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第28章 エンコ詰め

どうやら、金儲けが下手だったみたいだ。一応は賭場をシノギとしていたが、国営カジノに客を取られて厳しい状態だったらしい。


そこで、シマ姐さんから金を借りて、色々なシノギに手を出したみたいだ。しかし、人生の半分は刑務所で過ごしており、フロント企業の経営など素人同然であった。そして、全てが失敗に終わって、気が付くと、借金が1億を超えていたのだ。


それでも、網代組が潰れないのは子分に恵まれていたからであろう。親分思いの子分が色々なシノギをしてくれて、なんとか組の運営を保っていた。だが、子分の生活もギリギリであった。それで、子分の家族にも、良い生活を送ってもらいたく、覚醒剤のシノギに手を出してしまったらしい。


一応は組に迷惑をかけずに、黒羽の知り合いの半グレに売買をさせていたみたいだ。それで、使用責任者は免れるつもりだったみたいだ。暴力しから知らない武闘派ヤクザの悲しい言い訳であった。


網代のオジさんがボソッと呟く。

「俺は破門ですか?」

そこで、応接室に一人の人物が入ってきた。


赤坂ノブオ、私はノブオ爺ちゃんと呼んでいる。サナエちゃんの祖父であり、赤坂組の組長である赤坂ノブオである。年齢は70歳であり、白髪頭にサングラスをしている。ファッションもヤクザにしてはカジュアルで、バンドのTシャツに背広を羽織る事が多い。性格はファンキーであるが、一応は天王洲会の舎弟頭をつとめている。


舎弟頭とは弟分を束ねるトップだ。逆に子供を束ねる長男が若頭である。組の後を継ぐシステムは普通の同族会社と同じである。社長の子供である長男が後を継ぐのが一般的であり、社長の弟が継ぐパターンは少ない。社長の弟は役員や専務などが多く、ヤクザの世界もそれは一緒だ。つまり、舎弟頭とは相談役のようなものである。


ノブオ爺ちゃんに口を開く。

「お前ら、うるさすぎだっつーの。外まで声が漏れているし、仁義なき世界の時代でもねえだろうが?ちょっとは落ち着けや、会長の葬式だぞ」


欣二伯父さんは頭を下げる。

「すいません、オジキ」

すると、ノブオ爺ちゃんは煙草をくわえて、火を点けた。

「なあ、この件は俺に任せてもらえないか? 大体の事情は察しているよ」


シマ姐さんはジロリとノブオ爺ちゃんを睨みつける。

「オジキ……。まさか、網代を許すつもりでっか? そりゃね、赤坂のオジキが若い頃は、網代の兄貴を可愛がっていたみたいですけどね。今回はシャブに手を出しているんでっせ? 落とし前の一つもないってのはおかしいとちゃいますか?」

「まあ、シマがそう思うのは無理もねえよな。けどな、関東移民学生連合会の件はどうすんだ? 網代が抜けると、多分勝てないぞ。それでもいいのかよ?」

そう、天王洲会に関東移民学生連合会が宣戦布告してきているのだ。つまり、抗争ってことだ。


シマ姐さんは困惑した顔をする。

「いや、それは……。でも、そんなルールを破るような奴が若頭になって、オジキは納得出来るんでっか? そないな事を許していたら、組がバラバラになるだけでっせ。甥を可愛がるだけではなく、時には厳しい対応をするのが、舎弟頭の責任とちゃいますか?」

「まあ、お前の言う通りだな。だから、俺は次の若頭はシマがやればいい。その代わりに、網代には親子盃を破棄して、欣二の舎弟になってもらう。当然、若頭補佐の役職も解任だ」


なるほど……。網代組を抜きで、ワン・シャンリンを率いる関東移民学生連合会と戦うのは厳しいのが現実だ。だけど、破門には出来ない。しかし、シマ姐さんは納得しないだろう。だから、シマ姐さんに若頭の役職を与えて納得してもらおうという事だ。


網代のオジさんも破門よりは、舎弟という立場で組に残れるので、ありがたい話である。だけど、組の運営の発言力はほぼない状態になる。


ノブオ爺ちゃんはサングラスを外して、背広のポケットにしまった。

「欣二、お前もそれでいいだろ? というか、現実的に身内で争うことは出来ないのは分かっているだろ? 網代のシャブの件はここだけの話にしろよ」


ノブオ爺ちゃんの鋭い目つきが、欣也伯父さんを納得させた。

「オジキ、分かりましたよ」

「まあ、お前はまだ若い。なあ、組のトップは優しさや、掟だけじゃ勤まらん。臨機応変に時代に合わせていいかないとダメだ。会長はそれが出来た男だった。まあ、俺が少しずつ、アドバイスしてやるよ。一緒に天王洲会を守っていこうぜ」


そう言うと、欣二伯父さんは立ち上がって、深く頭を下げた。

「オジキ、色々とお世話になります」

「まあ、口うるさいオジキだと思ってくれ。けどよ、天王洲会のトップは欣二だ。お前が網代を殺せって命令するなら、俺は喜んで拳銃を握りしめて走るよ。それも、お前が2代目を襲名した後の話だけどな」


ノブオ爺ちゃんは長くヤクザ世界にいるので、欣二伯父さんのメンツも立てているのだろう。それと、他の人間にも親が絶対とアピールしているのだ。


それから、ノブオ爺ちゃんは次にシマ姐さんに説教をした。

「なあ、シマ……。お前は優秀だよ。そして、この組で一番稼いでいるのが東雲組だ。だけどな、それは天王洲会の看板があるからだ。その看板を守る為に、血を流してきてくれたのが、網代組や赤坂組だ、それは分かっているだろ?」

「へい」

「だが、網代がやった事は許される訳ではない。かといって、破門に出来ない。だけど、落とし前は必要だと思っている」


ノブオ爺ちゃんはスーツの懐から、短刀を取り出して、それをテーブルの上に乗せた。

「網代、悪いが指詰めてくれ。お前も破門になるよりは、組に残れた方がいいだろ? 俺は会長のカバン持ちだ。いずれは網代に舎弟頭になってもらうつもりだ。だから、今回はこの件を飲んでくれ」

ノブオ爺ちゃんと網代オジさんが目を合わせる。


すると、網代オジさんは短刀を手に取った。

「オジキ、感謝します」


それから、テーブルの上に小指を置いて、短刀を指の付け根に当てる。そして、思いっきり、右足で短刀の刃の部分を踏みつけた。すると、ポーンと小指が飛んでいった。


それを網代のオジさんは立ち上がって、拾ってハンカチに包んで、欣二伯父さんに渡した。

「わっ、若頭、これで勘弁してくださいや」

「ああ、俺も悪かった。お前がそこまで金に困っているとは思わなかった。俺の管理責任もあるだろう」

「いえ、これからもよろしくお願いします」


網代のオジさんの小指からは血がドバドバと出ているが、それを気にしない様子だ。やっぱり、武闘派の組長だけだって、我慢強い男なのだろう。本当は死ぬほど痛いはずだ。それでも、動揺しないように見せつけるのがヤクザのプライドなのだ。


それから、シマ姐さんが口を開く。

「とりあえず、網代の兄貴を病院に連れてった方がええでしょう。ねえ、網代の兄貴……。いや、これからはオジキでしたね。ホンマにすいませんなあ、ウチは頭が悪いもんで……」


これは、嫌味で言っているのだ。なので、その言葉に網代のオジさんは鬼のような形相をする。これからのヤクザ人生を、シマ姐さんの風下で生きないといけないからだ。もう、二度と天王洲会のトップになれる可能性はゼロなのだから。


だけど、これがヤクザの世界なのだ。元々、網代のオジさんとシマ姐さんの仲は悪い。けれど、今回の1件でそれが、また一層と悪くなってしまった。そして、この件が天王洲会の分裂のきっかけとなるのであった。

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