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第36章 いりますん

私は応接室の扉の前で盗み聞きをしていた。


どうやら、シマ姉さんは私を抗争に巻き込みたくないみたいだ。しかし、私は自分の手で父親の敵討ちをしたいし、それにナツを甘やかしたくない。


すぐに、応接室の扉を開いて、部屋に入った。

「シマ姉さん、ナツの借金は賞金首を捕まえて返すよ。それでいいだろ?」

すると、ソファに座っていた2人は顔を見合わす。


そして、シマ姉さんが口を開く。

「ナッちゃん、仕事や。冬子ちゃんを説得してや」

すぐにナツはソファから立ち上がり大声を出した。

「冬子、お姉ちゃんの言う事は聞くもんだぞ。お前の事を心配して言っているんだろがぁー。それに、俺だって心配だぜ。さあ、2人で海外でも行こうぜ」

ナツは一見すると、心配しているように見えるが、報酬の1000万ギルが目的なのが見え見えだ。


だから、逆に追い詰めてやった。

「なんだよ、ナツは金が欲しいだけだろ」


ナツは興奮しながら、早口で喋りだす。

「いや、違うよ。お姉さんと一緒で、冬子が心配なんだよ。さあ、早く逃げようぜ。金なんかどうでもいいさ」

「じゃあ、報酬の1000万ギルはさぁ、私が管理してもいいのか? 金が目的じゃないなら、別にいいよな?」


ナツは一瞬にして、地面を見て声も小さく、歯切れが悪くなる。

「あっ、いや……。それは……」

私はテストで赤点をとった子供を追い詰めるような口調になっていく。

「ナツ、1000万ギルはいらないよな? だって、私の命が一番なんだろ? どうなんだ? 金はいるのか?」


すると、ナツは小声でつぶやく。

「いっ、いりますん」

「どっちだよ、バカ」

「あっ、だからさ……。その金は生活に必要であり、その、つまり……。経費が……」

ナツの声が徐々に小さくなっていく。


私はシマ姉さんにも注意促す。

「シマ姉さん、友達を甘やかさないでよ。それに。私は18歳の大人だし、自分でやりたい事は自分で決めるよ」

「なあ、テロリストとの殺し合いやで。一方的に賞金首を狙う仕事やない。この抗争に首を突っ込んだら、冬子ちゃんまで命を狙われる事になるんや。分かっていると思うが、狙われる方が圧倒的に不利なんやで。24時間ずっと、心の安息はないで。つまり、枕を高くしては寝れへん。それでもええんか?」


シマ姉さんの話は本当の事だ。賞金稼ぎは賞金首を捕まえれば終わりだ。しかし、テロリストは別である。殺したら、仕返しが必ずあるのだ。シマ姉さんはその覚悟があるかと聞いているのだ。


私だって、それ位は理解しているのだ。

「ああ、覚悟はあるよ。シマ姉さんには絶対に迷惑をかけない。だって、アキ姉さんと会うまでは死なないよ、絶対に」

シマ姉さんはジッと私の目を見ながら、しばらく押し黙った。


それから、シマ姉さんは大きな溜息をついた。

「ほな、しゃーない。ただ、ウチの言う事は聞いてや。最低限は死なせない努力くらいは、姉としてのワガママでええやろ?」

「分かったよ」

「それとな、真一おるやろ? あの子はしばらく本家を出てもらうで。飲食店の知り合いの所に預かってもらう事にする。堅気で生きてく子やから、巻き込みたくないからや。どっちみち、高校卒業したら、料理人になるしかないやろ? 他は何も出来へんし」


真一は喧嘩も弱く、気も弱く、お人好しの弟だ。だから、ヤクザの世界には向いてはいない。だけど、料理だけは才能があるから、その道で頑張ってもらいたい。そしたら、こんな世界の人間と関わらなくて、堅気として生きていけるはずだ。


私はその提案に乗った。

「シマ姉さん、それは同意するよ。真一は早めに家に出ていってもらおう」

「せやな、高校卒業までは生活費はウチが出したるからな」

「うん、ありがとう」


そこにナツが入ってくる。

「あのー、シマ姉さん。俺の借金はどうなるのでしょう?」


シマ姉さんは煙草に火を点けて、ナツの方を睨む。

「そりゃ、働いて返しや。だって、冬子ちゃんを説得出来へんかったろ? まあ、冬子ちゃんの下について、ガードマンでもしてや。もし、冬子ちゃんを死なせる事になってみ、ウチはアンタを殺すで」

「ふええ……」

ナツはそう言って、しょんぼりした顔をしていた。


まあ、ナツにも協力しろと言っているのだろう。さてと、ワン・シャンリンとの抗争が始まるわけだが、内部分裂も心配であった。あの網代オジさんが、あそこまでプライドを踏みにじられて、黙っているのか?


私はシマ姉さんにその事を聞いた。

「あのさぁ、私が言うのも筋違いだと思うけどさ……。網代オジさんと仲良くしておいた方が良いんじゃない? このままが内部で争う火種はない方がいいとは思うんだ。まあ、クスリを売買していた方が悪いけどさ……」

「アハハハ、冬子ちゃんは心配症やな。もしかして、組が分裂するとでも思うたか?」

私は黙って、コクコクと頷いた。


しかし、シマ姉さんはニヤリと笑う。

「それは心配せんでええ。先代にカリスマがあったのは事実や。だから、七光りの欣也の親分に不満がある幹部も多いのも事実や。だから、反目になりそうな幹部は、ウチが借金漬けにしておいたわ」

「つまり、反目するような人は金がないってこと?」

「そうや、金がなければ抗争はできへん。実際、抗争はえらい金がかかる事やで。ウチは次の若頭やで、その辺の根回しは大丈夫や。天王洲会はウチに任せておけばええんやで、アハハハ」

そう言って、シマ姉さんは高笑いをしていた。


なるほど、跡目争いにならないように、シマ姉さんが手を打っていたのだ。欣也伯父さんが2代目会長になれるように、ちゃんと考えているみたいだ。


しかし、この時にワン・シャンリンが、網代組に資金提供をしているとは夢にも思わなかった。

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