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第39章 帝国ホテルでティータイム

しばらくして、大友組の石原も帰った。部屋には天王洲欣也、赤坂ノブオ、東雲シマ、故山の幹部が2人だけ残った。


東雲シマは悔しそうな表情で口を開いた。

「なんでや、なんで、アイツがこないな大金を持っているんや? どいつもこいつも、借金だらけの貧乏ヤクザのくせに……」


赤坂ノブオがため息をつきながら、落胆していた東雲シマの肩を叩く。

「俺にも分からねえが、誰かが資金提供をしたって事だろう。それにしても、網代が大金を手に入れて、ワン姉妹を殺して、何もかもうまくいきすぎじゃねえか? あいつが、こんな絵図をかけるとは思わねえよ」

「まあ、黒幕探しはどうでもええわ。ただ、組が分裂して抗争になることは決まったんや。この抗争に勝たないと、みんな死ぬだけや」


天王洲欣也もため息をついた。

「みんな、すまない。俺の器量不足で、組が分裂しちまった」

「なーに、こっちには俺やサナエがいるから心配すんな。まあ、それでも戦力的には向こうが上だろう。そうとはいえ、シマがいるから金は無限大にある。長期戦に持ち込めばこっちが勝てる」

「オジキ、逆を言えば短期戦なら負けるって事だろ?」

「ああ、だから最初は防御にまわるしかない。府中、黒羽は抗争には慣れていないし、山形は単なるジジイだ。こいつらは長期戦になったら、必ずスキが出来るから、その時に命を殺ればいい。そしたら、こいつらの子分は根性なしだから、慌てて逃げちまうだろうよ」


天王洲欣也はテーブルにおいてあるお茶に手を伸ばした。それを口で潤した。

「まあ、問題なのが網代組だな。武闘派であり、若頭のハルクも相当強い。みんなが、親分のために命を張る集団だ」

「ああ、分かっている。運がよければ勝てる、運が悪ければ負ける。そんな泥試合の抗争になる。それで、シマと作戦を……」

そう言って、赤坂ノブオは東雲シマを見るが、当の本人は落胆した顔をしていた。


それを見ていた赤坂ノブオは大声で喝を入れた。

「シマ、いつまで落ち込んでいるんだよ。反目の幹部を借金漬けにして、クーデターを抑える絵図だったんだろ? だけど、あいつらは金を持ってきた。でも、これが現実だ。若頭になる、お前がそんな事でどうするよ? さっさと、切り替えていくぞ。歌舞伎町の女帝の異名が泣くぜ?」


すると、東雲シマは先程の落胆した表情から、いつものイケイケな性格に切り替わった。

「オジキ、分かっとるわ。ウチが参謀として、この抗争を勝たしたるで。あの網代のガキは絶対に許さへん」


そして、天王洲欣也が笑った。

「まあ、2代目会長として、みんなに力を借りるぜ。よろしく頼むぜ」

こうして、襲名式の続きをして、天王洲会2代目体制が生まれた。会長は天王洲欣也、若頭は東雲シマ、舎弟頭は赤坂ノブオ。


2人の古参の幹部も役職が与えられたのであった。若頭補佐には金沢という50代の武闘派、幹部には福山という40代の経済ヤクザが選ばれた。先代から仕えた直系組長であり、それぞれに100人近くの子分を持っていた。


これで欣也派閥は、ちょうど500人位になった。こうして、天王洲会2代目VS関東網代一家の抗争が始まったのである。


その頃、私はナツとサナエちゃんとティータイムをしていた。ワン姉妹が死んだので、サナエちゃんが帝国ホテルのラウンジでアフタヌーンティーを奢ってくれたのだ。


日本が誇る高級ホテルだけあって、高級なテーブルにソファの座り心地も良かった。周りの客層も裕福な感じであり、私とナツは少し場違いな気もした。


サナエちゃんはこちらを見て口を開いた。

「冬子お嬢様、何か心配事でも?」

「いや、あのワン姉妹があっけなく、殺されるなんて思ってさ……。私の父親の仇だったし……」


ナツがタルトを口に入れながら、ペチャクチャと喋る。

「まあ、どんな悪党も死ぬ時はこんなもんだろ? まあ、俺の仕事も減って良かった」

「バカ、東雲姉さんの借金はどう返すんだよ? 7800万ギルだぞ」

「あっ……。まあ、なんとかなるだろう」

「ならねーよ、バカ」


その言葉にナツはキレたらしく、おしぼりをこちらに投げてきた。私の顔にナツの口を拭いたおしぼりが張り付く。


私はおしぼりを握りしめて、ナツを睨みつけた。

「おい、やめろよ」

「うるせー、バカ」


私はその言葉に腹が立って、自分のおしぼりをナツに投げた。そのおしぼりをナツは顔面でキャッチした。


すると、ナツはおしぼりを地面に投げつけて、怒りの表情を見せた。

「冬子、ちょっと表に出ろや。悪い子はしつけてやるぜ」

「ああ、やってみろ」


私とナツは一触即発な状態になったが、そこをサナエちゃんが止めに入った。

「はい、そこまでです。2人共、行儀が悪すぎますよ」


私はサナエちゃんに食ってかかった。

「でも、ナツが先に……」

「フフフ……。冬子お嬢様、変わられましたね?」


それから、サナエちゃんが口に手を当てて、大声で笑い出した。

「アハハハハ。なんか、ナツ様とお話している時は、表情に緊張感がなくなりましたよ。フフフ、表情豊かでカワイイし、年相応の少女って感じです」

「だって、コイツに苦労させられているからね」


そして、サナエちゃんにはティーカップを口に付けて、すぐにテーブルに静かに置く。

「冬子お嬢様、ワン姉妹は網代の親分が殺しました。これは事実なのです。自分で父上の仇を討ちたかった、お気持ちは分かります。けれど、逆に私は安心しています」

「サナエちゃん、何でそんな事いうの? 私が仇討ちをしたかったの知っているでしょ?」

「もし、あのワン姉妹と戦ったら、冬子お嬢様も無傷では済まなかったでしょう。私はシマお嬢様と同じように、アナタに死んでほしくないのです」

「………」


サナエちゃんが心配してくれている事は分かる。けれど、あのワン姉妹の居場所を、網代のオジさんが特定できたのが不思議だ。警察だって、手掛かりを掴めなかったのに。でも、小指のDNAから、ワン姉妹本人のモノだと出ている。


だから、この現実を認めなければいけない。私は父親の敵討ちを自分の手でしたかっただけだ。それを出来なかったから、生きているように妄想しているだけだ。それを察して、サナエちゃんがこうやって、気分転換にお茶に誘ってくれたのだろう。だから、私はワン姉妹が死んだ現実を受け入れた。


しかし、一方のナツは無神経な事を言ってきやがった。

「なんだ? 冬子イライラしてさ、生理か? あー、怖い、怖い」

うざすぎるぜ、ナツ。その表情はニヤニヤとバカにして、凄く腹が立つ顔だった。


私はその言葉にホルスターから拳銃を抜こうとした。その瞬間、サナエちゃんのスマホの着信音が鳴った。映画ゴッドファーザーのテーマだ。サナエちゃんは電話の相手と話を始めた。すると、みるみると顔色が変わっていく。


そして、電話を切った。

「冬子お嬢様、大変です。組が分裂しました」

どうやら、天王洲会が分裂したらしい。網代のオジさんが複数の幹部を連れてクーデターを起こしたみたいだ。その手伝いを何者かが資金援助したらしいが、誰だかは分からない。


だから、サナエちゃんも気を付けるようと、シマ姉さんから電話があったらしい。

「あと、シマお嬢様の伝言で、ナツ様の借金はいつでもいいそうです。もしかしたら、冬子お嬢様を狙う奴らも出るから、2人で海外に逃げろと言っておりました。どうなされるつもりですか?」

「私も手伝うよ」

「冬子お嬢様、小さい頃に可愛がってもらった網代を撃てますか? 優しいお嬢様には酷だと思います。シマお嬢様の言う通り、海外にでも逃げてください。私が網代を殺ります」


小さい頃から世話してくれた人間が敵になってしまったが、自分の家族は自分で守るのが筋だろう。


私はその胸の内を伝えた。

「いや、私はサナエちゃんにも死んでほしくない。だから、手伝わせてよ」

「ふう、言ったら本当に聞きませんね。とりあえず、本家に一度戻りましょう」

しかし、組が本当に分裂するとは、現実とは思えなかった。


だが、ナツは無関係な顔をして、ウエイターに声をかけていた。

「あっ、お姉さん、このタルトお替りね」

まったく、緊張感のない奴だ。

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