第38章 幹部会での裏切り
そして、天王洲会初代会長の天王洲文太の死から四十九日が経った。今日は2代目会長を決める幹部会の日であった。本家の畳張りの部屋に直系の幹部が集まっていた。
上座には2代目会長候補の天王洲欣也が袴姿で座っていた。そして、横には横浜を仕切る大友組の若頭である石原も来ていた。石原は銀縁のサングラスをかけた50代のヤクザである。一見すると、ヤクザには見えずに銀行員と言ったら、そう信じてしまうだろう。義理高い親分である大友とは違って、金で動く人間であった。
そして、他のメンバーも集まっていた。赤坂組の赤坂ノブオ、東雲組の東雲シマ、その他の古参の幹部2人がいた。
それに対するように大理石の長机を挟んで、座っているのが網代組の網代ケン、府中組の府中、黒羽組の黒羽、山形組の山形である。
まずは、赤坂ノブオが口開く。
「今回の幹部会を仕切らせてもらう、赤坂組の赤坂ノブオだ。先代の死から、四十九日が過ぎた。色々なゴタゴタが続いていたが、2代目の会長を決めたいと思う。先代の遺言通りに、2代目は若頭の欣也に任せたい」
すると、網代が口を挟んできた。
「オジキ、ちょっと待ってくださいや。本当にそれでええんですか?」
「網代、何が言いたい?」
「いや、先代の若頭の敵討ちであるワン姉妹を殺したのは誰だって話ですよ? そして、これからのヤクザは、警察とうまくやっていく交渉力が必要だ。それを欣也が出来るんですか? 少なくても、自分の実の兄貴の敵討ちが出来なかった人間ですよ?」
その言葉に空間が張りつめた。
そして、赤坂ノブオが口を開く。
「おい、網代……。じゃあ、欣也には天王洲会を仕切っていく器がないと言いたいのか? テメー、先代の意思に逆らうのか?」
そこに金髪サングラスの府中が入ってくる。
「まあ、まあ……。オジキ、落ち着ていくださいな。別に網代の兄弟はそんな事言っていませんでしょ? 現実的な意見を言っただけでしょう? 敵討ちできなかったのは事実だし……」
黒羽もニヤニヤしながら、意見を被せてくる。
「府中の兄貴の言う通り、確かに一理ありますよ。世間は網代の兄貴に心酔していますよ。それに、警察だって、テロリストを殺してくれたと喜んでいましたよ。警察と仲良い関係を築けたのは大きいですよ。まあ、これからの天王洲会に必要な人脈ですぜ」
場の雰囲気は網代が次の会長にふさわしい空気になっていく。
それを崩したのが東雲シマであった。
「黙って聞いていれば、このボケ共がぁー。網代が2代目の会長に相応しいって言いたいんかい? このボケはなぁ、シャブを扱っていた外道やぞ。そないなシノギをしている奴が、天王洲会を仕切るちゅうんかい? おっ、コラっ?」
しかし、網代本人はすっとぼけた顔を見せた。
「東雲、何を言っているんだ? 俺はシャブなんかやっとらんぞ? 知らん、知らん」
「おい、トボケとボケはちゃうで? 大体、ウチに借金にある身で、何を呼びつけしとんねん? 借金だらけの、ゴミクズに金を貸しってやったのは、一体誰だと思ってんねん? 網代、府中、黒羽、偉そうに言うなら、借金返してから言うてみ? シノギも出来へんヤクザが後を継いでみ、あっという間に組が空中分解するわ」
網代は鼻で笑って、両手をパンと叩いた。すると、ハルクが障子を開いて、ジュラスミンケースを軽々と3つ持ってきた。そして、全てのケースを開いて、東雲の目の前に差し出した。
東雲シマが驚く。
「何や、この金は?」
「全員の借金の返済だ。3億はある。借金は2億6000万くらいだろ? 残りは多すぎるが利子って事だ。これで、テメーに借金はないって事だな。文句あるか?」
「こないな大金どうしたんや?」
「ハッ、テメーに話す義理はねえな」
赤坂ノブオは煙草に火を点けた。そして、空高く紫煙を吐いた。
「ふぅー、山形よ。テメーはどう思ってんだ? この状況をよ?」
小太りの山形はニコニコした顔を見せた。
「ハッハハ、赤坂のオジキも歳とりましたな。これからは網代の時代だと思いますよ。世間、警察を味方につけて、敵討ちもしたんですからな」
「ほう、先代に散々可愛がってもらったくせにな。ずいぶん偉くなったな?」
「へい、おかげさんで。確かに先代にはお世話になりましたけど、欣也の坊ちゃんには世話してもらってませんや。従う義理もないでしょう?」
そこに天王洲欣也が入ってきた。
そして、網代の方に顔を向けた。
「赤坂のオジキ、もういいですよ。それでよ、結局は何が言いたいんだよ、網代よ?」
「そうかい、ハッキリ言わしてもらおうかい。俺が天王洲の2代目会長になって、欣也が若頭になれば話が済む話ってわけだ」
「なら、そう言えよ。遠まわしに言ってきやがってよ。この渡世で逆縁切るつもりか? そしたら、先代と盃を交わした兄弟分が黙ってねえぞ。大友組の面子を潰す気か?」
網代は大友組の石原を見る。
「石原さんはどう思っているんですか? もし、ウチが分裂したら、欣也に手を貸すんですか?」
「いや、大友組は動かない。だって、仁義がない話だろ? 子分から逆縁切られる親分なんて、管理能力がないだけだろう? 欣也ちゃんの器量不足の話なだけだ。なんで、ウチが動かないといけないんだよ?」
そう、石原も網代から買収されていたのだ。2億円の大金と東京の縄張りを貸し出す条件を受け入れたのだ。だから、石原は欣也を冷たく引き離したのだ。
赤坂ノブオが石原を睨みつける。
「石原さん、ウチの天王洲文太とオタクの親分は5分の兄弟分のはずだろ? それにアンタは欣也の後継人だろ? 大友組の若頭がこんな事をしていいのかよ? 裏切り行為だぞ」
「ああ、確かにな。だけど、俺と欣也ちゃんは盃をかわしてはいない話なだけだ。簡単に言えば、そちらの先代とウチの親分の盃の話だ。だけど、どちらも今はいない」
「はーん、なるほどな。アンタも網代に買収された口って事か? 大友の親分はこの事を知っているのか?」
石原はサングラスを外して、赤坂ノブオを睨みつけた。
「知らんよ、親分は病気で面会謝絶だ。だからな、大友組の指揮権は俺にある。だけど、俺にも仁義はある。もし、天王洲会が分裂しても、どちらにも手を貸さんつもりだ。勝った方と、今後も交流は続けていく方針だ。それに欣也ちゃんだって、七光りの汚名返上が必要だろう。世間では網代一色だ。ここで、男をみせる必要があるだろ?」
天王洲欣也は全てを理解したという顔をした。
「なるほどな、網代に金を出したスポンサーがケツを叩いたって所か……。誰だか分からねえが、その金を使って、府中、黒羽、山形を買収した。そして、邪魔な大友組は動かないようにしたって事だな。それで、網代は本気でドンパチする気なのかよ?」
そう、抗争になれば、どちらかが棺桶に入るのだ。そして、沢山の子分が死ぬことになる。
だが、網代の返事は決まっていた。
「ああ、お前の兄貴とは5分の兄弟分だった。だから、その実の弟を殺すのは気が引けるから、お前には若頭のポストを用意した。その代わりに、横にいる東雲シマは引退してもらう。それで、組が分裂しないなら悪くない話だろ?」
「ふっ、確かにいい話だな。だって、誰も死ななく済むもんな」
「なら、欣也よ。この話を……」
天王洲欣也は思いっきり、テーブルに手を叩きつけた。
「受けるわけねえだろうぁー、ボケぇー」
「ふっ、アホな男だな。兄貴そっくりだな、やっぱり兄弟だな」
「ああ、俺が天王洲会の2代目になる。そして、東雲も引退はさせん。来るなら来い、全員棺桶に入れてやるぜ」
すると、網代はゲラゲラと笑い始めた。
「ガハハハ、さすがは天王洲家の血を引いているってわけだ。この際だから言っておくが、テメーらみたいに刑務所に行った事もねえ、欣也や東雲が組でデカい面をしているのが気に食わなかったんだ。ヤクザってのは結局は暴力だろ? 経済ヤクザが偉そうにすんな」
そう言って、網代は立ち上がった。
「じゃあ、長い間にお世話になったな。俺達は明日から、関東網代一家として、東京を仕切っていく。あばよ」
それから、網代は盃を出して、テーブルに叩きつけて割った。同じように府中、黒羽、山形も立ち上がって、盃を割ったのであった。
網代は東雲にガンを飛ばして勝ち誇った顔をした。
「1か月後には、テメーの縄張りとシノギを全部頂くぜ。楽しみしとけや」
それから、障子をあけて部屋を出て行った。その背中をハルク、府中、黒羽、山形が追いかけていく。こうして、網代は幹部を引き連れていった。




