第30章 ナツの麻雀放浪記
俺は真一の肩を叩く。
「なあ、麻雀の店あるか? レートが青天井まである所だ。俺は麻雀強いから、それで借金をチャラにしよう」
「ナツのバカ。まだ、ギャンブルで稼ごうとしているのかよ?」
「今回は大丈夫だぜ。さあ、スマホを貸すんだ」
しかし、真一は組から預かったスマホを、ガッチリと両手で握りしめている。クソ、警戒してやがる。
くそ、また冬子を利用するしかない。
「なあ、真一聞いてくれ。勝手に金を使い込んでいるのがバレたら、お前は冬子に軽蔑されるぞ。そしたら、恋愛フラグもなくなるぞ。つまり、今回の件はなかったことにするしかないぞ。そしたら、今まで通りだぞ。答えは一つだけだろ?」
「うぅう、確かに……。それは一理ある」
「次は任せろ。麻雀歴は5年あるから、プロ並みだぜ」
これは本当である。師匠がギャンブル中毒だったので、ほとんどのギャンブルはこなせるのだ。それから、真一はしばらく黙って、スマホを渡してくれた。よし、後は稼いで稼ぎまくるぞ。そして、非合法の麻雀店に足を運んだ。
見た目は普通の麻雀店と変わらない外見だった。しかし、客層のガラは悪く、レートも青天井であった。俺はヤクザっぽい3人の男がいる席に腰を下ろした。
チンピラ風の男がニヤリと笑う。
「姉ちゃん、ここは負けたらタダじゃすまないぜ」
「ああ、分かっているよ」
俺には秘策があったのだ。その理由は積み込みだった。積み込みとは、自分が有利になるように、牌を配置する方法だ。これにより、自分に有利な牌が集まり、簡単にあがれるのだ。
ただし、これは全自動の卓では通用はしない。だけど、俺の卓は昔ながらのアナログだったので助かったのである。時には負けたフリをするが、基本は役満で勝ち上がっていった。国士無双、四暗刻、大三元などが連発した。怪しいと思われる前に、今回はさっさと儲けて逃げ勝ちだ。
俺は真一に声かける。
「どうだ、どのくらい勝っている?」
「ナツ、凄いよ……。トータル、1400万ギルも勝っているよ」
「よし、そろそろ帰るか」
先程のアトサキの借金を返しても、手元には400万が残る。引き際が大切なのだ、ギャンブラーという生き方は……。
チンピラ風の男は悔しそうに口ずさむ。
「くそ、もう金がねえわ」
他の2人も同じ理由で卓を去っていた。よし、グッドタイミングだ。俺もこの流れで帰るとするかな。俺と真一は店から出ようとした。
そこに、雀荘の黒服がきた。
「お客様、向こうで人が足りないので、もう一勝負付き合って頂けませんか?」
「いや、俺達は帰るし……」
すると、黒服が10万ギルの束を渡してきた。
「お願いしますよ。お得意様なので、サンマ(3人麻雀)で打たせるわけにもいかないのです。これは謝礼です」
おおっ、これはやるしかない。どうせ、積み込みで勝てるのだ。
俺はニッコリと返事をした。
「ふん、いいだろう。俺様が相手してやる」
しかし、隣の真一が腕を掴んできた。
「バカ、負けたらどうするんだ?」
「バーカ、10万ギルだぞ。それに、こっちが絶対に勝てるんだぞ」
「いや、でも……」
俺は真一の頬を指で突っつく。
「そんな顔するなよ。責任は全て、俺がとってやるからさ」
真一は無言でコクコクと頷いた。なんとか、納得してもらったようだ。よし、この卓でやらせれば、積み込みは出来る。
なので、俺は黒服に、この卓で麻雀をやりたいと伝えた。
「まあ、やるよ。でも、この卓でやりたい。それが条件だ」
「かしこまりました」
そう言って、黒服は丁寧に頭を下げると、すぐに別の席に声をかけにいった。
俺は卓に座って待っていた。しばらくすると、3人の若い男達がきた。一人は黒シャツを着た青年、もう一人は白髪の少年、最後が親の遺産で暮らしている無職の男だ。みんな、年齢が若いし、暗そうな奴らばかりだ。こんなオタクどもに負けてたまるかよ。よし、やってやるぜ。
俺はいつも通りに積み込みをしようとしたが、何故か失敗をした。なんだ、このクズ牌は……。まさか、コイツらがすり替えたのか?
そう思っているうちに、黒シャツの男が役満を出してきた。くそ、これはヤバいぞ……。次だ、次だ……。俺は素早く、積み込みをしようと思うのだが、自分の所にかき集めようとした牌を白髪のチビが邪魔をしてくる。
そして、俺の目にガンをつけてきた。
「そういうのは、オレには通じねぇんだ。いい加減悟れっ!」
まさか、コイツ気が付いているのか? こんなガキに、俺の積み込みがバレているのかよ。
すると、正面の無職の男が俯きながら、煙草に火を点ける。
「あンた、麻雀を語りには早すぎる」
そして、黒シャツの男もこちらを向く。
「姉ちゃんは玄人じゃねえな」
うっう、コイツラの目は只者ではない。俺のイカサマが通用しないというのを、遠回しに言っているのだ。だが、3人がグルでもない。3人は自分の麻雀をしているだけだ。なめやがって、こっちは賞金稼ぎで、修羅場を潜ってきているんだぞ。
しかし、俺は何度も負けた。後ろから見ていた真一が耳打ちしてきた。
「ナツ、ヤバいよ。もう、マイナスになっているよ」
「うるせー、分かっている」
「熱くなると負けるぞ」
「うるせー、黙れ、黙れ」
それから、この3人は役満を連発してきやがった。黒シャツが九蓮宝燈、無職が地和、白髪の少年は天和だ。どれも、一晩で出せる役ではない。簡単に言えば、一晩で交通事故を3回起こすような確率だ。リアルで見たのは初めてな気がする。
それでも、イカサマをしているようには見えなかった。かといって、この3人が組んでいるようにも見えない。まるで、この男達は麻雀漫画の主人公のような運をもっているようだった。
そして、俺は雀荘で4300万ギルの借金を背負う事になった。雀荘を出ると、真一はシクシクと泣き始めた。
俺は慰めるように、肩を優しく叩いてやった。
「ドンマイ、ドンマイ、まだ金はある。次の賭場を案内してくれ」
「おい、まだやる気か? 頭おかしいのか?」
「お前も、気が付いているはずだ。ここまできたら、もう後にひけない事を……」
アホの真一も理解したらしくて、黙って色々な賭場を案内してくれた。これが地獄の幕開けであった。
気が付くと、夜が明けていた。歌舞伎町の朝はカラスがうるさいし、ホストがゲロをまき散らしていた。
まさに地獄絵図だった。
俺と真一はコンビニ前で、地べたに座り込みながら、缶コーヒーを啜っていた。もう、人目を気にしている余裕もなかった。くそ、後どのくらい金は残っているのだろう? そうだ、午前中にパチンコで元銭を作って、夜は裏カジノで増やせばいいだけの話だ。
俺は真一を指で、チョンチョンと突っ突いた。
「おい、真一……。あと、いくら残っている?」
「終わりだ、もうないよ。組の資金の7800万ギルを全て使ったよ」
「うっ、嘘だろ? この借金どうする気なんだよ?」
真一は缶コーヒーを地面に投げつけた。
「知らねーよ。ナツが欲張るから、こうなったんだろ? 最初の花札で勝ち逃げすれば良かったんだよ。この欲張り女、死ね」
なんだ、コイツ。全てを俺のせいにしようとするのか?
俺は真一の胸倉を掴んだ。
「お前だって、冬子にカッコいい車でも、見せつけようと企んでいただろうが? あわよくば、やるつもりだっただろ? この童貞ヤロー」
「だから、ナツの小遣いだけで、やればよかったんだ。組の金に出したら、もう終わりだよ。うっうう……」
真一はそう呟くと、顔面が涙と鼻水でグチャグチャになっていく。
俺は真一の胸倉から手を放す。今は身内で揉めていてもしょうがない。このまま、家に帰ったら、真一のスマホを見られて、確実に使い込みがバレる。
そしたら、全部が俺のせいにされる可能性が高いはずだ。すると、今日中になんとかするしかない。そう、冬子に殺される前に……。




