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第27章 裏切り者

それから、爺ちゃんの葬式が行われた。


大勢の人数が集まり、その数は1000人を超えていたのだ。本家には幹部が集まっており、20畳以上ある部屋に集まっていた。そして、高級寿司や酒に幹部たちは手を伸ばしていた。


ここに集まっている幹部は直系の連中である。若頭の欣二伯父さんは上座に座り、左右には若頭補佐のシマ姉さん、網代オジさんもいた。経済ヤクザの東雲組、武闘派の網代組は歌舞伎町でも有名な存在であった。


そして、他にも赤坂組のサナエちゃん、黒羽組の黒羽などがいた。この黒羽という男は評判があまりよくない。シルバーアクセサリーをジャラジャラして、なんか嫌悪感があるのだ。それに女関係のトラブルが多いみたいだ。


私はサナエちゃんの横に座っていた。

「ねえ、サナエちゃん。私が幹部会にいるのって、場違いでおかしくない?」

珍しく、喪服姿のサナエちゃんが答える。

「シマお嬢様が参加するように言っておりましたよ。何か話でもあるんではないですか?」

話? なんのことだろう。


すると、シマ姐さんがこちらに近づいてくる。そして、私の肩を叩いた。

「冬子ちゃん、ちょっと来てな」


私は席を立って、事務所の応接室に行った。事務所の応接室は広く、木製テーブルに革張りソファというよくある部屋だ。


私はシマ姐さんとソファに腰を下ろした。

「ここで、何の話をするの?」

「冬子ちゃんも、この家の子やから、聞く必要があると思ったんや」

「それで、その話って?」

「ああ、裏切り者の話や」

裏切り者? 誰かが天王洲会を裏切ろうとしているのか? そんな事は信じたくなかった。


しばらくすると、欣二伯父さん、網代のオジさんが部屋に入ってきた。網代のオジさんは小さい頃には可愛がってもらった記憶がある。見た目は怖いのだが、気は優しい力持ちって感じだ。


網代のオジさんと目が合うと、向こうは笑顔を向けてきた。

「冬子ちゃん、大人になったな。すぐに帰ってきて、お爺ちゃんが死んで、辛いと思うけど、なんかあったら頼ってくれよ」


私はソファから立ち上がり、頭を下げた。

「小さい頃は色々と面倒を見てくれて感謝しています。爺ちゃんも網代のオジさんに葬式を出てもらって喜んでいますよ」


すると、網代のオジさんの隻眼に涙が浮かんだ。

「会長の孫にそう言われると、嬉しいぜ……。俺も天王洲会の為に全力を尽くすよ」

昭和のヤクザで不器用な感じが出ているが、爺ちゃんの事を慕っていたことは知っているのだ。だから、本当に天王洲会の為に何かしたいのだろう。欣也伯父さんも喜んでくれているみたいだ。


しかし、シマ姉さんが大声をあげて、その雰囲気をぶち壊した。

「何ぬかしてんのじゃ、このボケナス。おお、オドレみたいなチンカスに出来る事なんかないわ、コラっ? 冬子ちゃんに気安く声かけんな、ボケ」


その言葉に網代のオジさんも顔が強張る。

「おい、東雲……。それは俺に言ってるんのか? 誰がチンカスなんだ?」

「網代、オドレ以外にチンカスがおるんか? このドチンピラがぁ」

「おい、俺はこの世界に入って、30年だぞ。お前にとっては兄貴分だろうが? あんまり、適当な事言っていると、ぶちのめすぞ」

「おおっ、やってみいや」

2人の間に緊迫した空気が流れる。


すぐに欣二伯父さんが止めに入る。

「シマ、落ち着けよ。お前らしくもない。網代はこの世界の大先輩だぞ、役職が同じ若頭補佐だからって、互角じゃない事くらい分かるだろう?」

「そんなん、分かってますわ」


網代オジさんはシマ姉さんを睨みつけた。

「分かってないだろう、この若造がよ」

そう言って、今にも襲い掛かりそうな雰囲気だ。


欣也伯父さんが網代オジさんの肩を叩く。

「まあ、まあ、網代もソファに座れよ。何があったか知らねえけど、落ち着いて話そうや」

「若頭がそう言うなら……」

こうして、全員がソファに座った状態になった。


まず、網代オジさんがシマ姉さんを指さす。

「俺はなあ、確かにテメーのオヤジには世話になったよ。けどな、子供のテメーまでに、舐めた口を聞かれるほど我慢強くねえぞ、クソガキ」

「ふっ、そのクソガキから金を借りているのは誰や? オドレがシノギやりたいから、金を貸してやったんやろうが? しかも、まだ返済してないやろ?」

「そっ、それはそうだけど……。けどな、俺はテメーが生まれる前から、拳銃を握りしめて、組の為に刑務所とか入っていたんだぞ。その功労者に向かって、その口にきき方はねえだろ?」


そこで、欣二伯父さんがテーブルをバンバンと数回叩く。

「おめーら、いい加減しておけよ。今日はオヤジの葬式だぞ。けどな、あきらかにシマが悪いぞ。どんな理由があれ、兄貴分にそんな口を叩くのは許されない事だ。コイツは天王洲会の2代目の若頭になる男だぞ」


その言葉に網代のオジさんは感激しているようであった。

「若頭、俺の為に……」

「ああ、組の舵を仕切れるのは網代ケンという男しかいねえよ。先代の時から、組に尽くしてくれたのは知っているからな。死んだオヤジもそう言っていたぞ」


網代オジさんは武闘派の組長で、あらゆる抗争で先陣を切ってきたのである。だから、今の天王洲会があるのも網代組の功績が高いのは事実である。だけど、合理的な思考のシマ姉さんが、こんな喧嘩を売るのは理由があるはずだ。


欣二伯父さんはシマ姐さんの方をジッと見る。

「さあ、シマ早く頭を下げろ。網代に詫びを入れるんだ」

しかし、シマ姐さんはゲラゲラと笑い始める。


そして、封筒をテーブルの上に置いた。

「若頭、こないな事を許してええんですか?」

「なんだ、こりゃ?」

欣二伯父さんは封筒の中身を取り出すと、数枚の写真と便箋で出てきた。


私は横から、その内容を覗く。写真の1枚目は網代のオジさんと黒羽が映っていた。何枚か捲ると、倉庫内で覚醒剤と一緒に映っている写真が見えた。他にも覚醒剤の売買の証拠が出てくる。


まさか、天王洲会でクスリの売買をしているとは、思いもよらないだろう。天王洲会ではクスリの売買は破門処分となるのだ。まあ、どこの組も手を出さないのがルールだ。


シマ姐さんはニヤリとした表情でこちらを見る。

「若頭、網代はこういう男でっせ。騙されたらあきまへん。数年前から、覚醒剤の売買に手を染めてはる。若頭としては、どうお考えで?」


欣二伯父さんは写真を網代のオジさんに渡した。

「網代……。これは、本当にお前なのか?」

すぐに、網代は頭を下げてきた。

「若頭、すんません……。事実です」


すると、勝ち誇ったように、シマ姐さんが啖呵を切った。

「何がすいませんじゃ、コラっ。おおっ、オドレはこないなシノギをして、次の若頭を狙っていたちゅうんかい? 天王洲の若頭がシャブを扱っている事を警察が知ったらどうすんじゃ? これまでのように歌舞伎町でシノギなんか出来へんぞ」

責められ続けられる網代のオジさんは俯いている状態だ。


しかし、シマ姐さんは恫喝を止めない。

「このボケっ、ダンマリかい? 若頭、破門じゃ甘いでっせ。コイツは絶縁処分にしましょ」


破門には2種類あって、赤字破門と黒字破門の2つがある。黒字破門の方が軽く、謹慎処分と同じように、数年で組に戻れることがある。黒字破門より重い処分が赤字破門。更に重い処分が絶縁である。


絶縁は網代組を解散しろと言っているようなものだ。しかし、今の状態で網代組がバラバラになると、関東移民学生連合会を率いるワン・シャンリンと抗争が厳しくなるのは間違いない。でも、クスリのシノギも見過ごすことも出来ない。


網代のオジさんは序列から行っても、次の若頭になる人材だ。その人物が組の規律を破っていたら、天王洲会はバラバラになってしまう。だから、シマ姐さんの言っている事は正しいと思う。


そこに、欣二伯父さんが入ってくる。

「シマ、ちょっと黙れ」

「いや、若頭……。こんな掟破りを……」


シマ姐さんの言葉は、欣二伯父さんの怒声でかき消された。

「黙れって、言ってんだろうがぁー」

そう叫んで、テーブルを蹴り飛ばした。すると、応接室がシーンとした空気になった。


欣二伯父さんは静かに口を開いた。

「網代、なんでこんな事をした? 昔のお前なら、こんなシノギに手を出さなかっただろ? なんか理由があるはずだろ? それを話してくれ」

すると、網代のオジさんは渋々と理由を語り始めた。

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