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第35章 ナツの借金返済プラン

俺は正座をしていた。冬子の実家である応接室での話である。ソファには冬子と銀髪の着物女である東雲シマが座っていた。それにしても、足が寒くて、膝が痛いよぉー。早く、ベッドで寝たかった。


まず、冬子が頭を下げる。

「シマ姉さん、本当にゴメン。ナツが組のカードの使い込みをしちゃって……。ちゃんと返すから、少し待ってくれない?」


東雲シマは足を組みながら、煙草を優雅に吸っていた。

「それで、なんぼ使ったんや?」

「なっ、7800万ギルだよ。しかも、全てさぁ、ギャンブルで……。でも、賞金稼ぎだから、ワン姉妹を捕まえて返すよ。それでいいだろ?」


冬子が頭を下げていたので、俺も正座をしながら頭を下げた。心の中では、真一も半分出せよと思っていた。東雲シマはクリスタル製の灰皿に煙草を押しつぶす。


それから、俺に声をかけてきた。

「ナツちゃん……。まあ、冬子ちゃんの友達じゃなかったら、風俗に売り飛ばす所やで……。それとな、人と話すときは目を見ようか、なあ?」


俺は顔をあげると、東雲シマと目があう。そこにはヤクザの冷たい目があった。サシの喧嘩では余裕で勝てるが、長期的な命のやり取りになると、殺されるような気もした。この女は蛇のように執念深く、残忍なタイプだと思った。俺は敵にまわしたくはないと本能で感じた。


しかし、すぐに口元が緩んだ。

「なーんてな。ウチが冬子ちゃんの友達に、そないな事をするわけないやろ? まあ、利子はなしで、いつまでも待ってやるわ」

「ありがとう、シマ姉さん」

「しかし、よりによって、網代のところに金を落とすとは腹立つわ。まあ、ウチが若頭になったら、何倍にもして回収してやるわ」


そこで、冬子が血相を変えて口を挟む。

「ねえ、網代のオジさんを刺激しない方がいいよ。昔ながらのヤクザだから、面子を潰す事はやめた方がいいよ。この間の件で、私は組が分裂するかと思ったよ」

「アハハ、冬子ちゃん心配症やな。あいつは金がなくて、借金だらけや。抗争なんかできる財力なんかないで。だから、ウチも強気に出られたんや。これからは金の時代やで。歌舞伎町で一番儲けているのは、この東雲シマや」


どうやら、会話からすると、天王洲会が分裂する可能性もあるみたいだ。冬子の伯父派閥と網代組という派閥があるらしい。しかし、網代組には金がなく、抗争になる心配はないみたいだ。まあ、余計な事には巻き込まれたくないもんだ。


東雲シマは新しい煙草に火を点けた。

「まあ、仮に分裂したとしても、冬子ちゃんには関係ないことや」

しかし、冬子は眉を顰めた。

「いや、関係あるよ。もし、網代組が敵なったら、欣也伯父さん、サナエちゃん、シマ姉さん、ハコネの命は守るよ。家族の命がかかっているもん」


すると、東雲シマがテーブルを強く叩いた。

「冬子ちゃんが抗争に関わることは許さんで。こないな抗争に巻き込まれて、死んでしまったら、アキに顔がたたんわ。ええな、冬子ちゃんは賞金稼ぎをしておればええ。それに小さい頃、可愛がってもらった網代を殺せるんか? 優しい冬子ちゃんには無理や。それが命の取りになるんや」

「いや、それは……」

「まあ、ええわ。ワン姉妹も、ウチが捕まえてやる。今はサナエちゃんに、居場所を探させておる。それでな、とどめは冬子ちゃんにさせてやるわ。だから、あんまり無茶したらアカンで……。お姉ちゃんからの忠告や、これを守れないなら、借金はすぐに返してもらうで。7800万キャッシュでや」

この銀髪姉ちゃんは冬子のことが心配なのだろう。実の妹を見るような優しいまなざしで見ている気がする。


この提案に冬子は渋々と了承した。

「わっ、分かったよ」

すると、東雲シマは満足毛な顔をする。

「それでええ。それから、ナッちゃんとサシで話をしたい。なんでも、ハルクとやり合ったらしいやない

か? 別に2人で話すくらいええやろ?」


冬子はソファから立ち上がって、部屋から出ていこうとする。

「じゃあ、私は席を外すから……。ナツ、シマ姉さんに迷惑をかけるなよ」

ふん、偉そうに保護者ズラしやがって、イライラするぜ。


なので、俺は適当に返事をする。

「はい、はい、はーい」

「返事は一回でいいんだよ」

「はい」

「じゃあ、外で待っている」

そう言って、冬子は応接室から出て行った。しかし、俺に何の用があるのか? 少なくても、雑談ではない事は確かだろう。


冬子が部屋に出ると東雲シマが口を開く。

「まあ、ソファに座ってや。そない所に座ったら、話も出来へんやろ?」

「あっ、はい」

俺は言われた通りにソファに座った。


それから、東雲シマが煙草を吸い始めた。

「ふう、ウチの妹が迷惑をかけたのう。ほら、ハコネが切りかかった件や」

「ああ、別に無事だったんで……」

「いや、それならええんやけどな。そのお詫びとしてな、借金の件やけど、ウチの仕事を手伝ったら、チャラにしてもええで。まあ、簡単な仕事やで」


7800万ギル稼げる仕事って? 臓器売買、麻薬の密輸、人殺しなどリスクのある仕事が頭に浮かぶ。相手はヤクザなのだ。


それを察したのか、東雲シマは笑い出す。

「アハハハ、そないな怖い顔をせんでもええよ。実は冬子ちゃんを連れて、すぐに日本を出てくれへんか?」

「日本を出た後は、何をするんですか?」

「それだけや、別途に成功報酬1000万ギルを出したる。それで、タイあたりで遊んでいて欲しいんや。それで、借金がゼロなら、アンタも悪くないやろ?」

冬子と一緒にタイに行って、遊ぶだけで借金がゼロ? こんな怪しい話があるかよ。


何か裏があると思って、正直に聞いてみた。

「それで、借金ゼロでいいんですか? 冬子と海外に行くだけですよね? そちらにメリットがないと思うんですが……」


すると、東雲シマがソファに背をつけて、本当の目的を語りはじめた。

「理由は冬子ちゃんの命や。おそらく、ワン姉妹に戦いを挑んだら、殺される可能性が高い。だから、ウチは冬子ちゃんが巻き込みたくないんや。小さい頃から一緒で、本当の妹だと思っとるからな。だから、天王洲会がワン姉妹を殺るつもりや」

そう言えば、天王洲家、東雲家、赤坂組は本当の家族みたいに思っているのは聞いたな。まあ、小さい頃から一緒にいれば情も沸いてくるだろう。


俺はそれでも疑問に思った。

「だったら、自分で説得すればいいんじゃないですか? だって、実の姉のようなもんなら、冬子だって言う事を聞くでしょう? なんで、俺なんですか?」

「冬子ちゃんは、ウチは姉、ハコネは妹だと思っておる。あの冬子ちゃんが家族が危ないのに、体を張らないで安全な所で、見ているだけの性格やないやろ? 絶対に自分も、ワン姉妹を倒すのに協力したいと言ってくるで」


ふう、確かに冬子だったら、自分の家族が戦うなら、自分も戦っていうに決まっている。あの真面目な性格なら、最前線で拳銃に握りしめるタイプだ。姉替わりの東雲シマが心配するのも無理もない。


でも、俺だって説得できるとは思えない。

「あのー、俺が言っても無理な気がするんですけど?」

「いや、冬子ちゃんは友達を家に連れて来たことは1回もない。おそらく、ナッちゃんは本当の最初の友達やと思う。だから、アンタから頼めば言う事を聞くと思って、それでお願いしたんや」


冷静に考えると、ワン姉妹と戦うよりは、冬子を説得した方がリスクは少ない。俺にとっても、成功報酬の1000万ギルは美味しい。まあ、楽な方を選ぶのが俺の生き方だ。冬子を海外に連れ出して、1000万ギルを手にいれて、借金をゼロにしよう。


俺はニヤニヤした顔で、手もみをする。

「あの、冬子を説得したら、借金ゼロですよね? あと成功報酬はマジなんですか?」

「ああ、そうや。それに、海外で遊ぶ金を1000万ギルや。可愛い妹が抗争に巻き込まれなければ安い買い物や。あとな、冬子ちゃんの姉には借りがあってな、絶対に死なすわけにはいかんのや」


冬子の姉? 名前はアキだっけ? この旅の目的は冬子の姉を探すことだったな。まあ、それはどうでもいい。


とにかく、美味しい話なので受け入れる事にした。

「えへへ、分かりました。冬子を絶対に海外へ行かせます」

「おお、そうか……。頼むで、ナッちゃん」

それから、お互いの手を取り合ったのだった。

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