第26章 冬子の中学時代
それから、3年後。私は13歳になっていた。女子中学生になり、セーラー服を着て、不良達のボス的な存在になっていた。
戦後の学校は荒れており、親が戦死した子や、家がなくなった子などが、不安によるストレスから、授業中に暴れていた。それを止めていたら、寂しがり屋の連中が慕ってきて、放課後に集まるようになった。
そして、いつのまにか、私が不良少女たちを仕切るようになった。私の見た目は真面目そうなので、裏番って呼ばれていた。学校の先生には、授業の妨害がなくなったので、私に感謝をしていた。まあ、そんな日々を過ごしていたのだ。
私は放課後になると、数十人の仲間と歌舞伎町を闊歩する。戦後から5年の歳月が流れ、歌舞伎町は荒れており、スラム街的な雰囲気が残っている場所も多かった。
私の目の前には、別の女子中学生の不良グループが歩いてきた。全員がブレザー姿でギャル系だ。先頭にいるのは、歌舞伎第2中学校のハクアである。ブラジルとのハーフ少女であり、体格もかなりよく、柔道経験の不良だ。しかも、3年生である。お互いのグループは途中で足を止める。
そして、ハクアが前に出てきたのである。
「よお、天王洲。こないだは、後輩が世話になったな。今日は落とし前にきたぜ」
先週、私の学校の奴から、ハクアの後輩がカツアゲをしたのだ。その金を取り返すために、私がハクアの後輩をボコボコにしたのだ。つまり、お礼参りをしにきたといいたいのだ。
私は溜息をついた。。
「やれやれ、お前の後輩がカツアゲしたのが原因だろ? こっちに落ち度はないよ。ちゃんと、後輩のしつけをしておけよ」
「うるせー、そんなの関係あるかよ。お前が歌舞伎町で、一番強いって噂が広まってさ、それが気に入らないんだよ。1年坊のくせに」
「ふっ、腕力だったら、ハクアが一番だろ? お前の勝ちでいいよ。私達はこれから、ボーリングに行くから邪魔すんなよ」
すると、ハクアはニヤリと歯を見せてきた。
「じゃあ、ここで汗をかいていけよ」
そう言って、私に襲い掛かってきた。
はあー、面倒くさい女だなあ。私はハクアの両手を素早くかわす。サナエちゃんと修行をしているので、スピードが止まって見えるようだ。
私はボクシングポーズをとって、華麗なステップで素早く、ハクアの攻撃をかわしていく。しかし、路上での柔道は最強といわれている。掴まれたら、私の腕力ではどうにもならない。だが、スピードでは負ける気がしない。
すると、私の仲間は野次馬気分で応援をする。
「やっちまえー、冬子」
「ハハハ、冬子に敵うわけがないよ」
まったく、いつも私が戦うハメになるんだよな。とりあえず、ハクアのスタミナを減らす為に、攻撃をかわし続けた。
しばらくして、ハクアが肩で息をする。
「ハアハア、くそ……」
「もういいだろ? 早く帰れよ。今なら、無傷で返してやるよ」
「うるせー。冬子殺す」
そう叫んで、タックルしてきたので、後ろにステップして避けた。
ハクアは弱くないが、柔道スタイルにこだわりすぎだ。ストリートファイトはなんでもありなのだ。私はスキだらけの、ハクアの腹にパンチを打ち込んでやった。
ハクアの身体が一瞬浮いた。
「ぐごっ……」
そう言って、ハクアは道に倒れこんだ。
ハクアの子分はザワザワと騒ぎ出す。
「ハクアさんが一発で?」
「コイツ、本当に中1かよ?」
私はハクアの子分に命令した。
「5分後には動けるから、ちゃんと連れて帰れよ。それとも、私と喧嘩したいか?」
ハクアの子分はブルブルとクビを振った。まったく、無駄な時間を過ごした。
それから、私は仲間とカラオケに行った。各自が席に座って、ガヤガヤとトークをしていた。
「ハクアも、もう終わりだな。これからは冬子の時代だな」
「歌舞伎町で、冬子に喧嘩売ってくる奴は、もういないしょ」
「やっぱり、冬子は強いわ。周りに舐められなくていいわ」
それから、茶髪の少女がニヤリと笑った。
「まあ、家も本職だし、怖いモノなしだよ」
すると、その隣の子が肩を叩く。
「バカ、冬子がいるだろ」
茶髪の女の子は口を滑らせてしまったような顔になった。
そして、媚びるような目で謝ってきた。
「悪い、冬子。言い過ぎた」
ヤクザの子供に接するタイプは2種類だ。1つ目は親がまともなら、あの子と遊ぶなと言うはずだ。2つ目はそのヤクザの力を利用するものだ。
だから、私に本当の友達はいないのだ。都合の良いときに、喧嘩に利用されて、親の権力を勝手に使われたりするのだ。だが、私は別に気にもしなかった。
だから、私は笑顔を見せた。
「ああ、全然気にしてないよ」
「そっ、そうか……。サンキュー」
その時にスマホに着信があったのだ。相手は実の姉である天王洲アキである。私はメッセージを確認した。どうやら、真一が夕食を作ったので帰れということだった。
私は立ち上がって、みんなに声をかけた。
「悪い、今日は帰るわ。ウチは家族全員で夕食を食べる決まりなんだ。私にかまわずに、カラオケ楽しんでよ」
すると、みんなが不満の声をあげ始めた。
「冬子帰るなら、お開きにしない?」
「だよね、つまんないし」
「じゃあ、時間になったら解散だな」
この連中が悪い奴ではないのだが、私を宗教の教祖のように崇めているのだ。そういう所は自分の意思がなくて苦手だ。私がいなくても、みんなで仲良くすればいいのに。まあ、それはそうと、私は自宅へ向かったのだった。
私の実家は新宿の一等地にある。老舗旅館のような造りであり、中には大きな池もあるのだ。池には橋もあり、竹筒に水を流して、音を奏でる猪おどしもある。更には石造美術品の燈籠もある。ちょっとした日本庭園のように見える。
私は若い衆に迎えられて、食事をとる居間に移動した。20畳はある広く大きな和室には、長い机に座布団が用意されている。上座から、爺ちゃん、父さん、欣二伯父さん、アキ姉さん、シマ姐さん、ハコネ、サナエちゃんがいた。
料理の担当は弟である真一が全てを賄っている。真一は料理が得意であり、将来は料理人になると思われる。喧嘩も弱くて、ヤクザには向かない男なのだ。それでも、たまに喧嘩して泣かされてくる。弱ければ、喧嘩しなければいいのに……。
真一が部屋に入ってきて口を開く。
「冬子、遅いぞ」
「バカ、冬子姉さんだろ? 私の方が1個上だし」
「いや、大して変わんないし」
「いや、変わる」
そこに、父さんが入ってきた。
「いいから、早く座って食事にするぞ」
天王洲旭という、細身の男性が私の父である。東雲姉妹の父親は戦後に死んでおり、東雲姉妹の父親代わりでもあった。だから、私達は姉妹のような絆で結ばれていた。その後に真一が家族になった。
父さんは東雲姉妹や真一を本当の子のように扱った。しかし、天王洲旭はこの2年後に死ぬことになる。そして、私は仇であるワン姉妹を探す旅に出る事になる。
実の姉であるアキ姉さんも会話に入ってくる。
「冬子ちゃん、ちゃんと学校行っているの?」
「うん、大丈夫」
アキ姉さんは、この時は24歳で貿易関係の仕事についていた。私とは違って、おっとりとした女性である。この2年後に海外出張から行方不明になる。このアキ姉さんを探すのが、もう一つの旅の理由である。もしかしたら、家業のせいで誘拐されたかもしれないのだ。しかし、本当の理由は分かっていない。
シマ姐さんがケラケラと笑い出す。
「今日はウチの父ちゃんの5周忌やね。天王洲会も東雲会も大きくなったのは、みんな会長のおかげや。ウチの父ちゃんも草場の陰で喜んでおるやろ」
ハコネもニコニコする。
「姉ちゃんの言う通りやね。あっ、この鮭うまそうやな。お父ちゃんが好きやったからな」
そこで、爺ちゃんがシマ姐さんに横に行って、日本酒を盃に注ぐ。
「父ちゃんの件は悪かったな」
すると、シマ姐さんは正座をして盃を出す。
「こりゃ、会長からすいません」
「これらも、色々と頼むぞ、シマは天王洲会の金庫番になる女だからな」
「へい、分かっています。父ちゃんのシノギを大きくします」
「そう言ってくれると、助かるよ」
東雲姉妹の父親は初代東雲組の組長であったが、どうやら死んだらしい。私は8歳くらいなので、詳しい事はよく知らない。
ハコネは真一に肩をポンポン叩く。
「真一、今日のデザート何?」
「ああ、プリンだよ」
「わーい」
ハコネと真一は同世代で仲がいいのだ。
ハコネは剣道や剣術、真一は料理に夢中な小学生だ。私はカワイイ妹と弟だと思っていたが、2人は私に恋愛感情を持っていたみたいだ。この時にそれを気が付いてやれば、未来を変えられたと思う。しかし、人生は起きた後に後悔するものだ。
サナエちゃんも、この頃は24歳くらいであり、私とハコネに厳しい修行をしてもらっていた。その回もあって、射撃、車の運転、ボクシングはかなり上達した。
まあ、サナエちゃんは軍隊経験があり、海外でも傭兵経験もあったので強かった。赤坂組の人間は海外で傭兵の研修を受けるのが掟だった。だから、人殺しについては、どの組の人間も頭があがらなかった。
まあ、そんな日々を過ごしていたのだ。私は家族に囲まれて、幸せのピークがこの時だったと思う。
この2年後に、私は海外に飛び出す直前に、シマ姐さんに賞金稼ぎの資格を貰った。日本政府のコネがあり、簡単に取れたのであった。これがあれば、悪人は合法的に殺す事が出来るのだ。
こうして、ワン・シャンリンとアキ姉さんを探す旅が始まった。そして、更に3年後にナツと出会うのであった。




