第20章 サナエちゃんの仲裁
その時、聞きなれた声が聞こえてきた。
「ナツぅー」
それは冬子であり、こちらに走りながら向かってくる。おお、援軍に来たのか? さすが相棒だぜ。しかし、俺の前に着くと、いきなりビンタをしてきた。
しかも、往復ビンタだ。バシバシ……。
「うぅう、冬子ちゃん、痛いって……」
「このバカ、何をしてんだよ。この人が誰だか分かっているかよ?」
すぐ近くには真一とサナエちゃんもいた。おそらく、真一が冬子とサナエちゃんを呼びに行ったのだ。
真一は青ざめた顔で喋る。
「ナツが勝手に暴れたからさ、サナエちゃんに止めてもらおうと思ってさ。それで、2人を呼んだんだ。ナツは無鉄砲すぎるよ」
冬子と真一がこちらに詰め寄ってきた。どうやら、怒っているみたいだ。
それから、サナエちゃんがハルクの目の前まで歩く。
「加古川様、お久しぶりです。網代の親分にはいつもお世話になっております」
「これは、赤坂の若頭。こちらこそ、ウチのオヤジが世話になっております」
「どうやら、双方に誤解があるみたいで、私がこの場を仕切ってもよろしいでしょうか? 赤坂組の看板をかけて、そちらにも恥はかかせませんよ。今はワン姉妹の件で、身内に遺恨を残したくないのです」
そう言うと、サナエちゃんが事の経緯を整理し始めたのだ。
最初にあきらかに未成年の俺をスカウトした黒羽組が悪い。そこに仲裁に来たハルクが騒ぎを大きくした。まあ、暴れた俺も悪いけどな。
そして、サナエちゃんが口を開く。
「加古川様、理由がどうあれ、このナツ様は客人でございます。しかも、本家の会長の孫娘である冬子お嬢様のです。しかし、ナツ様もそちらを手を出してしまった。なので、喧嘩両成敗で不問にしませんか? お互いに恨みっこなしってやつです」
「ワシはそれでもええですよ。せやけど、町の修理費はどうするつもりでっか?」
「それは全部、本家で金を出します。もちろん、通行人の治療費も払います。しかし、網代組のけが人の治療費は、落ち度がある黒羽組から頂いてください。元々の原因はそこですからね」
どうやら、喧嘩両成敗で終わりそうだ。
俺が本家の客人と分かると、ハルクが頭を下げて来た。
「ナツ、ワシらが悪かったで。すまなかった」
それから、サナエちゃんの方を見る。
「赤坂の、小指詰めた方がええか? 一応は本家の客人を殴ってしまったわけやし。そっちも面子があるやろ?」
「お気になさらずに……。小指は結構です」
「まあ、ワシは網代組に迷惑かけなければそれでええ」
「それは大丈夫です。この赤坂サナエが責任をとります」
ハルクとサナエちゃんはお互いの目を見た。多分、双方が納得したのだろう。それにしても、この2人って、どっちが強いんだろ?
ハルクは黒パーカーの子分達に声をかける。
「お前ら、引き上げや。いつまで、座っとんねん? それとな、治療費は黒羽組に請求しておけ」
「へい」
黒パーカーの子分達はヨロヨロと立ち上があがり、ハルクと共に立ち去っていった。
冬子がゲンコツをしてきた。
「あいたー」
「あいたー、じゃないよ。まったく、私達が来なかったら、ナツは殺されていたかもしれないよ」
「ふん、これから勝つ予定だったんだよ、こっから、どばっ―、てりゃー、ばたん。ハルクがシクシクと泣きをいれた。俺の勝ちって具合にな」
そこに真一が入ってくる。
「お前さ、本当に賞金稼ぎなんだな。あのハルクさんと喧嘩する奴なんか、この街にはいないよ。俺なんか足が震えて、何もできなかったよ」
「まあ、でも助けを呼びにいってくれて、サンキューな。結構、いい奴じゃん」
「別に」
真一は恥ずかしがっているようだった。
そして、サナエちゃんが俺に近づいてきた。
「ナツ様、今の天王洲会はピリピリしております。会長の具合も良くなく、外国のテロリストとも揉めております。目立つ行動は自重して頂くようにお願いします。天王洲会同士の亀裂をさけたいのです」
その目は柔らかな口調とは違い、結構怒っているのが分かる。
俺は素直に謝る事にした。
「ふう、分かった。俺も悪かったよ」
「ご理解いただき、感謝申し上げます」
サナエちゃんも頭を下げて、俺の頭をナデナデした。くそ、子供扱いだな。
でも、この後に賭場には遊びに行くけどな。とりあえず、シャワーは浴びていくとするかな。それにしても、日本は小さい島国だと思ったが、冬子レベルのやつがゴロゴロいるな。
これは、ちょっと気合入れないと、すぐに死んじまいそうだわ。まあ、スリルがあって楽しい街だな。歌舞伎町ってやつは……。
その頃、ハルク達は事務所に帰る途中であった。
黒パーカーの子分達が声をかける。
「さすが、兄貴でしたね。あの赤毛を一発で吹っ飛ばすなんて、さすがですよ」
「ああ、ハルクの兄貴なら楽勝だろ。ねえ、兄貴?」
子分達の問いかけに、ハルクは口をモゴモゴと動かしていた。それから、地面に血の塊をペッと吐いた。
子分の一人がそれを見る。
「こっ、これって……。奥歯じゃないですか」
ハルクがニヤリと笑う。
「あの赤毛、やりおるわい」
「ハルクの兄貴の奥歯を……。歯の中で、一番折れづらいはずなのに……」
「何者なんですか? あの赤毛は?」
ハルクは頬を触りながら、口を開く。
「ワシにも分からへん、本家のお嬢の友達らしい」
「となると、賞金稼ぎの?」
「おそらく、そうやろうな。堅気の目をしとらん」
黒パーカーの一人が唾をゴクリと飲む。
「あの女、兄貴より強いって事はないですよね?」
「ふっ、分からへんなぁ。でも、次に戦ったら、どっちかが死ぬと思うで、ガハハハハ」
黒パーカーの子分達は驚きを隠せなかった。ほとんど、笑う事もない加古川ハルクが笑っているのを見て、不気味さと恐怖の同時に味わった。
そんな事も知らずに、ハルクは自分の事務所に向かって歩き出す。そして、小声でつぶやく。
「ナツか、覚えておくで」




