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第24章 東雲ハコネの過去

私は病院にいた。なぜなら、爺ちゃんの容態が悪化したからだ。そして、もう助からない事が分かっていた。手術をするわけでもなく、家族が病室に呼ばれたからだ。


病院のベッドでは呼吸器をつけた爺ちゃんが静かに呼吸をしている。私は小さい頃の思い出が蘇ってきた。もう、10年前のことだ。


私は8歳であった。ヤクザの家に生まれたからには、世間からの冷たい目は凄かった。

「あそこの家の子とは遊んじゃいけない」

これが、一番言われた言葉だ。


小さい頃は分からなかったが、子供を心配する親なら当然のことだと思う。悪影響を受けるし、トラブルに巻き込まれる確率も大きくなるからだ。


だけど、持ち前の明るさでイジメられる事はなかった。まあ、スポーツも勉強もトップクラスだったし、周りには優しい大人がいてくれたからだ。爺ちゃん、お父さんがいた。そして、今は行方不明のアキ姉さんもいた。


また、姉妹同然に育った、サナエちゃん、シマ姐さん、ハコネがいたので救われた。特に爺ちゃんには可愛がってもらっていた。だから、ヤクザに対してのイメージはそこまで悪く感じなかった。


しかし、ハコネは学校ではイジメにあっていた。学校近くの川がある橋の下で、よくイジメられたのを覚えている。


ランドセルを背負った数人の小学生がハコネを囲んでいた。

「東雲、お前の家ってヤクザなんだってな? もう、学校来るなよ」

「こわーい、抗争に巻き込まれたくないし」

「ウチの親も東雲には近寄るなってさ」

その言葉にハコネは半泣きをしていた。


私はその集団に目がけて走っていく。

「お前ら、何やってんだぁー」


その大声に、いじめっ子集団は慌てながら逃げていく。

「やべ、3年の天王洲だ」

「あいつ、ボクシングとかやっているぞ」

「撤収、撤収ぅー」


そして、橋の下にはハコネが震えながら泣いていた。

「ぐす、ぐす……」

「ハコネ、大丈夫か?」

「なんで、なんでウチがこんな目にあうんや?」


よく見ると、ハコネは泥だらけで、ランドセルから放り出された中身は、地面に散らばっていた。教科書、筆記用具、リコーダーなどである。それらも泥だらけになっていた。


ハコネは私の胸倉をつかんできた。

「お父ちゃんがヤクザやから? 東雲組の組長やから?」

「ハコネ、私があいつらにやり返してやろうか?」

「そしたら、またウチが倍返しされるだけや、うっうう……」


ハコネが身長も低く、甘えん坊でカワイイ顔をしているので、イジメやすいのだろう。それに腕力も弱いのも原因の一つだ。


そこに、サナエちゃんが来たのである。

「ハコネお嬢様、大丈夫ですか?」

若き日のスーツ姿のサナエちゃんは、天王洲姉妹と東雲姉妹のお姉さん的な存在であった。


ハコネはサナエちゃんを見ると、慌てた表情をみせた。

「サナエちゃん、シマ姉ちゃんには言わんといてな。ウチはイジメられていることや。だって、カッコ悪いやん。ウチにだって、プライドがあるんや」


サナエちゃんは私の目を見て頷く。

「ハコネお嬢様、誰にも言いません。冬子お嬢様も、誰にも言ってはいけませんよ」


私もコクコクを頷いた。すると、ハコネが抱きついてきた。

「冬子ちゃん、ウチも強くなりたい。いつまでも、冬子ちゃんに守られたくない。自分の身は自分で守りたい」


私はボクシングや護身術はサナエちゃんから習っていた。10歳になったら、拳銃の使い方も学ぶつもりだ。日本全体が戦争になりそうで、人々がピリピリしているのだ。そう、自分の身は自分で守るしかない時代だったのだ。


私はハコネがシクシクを泣き始めたので、頭を優しく撫でてやった。ヤクザの子供はイジメられるのが当たり前だ。だって、人の不幸で飯を食べているのだから……。


けど、直接ヤクザにやり返せる人間はおらず、そのヤクザの子供に当たる大人は多いのだ。だけど、それは仕方のないことだ。弱い者には強く、強い者には弱くが、この世の摂理なのだから……。


ハコネは震える声を出す。

「冬子ちゃん、ウチはいつか冬子ちゃんを超えるで」

そのハコネの目には闘争心が見えたのであった。


そして、サナエちゃんの弟子になり、剣道、抜刀、居合などを極めた。ハコネは天才的な反射神経や動体視力もあり、その実力をメキメキとあらわしてきた。


そしてまもなく、日本は第三次世界大戦へと巻き込まれていく。

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