頭の市原であった。ナツに蹴り飛ばされて、ハコネの右手首を切り落とされた悲惨な男だ。
市原は東雲シマのいる喫茶店前にベンツを停めていた。そう、東雲シマと東雲ハコネに復讐を考えていたのだ。
市原はベンツの後部座背に座っており、運転手の子分に声をかけた。
「おい、東雲姉妹が中にいるのは間違いなのか?」
「はい、先程確認しました。だけど、網代の親分が東雲には手を出すなって、言ってましたよね? さすがに、本家の命令に逆らうのはヤバくないっすか?」
すると、市原は激情して、運転席を足で数発蹴った。運転手の子分がガクガクと揺れる。
それから、市原は運転席に顔を出す。
「おい、この右手を見てみろ。あのガキに切り落とされて、この俺様がこのザマだ。本家がなんと言おうと、俺はあの2人は殺す。絶対に殺す、確実に殺す、殺す、殺す……」
そう言って、市原の見せた右手は包帯でグルグル巻きであった。もちろん、あるべき右手首は存在しない。
子分は同情の気持ちもあり、興奮する市原をなだめた。
「ちょっと、若頭落ち着いてくださいよ」
「これが落ち着いていられるかぁー。俺がこんな状態になって、黒羽のオヤジは何って言ったと思う?」
運転席の子分は首を傾げた。
「いえ、分かりません。すいません」
「300万ギルを手渡して、堅気になった方がいいと言ったんだぞ。誰のせいでこんな体になったと思ってんだ? あのバカ。あっー、あっー、イライラする」
そう言うと、市原は背広から注射器を出した。それを左手で器用に扱って、手首のない右腕に針を打ち込む。
すると、顔がトローンとした状態になる。
「あっああー、最高だ。北朝鮮モノはさすがに違うわ……。うへへへ、あの東雲姉妹を殺すぜ。絶対に殺す、確実に殺す、殺して、殺しまくってやる」
市原は右手首が無くなった現実を受け入れる事は出来ず、クスリに手を出しまったのだ。そして、すぐに純度の高く、混じりがない、北朝鮮の覚醒剤のとりこになった。市原の心の中では、東雲姉妹を殺せれば、全てどうでもいいという考え方になったのだ。
それから、注射器を車内に捨てて、左手にリボルバー拳銃を握りしめて車から出た。
「あの女が出てきたら、全弾を体にぶち込んでやるぜ。すぐに逃げられるように、エンジンをかけておけよ。ヒヒヒ、どいつもコイツも殺してやる」
その光景を運転手の子分はウンザリした気分で見ていた。
その頃、喫茶店では、移民解放連盟の3人が殴り込みをしていた。川島がリーダーであり、仲間2人は大学の後輩であった。そして、3人の手には日本刀が握られていた。
川島は日本刀を客に見せつけて、大声を出した。
「俺達の狙いは東雲姉妹だけだ。怪我したくない奴は、すぐに店から出ろぉー」
店内にいた客はパニック状態になって、一目散に逃げだした。すぐに店内には、移民解放連盟の3人と、東雲姉妹だけになった。
川島は東雲シマに日本刀を向けた。
「東雲、ワン姉妹の仇を取りにきたぜ」
しかし、東雲シマはソファに座っており、特に動揺することもなく、コーヒーを啜っていた。
「おい、オドレら何処のもんじゃ?」
「俺らは移民解放連盟だ」
「ああ、ガキの革命ごっこさかいな。今回は見逃してやるから、さっさと帰りや」
川島はガキ扱いされた事に腹が立った。
「うるせー、お前を殺す。最高司令官の敵討ちだ」
「おいおい、ワン姉妹を殺したのは網代ちゅう男や。ウチを恨むなら、お門違いやろ?」
「黙れ、黙れ。お前ら、この女どもをやっちまえ」
「しゃーない。ハコネ出番や」
東雲シマの向かいに座っているハコネは、チョコレートパフェをモグモグと食べていた。
そして、食べるのを止めて、ソファから立ち上がった。
「ふう、仕方ないわ、ウチの出番やな」
そう言って、ハコネは日本刀を鞘から抜いて、東雲シマをガードするように、移民解放連盟の3人の前に立ちふさがった。
それから、ハコネは3人に日本刀を向けて、ニッコリした表情を向けた。
「ほら、革命するんやろ? さっさと、かかってこんかい」
川島達は小柄なセーラー服の少女から、異常な殺気を感じ取った。3人は自分が切り殺されたイメージが頭に浮かび、恐怖で動けなくなってしまう。しばらくして、川島の子分の一人であるネルシャツを着た男が動いた。このままの状態でも仕方ないと判断したのだ。
ネルシャツ男はハコネに威圧されながらも、大声を出して自分に喝を入れたのであった。
「やってやる、やってやるぞ……。革命だ、革命だぁー」
それから、日本刀を空高く振り上げて、東雲ハコネに向けて振り下ろした。しかし、それより素早く、ハコネがネルシャツ男の両手首を切り落とした。ネルシャツ男は膝から崩れて、両手を失くした事により、激しいパニック状態になった。
それから、両手首の断面図から、血が止まらない状態に大声をあげた。
「うわぁああーー」
「フフフ、痛そうやなぁ。これが殺し合いやで。次は誰や?」
それを見た、もうひとりの男はビビッて日本刀を捨てて、川島の顔を涙目で見た。
「悪い、俺抜けるわ。川島、後は頼むぞ」
そう言うと、そのまま店から飛び出して消えていった。
ハコネはそれを見て笑顔を作る。
「キミも逃げたらええんとちゃう?」
だが、川島は剣道をやっており、全国大会でベスト8まで残った男でもあった。
それが自信なのか強気の姿勢をくずさない。
「俺は剣道3段だ」
「姉ちゃん、外の車で待っていてや。すぐに終わらすで……」
「ハコネ、死んだらアカンで」
「こないなザコに負けへんよ。10秒もいらんで」
東雲シマは煙草に火をつけた。
「ふっ、じゃあ外で待っているで……。例の件もあるしな」
「ちゃんと分かっとる、こいつらは予定外やからな」
「分かっとるなら、それでええ」
そう言って、東雲シマは店の外へ出て行った。
店内に残された東雲ハコネと川島は、互いに睨み合っていた。
川島はプライドが傷つけられて、イライラした表情になる。
「10秒だと? ガキが、大人を舐めやがってぇえー」
そう叫びながら、ハコネに向かって日本刀を真上から振り下ろした。
ハコネは素早く後ろに引いて、簡単にヒョイと避けた。そして、身を低くして、両足を屈んで、コマのようにその場を一回転した。気が付くと、川島の両足首は切断されていた。足の断面図からは、おびただしい血が流れて、床には血だまりが出来ていた。
川島はその場に倒れて、大声をあげてパニック状態になる。
「うがぁああー」
そう叫びながら、川島は日本刀を捨て、両足首を拾って、自分の足の切断面とくっつけようとしていた。当然ながら、切断された部分は繋がることなく、絶望した顔でオメオメと泣いていた。
ハコネはその光景を見下ろしていた。
「ふん、5秒で十分やったわ」
その時、外で1発の銃声が鳴り響いたのであった。




