第19章 ナツ VS 加古川ハルク
俺は慰謝料の10万ギルを受け取らない。
「足りねえ、慰謝料をもっとよこせよ。誠意を見せろや」
「ほな、これでどうや、全部で50万ギルはあると思うで……」
ハルクはそう言って、財布ごと渡そうとしてきた。
だが、断った。
「足りねえ」
ほら、怒ってみろよ? このバケモノ男め。俺を敵だと認識してみろよ。
しかし、ハルクはため息をつく。
「お嬢ちゃん、ええ加減にしてや。ほんなら、いくらならええんや?」
「ふっ、1億ギルってところかな? これでも、半額サービスだよ」
かなりの無茶ぶりであり、ヤクザの因縁の付け方より酷いぜ。
すると、黒パーカーが怒りを露わにしてきた。
「テメー、ハルクの兄貴が優しくしていりゃ、調子乗りやがって」
そして、俺に向かって右パンチを振り下ろしてきた。俺はなんなく避けて、軽く右ハイキックを放つが、敵も左手首でガードをする。
このバケモノ男の部下だけあって、かなり根性があるのは間違いない。だが、ダメージがあったのか、顔が少しだけ苦痛に歪む。そりゃ、鉄板入りのブーツで蹴られたら、まあ痛いわな。
そして、左手首を右手で掴み、動きが鈍くなる。しかし、黒パーカーは歯を食いしばって、右ストレートを打ってきた。俺は右足の底でそれを受け止めた。
黒パーカーが悲鳴をあげる。
「あがっ、拳がぁああー」
男は両手が下がり、ノーガードになったので、俺は後ろ回し蹴りを顎にぶち込んだ。すると、男はゴロゴロと転がりながら、野次馬の方へ突っ込んでいく。
数人の野次馬が尻餅をつく。
「いってて……」
「もう、なんなの。あっ、ヒール折れているし」
「痛い、痛い……」
まったく、スマホでマスゴミごっこしているから、そういう目に合うんだぜ。
さてと、ハルクがどう動くのかな? カワイイ子分の仇でもとるのかな? それとも、まだ我慢するのかな?
俺は奴の目を見ると、意外にも怒りの目に変貌をしていた。なんだ、子分が2人倒されたのでキレたのか? しかし、理由は別にあったようだ。
ハルクは口を静かに開く。
「お嬢ちゃん、ワシらは天王洲会や。この街の堅気を怪我させることは許されへん。ワシと喧嘩するか? 金を持って消えてくれへんか? どっちか選べや」
「なら、お前をぶっ飛ばして、50万ギルも貰うぜ」
「ほんなら、しばらくは病院のベッドやで」
「上等だよ。バケモノ男、来い」
こうして、俺とハルクの戦いが始まった。先程と違って、野次馬はハルクの恐ろしさを知っているのか、近くの建物に逃げ込んでいった。おいおい、コイツは怪獣映画のゴジラかよ。俺とハルクの周りには誰もいなくなった。
しかし、見上げるとデカい。今までの人生で出会った人間の中で一番デカい。上にもデカいし、横にもデカいバケモノだ。腕なんか、冬子のウエストくらいありそうだ。ハイキックしても、顔面に届かないな……。
俺がそんな事を考えていると、ハルクが挑発してきた。
「お嬢ちゃん、ビビッとるんか?」
「お嬢ちゃんじゃねえ、ナツって名前だ。ガキ扱いするな」
「そりゃ、すまんかったのう、ナツ。とりあえず、こっちから行かせてもらうで」
ハルクが襲い掛かってきた。まるで、トラックが突っ込んでくる威圧感がある。俺はハルクの右パンチを素早くよける。まあまあ、速いが目で追えるぜ。
しかし、風圧が凄いのが分かり、一発でも喰らったら死にそうだ。俺はブーツの威力を最大限にした。そして、右ハイキックをハルクにぶち込んだ。ハルクは左脇をしめて、左手首で右ハイキックを受け止めた。
俺が攻撃したはずなのに、まるで冷蔵庫を蹴ったような感触だった。右足の付け根がジーンとしびれる。なんだ、コイツはコンクリ―トかよ? ハルクの顔を見るが、ダメージはなさそうだ。ハハハ、ダメージゼロっすか……。笑えねえ。
そして、ハルクのパンチのラッシュが始まった。俺は足のステップで、なんとか避けているが、風圧が凄くて、バランスを崩しそうだ。なので、何度かバク転をして、パンチの射程距離が逃れた。
俺はハルクを誉めてやった。
「ふぅー。お前、相当強いだろ?」
「ナツ、お前もや。これはウチの若い衆じゃ、絶対に勝てへんわ」
野次馬は建物から、スマホで撮影をしていた。
「やばい、やばい、ハルクと互角に戦っているぞ。何者だよwww」
「あの姉ちゃん、すげーわ」
「これって、ネットにあげたら、再生数凄いだろ?」
まったく、どいつもこいつも勝手なことを言いやがってよ。早く帰れよ、また怪我しても知らねえぞ。それはともかく、今度はこっちから、ケリのラッシュをお見舞いしてやるぜ。
俺はブーツの赤ボタンを押すと、小さいローラースケートのタイヤが無数に出る。もう一つの青ボタンを押すと、エンジン音がかかる。これで、機動力はこちらが上だぜ。俺はスケート選手のように、ハルクの周りをクルクルと走る。
これで、奴の視覚がない場所から、攻撃をするだけだ。俺はスキを見て、背中からドロップキックを入れてやった。
「おらっー」
すると、少しは前のめりになるが、すぐに体勢を立て直してきた。嘘みたいに、全然効いてないみたいだな。俺はハルクの真正面にまわり、ローキック、ハイキックと連続で食らわしたが、全然ダメだった。ダメージゼロって感じだ。
なんか、サンドバッグを蹴っている感覚になってきた。やばい、コイツ強すぎだろ。だけどよ、指までは鍛えられないはずだ。
ハルクは右腕を大きく後ろに振り上げた。
「そろそろ、遊びは終わりや、ナツ」
そう言って、右腕をこちらへ振り下ろしてきた。待っていたぜ、このチャンスをよ。
俺は右後ろ回し蹴りをして、ブーツの底で、ハルクの拳を粉砕してやろうと思っていた。そして、狙い通りにハルクの右拳と、俺の右足の蹴りがぶつかりあう。歌舞伎町にズゴンという衝撃音が響いた。
そして、俺もハルクも微動しなかった。なぜなら、ハルクの右拳と俺のブーツの底が、腕相撲のように力比べをしているからだ。くそ、こっちはブーツの威力は最大だぞ。こいつ、素手なのにパワーがおかしい。
一方の野次馬は喜んでいる。
「おっー、おっー。あの姉ちゃん、ハルクのパンチを止めたぞ」
「やばい、やばい。バケモノ同士だ」
「もしかしてさ、歌舞伎町最強伝説が終わるんじゃね?」
そうだよ、俺が新しい伝説にしてやるぜ。このハルクを倒してやる。
俺は地面ついた左足一本でなんとか踏ん張る。そして、ハルクと目が合う。
「ナツ……。世の中には、お前が思っているより、強い奴がごまんとおるんや」
「何だと、てめぇ」
「じゃあ、行くでぇ」
そう言うと、ハルクは右拳をグイグイと押してきた。
俺は右足をあげたまま、後ろへ少しずつ押されていく。左足の踏ん張りが効かない? このバケモノ男、まだ本気じゃねえのか? そう思った時には、ハルクは右拳を最後まで振り切っていた。
俺はその衝撃にトラックに撥ねられたように、空中に浮かびながら、後ろへ飛ばされていく。ヤバい、死ぬ? 思わず、恐怖で声が出てしまう。
「うわぁあああああああああああー」
このまま、電柱に激突したら死ぬかもしれない。
しかし、悪運が強いのか、積んでいたダンボールの山に突っ込んだ。
「うぐっ」
痛てええな、クソがぁ。でも、なんとか生きている。
そう、ダンボールがクッションになり、なんとかダメージが半減したのであった。俺は大の字に寝た状態で、首だけを横に傾けた。ダンボールを見ると、シロネコ宅急便とかいてある。
すぐに、ドライバーらしき、オッチャンがこちらに来た。
「姉ちゃん、こんな所で遊んでちゃダメだよ。ああ、荷物が……」
この状況が遊んでいるように見えるのか、クソおやじ。
それから、潰れたダンボールを見て、すごく慌てはじめた。
「あっー、あっー。こりゃ、大変だ。お客様に怒られちまう」
ふざけやがって、俺を心配しろや。
いや、突っ込んだ俺が100%悪いのだけどさ。俺はなんとか、その場に立ち上がったのである。周りには散乱したダンボールの箱が沢山あった。
ハルクはこちらに歩いてきた。
「もう、十分やろ? もう、やめようや。慰謝料も弁護士を通して払ったる。ナツ、お前は強いで、このワシが認めたる」
コイツ、この俺に同情してやがるのか? クソ、クソ、クソ、なめやがってよ。
俺は口についた涎をスカジャンの裾で拭った。
「ハアハア。まだまだ、これからだぜ……」
「ナツ、ええ加減にせえよ」
俺はハルクの言葉を無視して、近くのダンボール蹴りまくった。無数のダンボールの箱がハルクに向かって、サッカーボールのように飛んでいく。
ハルクは手でそれを払うようにしていた。俺はそこで、ハルクに向かって走り出した。コイツの弱点はおそらく、顔面であるにちがいない。人間の顔や体の中心は鍛えられないはずだ。よし、ダンボールを手で払うので、顔面がスキだらけだ。
俺はハルクの近くの電柱をジャンプキックして、三角飛びという形で空を高く飛んだ。そうする事によって、ハルクの身長の高さをはるかに超えた。そして、ハルクの右頬に向かって蹴りを入れたのであった。ハルクの頬が凹んでいくのが分かる。
よし、今度は冷蔵庫にみたいに固くなく、人間を蹴った感触が感じられた。これでダメージを与えたはずだ。しかし、甘かったみたいだ。
ハルクの口から、少しだけ血が流れただけだった。
「なかなか、痛かったで」
「もっと、痛がってくれよ」
やばい、あんまダメージないな、どげんしよ?




